第38話
私は聖女イザベラ、癒しと光の力を持った乙女であり、教会からも認められて国の安寧を願って祈りを捧げる聖女なの。
遥か昔に、大いなる魔の王を倒した聖女が生まれた場所がヴァルカウス王国だから、癒しの力を持つ聖女が生まれるのはヴァルカウス王国だけって言われているの。
教会に通うようになって知ったんだけど、歴代の聖女様は王族に輿入れして、その癒しの力を王家に取り入れるような事もなさっていたのですって。
教育係の修道女さんは、魔力も少なくなった今の世の中では、聖女が王家に輿入れするなんて事は無くなったんだけど、もしもその制度が残されていたら、イザベラ様はこの国の王妃様になっていたのでしょうねって言ってくれたの。
「魔力が少ない世の中になったから、聖女が王家に輿入れする事がなくなったと言うけれど、大きな魔力があるイザベラ様だったら〜王家に輿入れする事もあり得るんじゃないですかぁ?」
私には神官と修道女が付いているんだけど、自分の事は自分でやれって言う人が多い中で、唯一、侍女のように私に仕えてくれるアリサが、羨ましそうに私を見ながら言うのだった。
「いいな〜、アルヴァ王子ってめちゃくちゃ美形だしぃ〜、隣に置いたらみんなが羨ましがるだろうし〜、誰も馬鹿にしなくなるし〜、毎日のご飯は豪華絢爛だろうしー〜」
「でもね、アルヴァ殿下は15歳、私よりも7歳年上なのよ?」
「7歳差なんて王族じゃ普通ですよ〜」
「でも、殿下には婚約者がいるじゃない?」
「所詮は政略結婚ですし、お二人の仲は悪いって噂じゃないですか〜」
そうだったかしら?
「王子様と聖女の結婚なんて民衆も喜びますし!教会と王家の仲も良いんですよってアピールが出来て一石二鳥じゃないですかぁ!」
そうなのかしら?そうかもねぇ、確かに・・そうかもしれないわよね!
私はスーリヤ姫のお友達として王城にあがる事も多いし、殿下に対してラブラブアピールをしたら良いのよね。
お菓子の差し入れをする為に殿下の執務室を突撃しても、私は8歳だから、みんな、温かい眼差しで見守ってくれるのよね。
「お兄さまのお仕事の迷惑になる!」
と、スーリヤ様は言うけれど、
「憧れの存在なのですものぉ」
と答えて顔を赤めれば、スーリヤ様はため息を吐き出しながらも、それ以上は何も言わないのよ。
このままアタックを続ければ、最初は妹みたいな存在でも、そのうちに私の事を気にするようになるのかも。そう思っていたのだけれど、聖女である私は王城にあがれなくなってしまったのだった。
理由は、殿下の婚約者様が教会派の人間に誘拐されたから。
教会の所属である私は、例え癒しの力を持った聖女であっても、王城に上がる事は許されない。教会を信奉する貴族も同じで、次々と王城から退けられていく。
理由は、王太子の婚約者であるイスヤラ様を守らなければならないから。なぜ、イスヤラ嬢を守らなくてはならないのかというと、彼女が『予言の聖女』だからなのですって。
「イザベラ様、お手紙には何と書かれていましたか?」
今、私は、祭司長様や神官様たちを助け出すため、多くの人に請われて、神の癒しを与えている。
城壁に囲われる王城の中には祭司長様たちが囚われていて、私たちはすぐにも救出しなければならないのだけれど、城壁を登ろうとするだけで石を投げつけられるわ、油を投げかけられるわ、その上火矢を射られるはで、なかなかうまくいかないみたいなの。
私たち信徒は神の御使いである祭司長様や神官様をお返し頂きたいだけであって、王家を潰そうと考えているわけではないって、お手紙に書いてスーリヤ姫に送ったんだけど、スーリヤ姫からの返書には『早く逃げ出しなさい』と書いてあるだけで、他には予言の聖女様がどれだけ素晴らしいのかっていう事を、まるで当てつけのように書いてあるだけなの。
「こちらの兵士たちが食糧を調達するために街に行って奪い取るような事を続けているから、公爵領では王都からの避難民を受け入れる事にしたんですって。食糧不足の王都へパンを送っているのも公爵様らしくって、王城内ではイスヤラ様の名声は上がるばかり。それに比べて癒しの聖女は一体何をしているんだって書いてあるわ」
癒しの聖女である私は、城壁で怪我を負った人たちを癒しているんだけど、それだけじゃ駄目って事なのかしら。
スーリヤ姫の言葉って、いっつも小難しくて理解できない事も多いのよ。
「アテネウム侯国を動かした上で即座に王都を制圧したというのに、肝心の王城は籠城戦へと持ち込まれてしまったからな。ヴァルカウスの王城は半年以上は籠城出来るっていう噂じゃないか?ちょっと話が違うんじゃないのか?」
この方、レイヴィスカ教の熱心な信徒で、今回、拉致された祭司長様を開放するためにわざわざアテネウムからやっていらっしゃったのですって。
「ヴァルカウス王国の近衛はカスほど役に立たないって聞いていたんですけど〜、まさかこんなに抵抗するっていうかぁ、底力があるっていうかぁ、こっちも驚きっていうかぁ」
アリサがハアッとため息を吐き出す。
アリサも熱心な信徒なので、早く神官様たちを助け出したいのですって。
「やっぱり予言の聖女が邪魔っていうかぁ、城内の士気をあげているのも予言の聖女さまなのでしょ〜」
「王子は死んでないと断言したらしいからな。下働きと一緒になって働きながら籠城して王子の帰りをひたすら待つ、婚約者の鏡とか言われているらしいぞ?」
「えーーーー〜?超うざいんだけどーー〜?」
この婚約者様の所為で教会に関係する人たちが王城から排除されて、祭司長様や神官様たちが囚われの身になったのですものね。
「聖女様!お助けください!また怪我人がたくさん運ばれてきたんです!」
天幕に飛び込んできたのは聖騎士と呼ばれるようになった方々のうちの一人で、
「ヤスペル・パロは悪魔だ!あいつの所為で仲間が死んだ!」
と言って大泣きをし始めました。
なんでも、苦労の末に城壁内への侵入口を見つけたそうで、部隊を率いて突撃したところ、近衛隊長の罠にまんまと引っかかって甚大な被害を出す結果となったのだそう。
「わかりました!すぐに怪我人の元へ向かいます!」
私はそう言って立ち上がりながら、
「やっぱりこの戦い、早く終わらせなければなりませんよね」
拳を力いっぱい握りしめました。
尊き人を助けるために己の命を差し出すようにして戦う人も、それで怪我をする人も、もう見たくありません。
この戦いが長引けば長引くほど、私たちの食料はなくなって困る事になるということも知っています。
早く戦いを終わらせて祭司長様を助けだし、皆が幸せになる道を進みたいと思うのに、王城はあと半年以上は籠城できると言っています。
半年間、待っている暇がありま。
「私、予言の聖女様と直接お話したいと思います」
「はあ?何言って・・・」
レイヴィスカ信徒のアテネウム人の口をすかさずアリサが塞ぎます。そうして、アリサは励ますように私を見つめながら、
「何か策があるんですか?」
と、優しく問いかけてきたのだった。
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