第30話
「どうするのイスヤラ?貴女はどうしたいの?」
「お母様・・・」
「王は私たちの好きにして良いと言っているの。私の心は決まっているけど、貴女はどうしたい?」
どうしてこんな事になっちゃったのかしら?
今頃は、第二王子の派閥の力が強くなってきて、王妃教育で城にあがると、対抗派閥の貴族令嬢たちから、嫌味、嫌味、嫌味、嫌味の嵐で、精神的に疲弊しきった私を殿下は基本的にはいつでも放置。
殿下は年の近い側近たちと城下町まで抜け出しては、社会見学だとか、後学のためだとか言って遊びまくっていたはずよ。こんなおちゃらけ王子が王位についたら国が滅びるとか何とか言って、第二王子派が気炎をあげていたはずよ。
「そもそも、スヴェン皇子が私の事が好きって本当なのですか?」
3歳とか5歳とかに会って、最後に会ったのは8歳だったと思うのだけど。
「確かに誕生日にはプレゼントを送ってくださいましたわ。だけど、従妹だから気を遣って送ってくださったと思っていたのですけど」
「今年の皇子からの誕生日プレゼントは翡翠色のドレスだったわよね?」
「そうでしたね」
「翡翠色ってスヴェン皇子の髪の色よ?」
だから何?って感じでしょうよ。
「スヴェン皇子がそこまでイスヤラと結婚したいと思っていたなんて知らなかったのよ?確かに、子供の頃には貴女と結婚したいなんて行っていたのは知っているけれど、結婚したところで帝国には何のうまみもないんですもの、他の女性が選ばれるんだろうなあと思っていたのだけれどね?」
「お母様、本当に帝国はヴァルカウス王国を滅ぼすつもりなんですか?」
「そこも分からないのよね」
母なりに独自の伝手を使って帝国に探りを入れているのだそうだが、詳しい所は全く良く分からないらしい。兄である皇帝も、当たり障りのない文面を送ってくるだけで、母に国外に出るように等とは記してきていない。
ただ、里帰りをしたいのなら、いつでもこちらは待っているとだけ書かれていた。
「深読みは出来ないけれど、帝室は王位の選定の為の儀に入っているのかもしれないわね」
「お母様、どういう事ですか?」
「スヴェン皇子は十五歳、成人を迎えたという事だから、今後の御働きによって皇帝として適しているのかどうかが判断される事になるの。今、ヴァルカウス王国をどうするのかっていう事に対しても皇子の差配が注目されていて、周囲は見守っている状況なのかもしれないわ」
「好きだとか何とか適当な事を言って、私の存在を王国支配の為の言い訳に使おうとしているのなら、私は皇子を絶対に許すことが出来ません!」
「あら!それは私だってそうよ!」
母は扇をパタパタパタと扇いだ。
「愛する夫が大切にする祖国を滅ぼすなどと、私が許すわけがありません!」
ヴァルカウスの王と王弟は、人質としてはこれ以上ない存在だと言える母と私を、あっさりと手放す覚悟を決めていた。
私たちの安全を最優先に考えて、帝国への帰国を促す姿勢に母は感銘を受けたらしい。
「私はヴァルカウス王国に残ります、死ぬなら夫と一緒と、嫁ぐ時に決めていたのですからね」
「相変わらずラブラブですね」
「それで貴女はどうするの?殿下は我が身可愛さに、帝国へ貴女を献上するような事をするかもしれないでしょう?殿下と一緒に帝国へ行く事になるのかしら?」
普通だったら、保身のためにスヴェン皇子に私を差し出すのでしょうね。
私一人を差し出すだけで国が助かるのなら、その道を選ぶのは当たり前だし、妻と望む私が帝国に移動してしまったら、スヴェン皇子が王国を滅ぼす理由がなくなる事になる。
「今の時点でスヴェン皇子が私に結婚を申し込んでいるのなら、私は帝国に赴きますよ。だけど、そんな申し込みなんてないのが現状ですし、そんな状況で私がのこのこ帝国に行ったら人質になってしまうのは目に見えているじゃないですか?それに絶対に、殿下は私を帝国にはやりません」
覚えてないけど、過去2度に渡って帝国方面に向かっている最中に私は死んでいるのだもの。東は鬼門、死にたくないから帝国には行きたくない!
「私は殿下を信じます!殿下が帝国に行けと言うなら行きますけど、絶対に!殿下はそんなことは言いません!」
だって、そこで私が死んだら、殿下はひとりぼっちでループする事になるんですからね!
「まあ!イスヤラったらそこまで殿下の事を信じているのね!」
私たち夫婦と同じじゃない!みたいな事を言われたけど、残念ながら殿下と私の間には、男女の愛情っていうのはないと思うのよ。
そもそも殿下は心が壊れて人を愛するってどういう事か分からないって言うし、私は私で、恋愛とか全然分からないうちに、いっつも裏切られてギロチンだったし。
あーー〜、愛ってなんなんだろうなーー〜。
「とにかくイスヤラも帝国には行かないのね?」
「はい!」
「だったらその事をお父様にお話ししないと・・・」
「お母様、お母様にはお父様が居ていいですね」
「ええ!そうよ!」
母は美しい顔に満面の笑みを浮かべると、
「イスヤラにはアルヴァ王子がいるでしょう?」
と言われて困惑した。
そういえば殿下は一人で帝国に渡るって言っていたわよね、帝国って処刑の一つにギロチン刑があったはずよ。
殿下はギロチン以外で死なないって威張って言っていたけれど、ギロチンがある帝国まで行って本当に大丈夫なのだろうか?
「お母様、私も伯父様にお手紙を書いても良いでしょうか?」
「何を書くつもりなの?」
「殿下をギロチン刑にするのだけはやめてくれって、嘆願しようかと思うのです」
母はしばらく考え込むと、
「それは良いアイデアかもしれないわね!」
と、朗らかに言ってくれた。
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