第29話

「ねえ、グスタフ、本当に酷いと思わない?」

「ええ、本当に酷いと思います。我々黒龍騎兵団は殿下と共に帝国の本拠地まで赴く準備が出来ているというのに、国境で待機と言われました」

「そこじゃないでしょ?親善大使とか意味分かんなくない?なんで僕が帝国に行くのが大前提なのかな?僕まだ十五歳だし?大国相手に腹芸とか出来るわけがないよね?」

「殿下なら出来ると信じております」

「何が出来ると思ってんの?」

「腹芸」

「無理無理無理無理無理無理!」


 みんな、僕の事をなんだと思っているのかな?

 この前、成人したばっかりの十五歳、王家の血を引くとはいえ、十五歳の若造がうちの国土の何倍にもなる帝国相手に、腹の探り合いをして帰って来られると本気で思っているのかね?馬鹿じゃないのかな? 


「ですがね、殿下は逃げ足だけは早いじゃないですか?」

 グスタフはテンペリアウキオ戦で、僕がさっさと後方へ逃げて行った事を、いまだに根にもっているのかな。

「我々は国境にて殿下のお帰りをお待ちしておりますので、何かあれば逃げ帰ってくれば宜しい」

「グスタフ、あのね、随分と簡単に言うけどね?」


 ヴァルカウス王国の王宮じゃあるまいし、帝国の宮城から僕如きが逃亡なんか出来るわけがない。ずぶずぶの警備の我が国とは違って、あちらさんはガチガチの警備をしているんだろうから、即捕まって首チョンパ、あーーーー〜嫌だーーーーー〜。


 帝国行きが決まり、落ち込んだ僕は気晴らしがてらに遠乗りに行っていたわけだけど、王城に近づくに従って、なんだか騒がしくなっている事に気がついた。

 進んでいく先に、百頭に近い馬が城門前を塞いでいる。

「アルヴァ王子――――!グスタフ殿―――――――!」

 白馬に跨った大男が、こちらに向かって手を振りながら大声をあげている。

「アメフトジャンの奴、随分、早く到着したな」

グスタフはニヤつきながら呟いたけど、僕の帝国行きが決まって即座にヴィルカラ領へ急使を送りまくって、馬と一緒にアメフトジャンとその側近たちをグスタフが呼び寄せたのだ。


「ハルカラ山からわざわざ軍馬を連れてきてくれたんだなぁ」

 遊牧民族の彼らが育てる馬は非常に優秀な軍馬となる。馬力はあるけど足が短くて機動力に欠ける帝国の軍馬と比べると格上の戦力となるため、グスタフは僕の危急に対応する為にと呼び寄せてくれたのだ。


「僕、生き残る事が出来るかな?」

「もちろん、英雄は死にません!」

 グスタフは胸を張って言っているけど、英雄と呼ばれる人たちって結構な確率で若いうちに死んでいるよねえ。

「まあ、死なないんだったらいいんだけど・・・」

とりあえず気を取り直した僕は、アメフトジャンに向かって馬を走らせたのだった。


 どうやら、帝国は我が国を滅ぼすつもりでいるらしい。

 いや、本当に滅ぼすつもりなのか?

 現在の皇帝は穏健派で、先代が戦で広げた国土の統治を安定させようと腐心しているところで、新たな領土には目もくれないって話だったんだけどなあ、何かきっかけがあって心変わりでもしたのかなぁ。


 過去6度では、今みたいに西からアテネウム侯国、東から帝国から攻め込んで来るかもしれない、なんて状況はなくて、側妃が産んだエリエルを擁立する派閥が力をつけてきていて、僕、やべえな〜みたいな、国内で手一杯みたいな、あんまり深い事は考えないで遊んでいたいな〜みたいな感じだったと思うんだけど。


「グスタフ、アメフトジャン、用意は出来たか?」

「いつでも出発できますぞ!」

「それにしても、俺たちを連れて行って大丈夫なんだろうか?」

「大丈夫に決まってるだろ!」

 帝国に行くのなら、その前に絶対に行かなければならない場所がある。


 時間もないので、騎馬民族と脳筋兵団をひき連れて、強行軍で馬を走らせる。

 金を使って替え馬もバンバンやって、通常、十日は移動にかかる所、たった五日でテンペリアウキオの首都、バザーナに到着した。

 昼も夜も馬を走らせた。

「殿下!お疲れにならないんですか!」

なんて何度も言われたけど、敵を迎え撃つ為に国を横断しまくったあの時代よりかは全然マシだよ。だって行先はひとつしかないんだし。


 テンペリアウキオ首長国は複数の部族が集まって作り上げた国であり、遊牧して暮らす人々の中には、都市部に定住して生活する人々もいる。

 交易の中心地となるバザーナを統括するのが最大の首長アブドゥマルクであり、首長の息子であるジナイダは、戦に負けた時に地面に頭を擦り付けていた奴のこと。


 超インテリで最高の軍師であるジナイダは、

「カピア族を手に入れたっていうのは本当の話だったんですね!」

驚きと共に、僕とグスタフ、アメフトジャンとその部下を迎え入れたのだった。

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