第22話

「イスヤラ、どお?僕の格好?変じゃなあい?」

「え?変じゃないですよ?格好いいじゃないですか!」

「イスヤラも可愛いよ!すっごく可愛い!」

「まあ!褒めてくれるなんて珍しい!殿下も成長したのですね!」

「いやいや、これでも毎日褒めまくっているつもりなんだけどなぁ」

「ええええ?そうでしたっけ?」


 僕は十五歳だからイスヤラは十四歳。ループ前の僕らだったら、こんなに砕けた調子で会話をした事など、ただの一度もなかっただろう。

 誘拐事件で誤解を解きあった僕らは、とにかく、細かいことでも何でも話して行こうと決め合った。


 離れ離れとなっていた時に、どちらかに何かが起こったとしたら、到底正気ではいられないと互いに思い、可能な限り一緒に居る事を互いに約束し合った。


 言葉遣いについても、よっぽどフォーマルな場でない限り、気取らない砕けた調子でやっていこう。王都に戻れば文句や嫌味を言う奴も出てくるだろうが、とにかく僕らの間で最も重要なことは、互いに死なない。とにかく、死なないが一番なのだから。


 命が掛かってるのに、気取った態度に終始している場合ではないと話し合った結果、周りは生温かい目で見るようになったんだけど、そんなことは全て丸っと無視をする。


「今日はカピア族の族長が領主館までやってくるのでしょう?確か、カピア族は傭兵集団として有名だったような?」

「そうそう、今はその傭兵集団になる前の段階だよね。今まではアテネウムに取られていたけど、今回は是非ともこちらに取り込みたい」


 蛮族を我が国へ受け入れるという事で、領主館に呼び寄せた部下と僕との間に軋轢が生じる事もあったんだけど、カピア族を受け入れる利点と受け入れなかった場合どうなるかを並べたて、最後にはイスヤラの予言で受け入れるべしとのお告げがあったと宣言する事で、ようやっと皆が納得する形となったのだ。


 相手は騎馬民族なので、僕らも王都から送ってもらった新品の乗馬服に着替えて、馬に乗って出迎える事になっている。

 本来なら僕の婚約者であるイスヤラはドレスで出迎えるべきなんだろうけど、ドレスで女座りの乗馬を、あちらが気に入る事はないだろう。

「だったら乗馬服で構わないです!」

とイスヤラが言ったから用意したけど、すらりと背の高いイスヤラにはパンツスタイルがとっても良く似合っている。


 美少女のパンツスタイル、良いな〜、なんて思いながら厩舎へと向かい、領主館に残っていた黒龍騎兵団と共に、領境まで迎えにでる。 

 騎馬民族はプライドが高いから、最初の一発目でこちらの誠意を見せないと、後々もの凄く後悔する事になるということを、僕は過去の人生で何度も経験しているのだ。


 過去、4度もお妃教育をしている(本当は6度だが)イスヤラは乗馬も得意で、男乗りでも女乗りでも十分にできる。今日は男乗りで僕の横に馬を走らせているけれど、彼女の為に、女性用の革鎧を作っても良いんじゃないかなぁと考えた。

 革鎧だったら重くないし、見栄えもするし、太陽の陽を浴びてキラキラ光る銀の髪を生えるようにするのなら、黒龍騎兵団と同じく黒で揃えるのも格好良いかもしれない。

 いや、逆に白で揃えて清楚さを全面に出すのもアリだな。


「殿下、殿下は過去にカピア族に会ったことってあるんですか?」

 イスヤラが周りに聞こえないように気をつけながら声をかけてきた。

「あるよー」

 捕まって殺されそうになった事が過去に3度、あの人たちの恐ろしさが自国のものとなるのなら、百人でも二百人でも病人を受け入れる覚悟が僕には出来ている。

「強いんですか?」

「無茶苦茶強いよ〜、お腹いっぱい食べたテンペリアウキオ首長国連合軍よりも強いと思うもの〜」

「えええ!本当ですか!」


 族長のアフトメジャンって奴が化け物並みなんだよな〜、多分、うちのグスタフと同格レベル。黒い悪魔と同レベルだからね〜、欲しいよねーーー。


 百騎の騎兵団に囲まれながら馬を走らせて2刻程度、境の森の少し手前のところで、真っ黒で大きな馬に乗っているグスタフの姿が見えてきた。

 そのグスタフの横には、真っ白で大きな馬に跨っている民族衣装を着た男がいて、挑むようにして胸を張っているのが良くわかる。


 少し手前で馬をとめると、馬上のままで、

「我、ステラン三世が息子アルヴァ・ヴァルカウス、ヴァルカウス王国王子なり!」

名を告げて自分の胸を拳で2回叩く。これが騎馬民族の正式な挨拶だ。

「我、ジャンサヤが息子アフメトジャン、亡きゴーガ、亡きラハトに代わり、一族を率いる者なり!」

アフメトジャンもまた、胸を拳で2回叩いた。


「我が婚約者、イスヤラ・エーデルフェルト。花のように可憐で、カランガの湖の女神のように心美しき女。光の神レヴィスカの僕であり乙女であり、我が心臓と同じもの!」


こんなに褒め称えるくらい素敵な婚約者なんです。そんな彼女を紹介するほど、貴方の事を大切にしているんですよアピールがうまくいったようで、とりあえず、一悶着起こさずに移動する事が出来たようだ。


「ちょっと!私の紹介で!なんであんなに美事麗句を並べたんですか?」

 馬を走らせながら、恥ずかしそうに顔を赤めるイスヤラが可愛い。

「だってその通りでしょう!花のように可憐で、女神のように心美しく、光の神の乙女みたいじゃないか」

「やめてください・・何も出ませんよ・・」

 顔を真っ赤にしてそっぽを向くイスヤラはやっぱり可愛らしい。

 ループ前の僕は、なんでこんな可愛らしい女の子を放置していたんだろうか。


 ハルカラ山の麓に広がるヴィルカラ領は丘陵地となっているため、酪農が盛んに行われている。小さな盆地に領都が作られているので、城壁に近づいてくると人口密度も多くなる。

 何せ王族である僕と蛮族と言われたカピア族の族長が通りかかるものだから、興味津々となって沿道に人が集まっているのだ。


「蛮族はヴィルカラに入ってくるな!」

「蛮族はヴィルカラから出ていけ!」


 百姓姿の男が石を一つ投げると、同じように石を拾った民衆が、僕が居るのにも構わずに石を投げつけてきた。

 前に走り出たグスタフが大剣で投げつけられた石を弾き飛ばすと、

「きゃあああああああ!」

と、悲鳴をあげながら沿道の人々が尻餅をつく。


 ちょっと困った様子でイスヤラは僕の方を見ると、羊飼いが吹く呼び笛を高らかに鳴らした。驚いた様子の民衆までこっちの方へと集まってくるのは、羊飼いの呼び笛効果なのだろうか?


 真っ青な顔をしたアフメトジャンが剣の柄に手を置いたので、僕は視線で彼やその側近の動きを制すると、打ち合わせ通りに黒龍騎兵団が大きな馬で威嚇するように、民衆スレスレの位置まで闊歩する。


「我、ステラン三世が息子アルヴァ・ヴァルカウス、ヴァルカウス王国王子なり!」


鎧に立ち上がりながら、遠くまで声を響き渡らせる。


「先の告示で全てのことは知らしめたつもりであったが、知らぬ者も居ると思うので改めて説明する!ヴィルカラの領主ヨーナス・ヴィルカラは我が国を裏切り、隣国アテネウムの手先となって我が王家に仇なした!領主の罪は領民の罪!王家はヴィルカラの民を蛮族として扱い、鉱山への強制労働のため、領民全ての移動も考えた!」


お前らの領主の所為で、王家はここまで頭に来ているんですよアピールをした後で、

「しかし私は蛮族などという扱いは好まぬ!人は全て人!同じであると考える!王家もヴィルカラの民も、また、今まで蛮族として謗られたカピア族も同じ人である!人は隷属すべきものではないと説得した!だが、このようにヴィルカラの民が蛮族と騒ぐのならば!やはり王家の言う通りにすべきであるのか」

迷っちゃうな〜アピールしました。


「光の神はおっしゃいました、人は皆同じであると!国を違えども、見かけが違っていたとしても!人は皆同じであると!」

 我が光の乙女は声まで乙女だよね。

「我々黒龍騎兵団は、カピア族も、そしてヴィルカラの民も同じ守るべき存在だと考えております!」

 騎兵団長!乗ってるねー〜。


「民に問う、ここに蛮族はいるか?」

 首を横に振ってるね〜。

「人は皆同じであるのか?」

 首を縦に振ってるね〜。

「ならば我は今一度、ヴィルカラの民を信じよう!」

 わーーーーーーっとか盛り上がっているけど、これ、茶番でーーーーーす。


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