第4話
その後、殿下は何をどうやったのかは分からないんだけど、自分の父親である陛下を説得して、魔法契約書を用意する事に成功した。
承認者として我が国の法務大臣まで呼び出して、契約書の項目に『甲(殿下)は乙(私)に対して、絶対にギロチン刑に処するという行為には及ばない』という内容のものを堂々と記して周囲をドン引きさせたのだった。
集まった大人たちは『なんでギロチン?』とは思うものの、その内容を陛下も認めたというのだから、納得するより仕方がない。
そもそも『ギロチン刑』に処するという事はエーデルフェルト公爵家を断罪することを意味しているので、絶対に公爵家を裏切りませんよという証を殿下は用意したのかなぁ・・・みたいな感じで捉えたみたい。
殿下が無理やりのゴリ押しで魔法契約書を結んでくれたのだから、私も私でやるべき事をやらなければフェアじゃないだろう。
そこでまず最初に始めた事は、
「お母様が無くしたおばあさまのネックレス、ワルデン侯爵夫人が持っていらっしゃるわよ」
お母様がこの国へ輿入れの際に持ってきた、おばあさまの形見の品の所在を教えること。
「は?ええ?イスエラ?何を言っているのかしら?」
「ワルデン侯爵夫人って昔、お父様に恋をしていたそうなのよ。そのお父様を奪われたのが気に食わなかったようで、侍女を使ってお母様がお輿入れの際に盗み出す事に成功したのよ。その侍女はすでに辞めて当家にはいないけれど、盗んだのは侯爵夫人お気に入りの侍女の妹だから、そこから攻めていけば取り返すことが出来ると思うわ!」
私がギロチン台に上がる時に、ワルデン侯爵夫人の首元を飾っていたのが問題のネックレスだったのよ。エーデルフェルト公爵家は没落したのだから、夫人は堂々と盗んだ品を身につけた。誰も咎める者はいないだろうと高を括っていたみたい。
「お父様、お父様の弟となるツォーマス卿が夢に出てきて助けを呼んでおりますわ。南部の港町クオピオの平民用の医務院でお世話になっているのですけれど、そろそろそこも出て行かなければならないようですわね」
2回目だか3回目の時に、問題となるアリサ・ハロネンを早めに確保してやろうと大金を使って人に探させたところ、叔父様だけは見つける事が出来たのよ。
結局、私が直接会いに行ったのだけど、叔父様は高いプライドから、公爵家に帰る事は選ばなかった。そうしてクオピオで亡くなったのだけど、予言として使わせて頂くのに何の問題もないわよね。
予言の結果を知る事になったお父様とお母様は、震えながら私を抱きしめて、
「イスヤラ、あなたは予言の聖女なのかもしれないわ」
と、言い出した。
私が『傾国の美女または魔女』を帝国の力を使って調べたいと言い出した時には二つ返事で了承してくれて、
「きっと神が娘を使って啓示なさっているのよ」
と、言い出した。
魔法や魔術については我が国よりも特化している帝国では、専門的に魔法や魔術の歴史を調べる部署などもあり、お母様に聞いてみたところ『傾国の美女(または魔女)』というものの討伐方法について調べることは難しい事ではないだろうと言っていた。
結局、創世の歴史からひっくり返す大仕事となったようで、どうしたら対処できるのかという事を調べ上げるまでに何年も要する事になってしまったのだけど。
また、私が『予言の聖女』なんて言われている頃には、殿下も、何度も人生をループしているチートを利用して、十二歳にして鬼才、神童、天才軍師などと呼ばれるようになっていた。
調度、この頃には、北の隣国テンペリアウキオが凶作と食糧危機が原因で我が国の領土へ侵攻してくる事がわかっていた為、自ら兵を率いてテンペリアウキオ軍を撃破。
この年の王国は豊作だった為、安価で大麦を敵国に売りつけ、和平交渉の際にはテンペリアウキオ国内で採掘される鉱物の独占購入契約を結び、関税の撤廃を盛り込んで調印させて、大人たちを大いに驚かせたのだった。
たった一人の甘ったれた王子が、公爵家の令嬢との婚約が決まってから突然様変わりをする事となったので、何故だか私のお株もうなぎ登りで上昇中。
私たちはお互い、込み入った話をする事も多いので、可能であれば週に一回は会うようにしているし、我が公爵家を使う時には庭の東家を必ず利用するようになっている。
テーブルの上には大小様々の美しいお菓子が並べられ、紅茶を淹れた後は侍女もかなり離れた場所に移動して待機をしている。
最近は私も殿下も相当評判が良いので、侍女たちも安心して見守っているという状態なのだ。
「それで?ツォーマス卿の方はどうだったんだい?」
ツォーマス卿とは父の弟で、私の叔父の事を言う。
「あら!やっぱり殿下はアリサに早く会いたいのですね!」
「はあ?」
「だって私の叔父はアリサの父親という事になりますもの」
「まさか!そんなバカな!」
真っ青な顔になった殿下がブルブルブルブルと小刻みに震え上がる。
「君はあの恐怖がわからないから、そんな冗談も軽々しく言う事が出来るんだ」
殿下といえばアリサ、アリサといえば殿下。愛しい人を求める眼差しが蕩けるようだったのに、今は言いようのない恐怖が紫の瞳の中で踊っている。
「まあ、今は恐怖でも、出会ったら愛に変わるのでしょうし」
「怖いことを言うな!僕は死んでも顔を合わせる気はないからな!」
「とりあえず今の婚約者は私ですし、一応の所はそういう事にしておきましょう」
くちゃくちゃになった殿下の顔を見つめながら、王族ってこんなに表情豊かだったかしら?と謎に思う。
「とにかく、叔父は領地の別荘で養生をしております。肺を患っているので空気が良いところの方が良いそうなの。お薬も効いているようで、回復する見込みはあると太鼓判をもらっておりますわ」
「それで?アリサの方は?」
怖いけど知りたい、みたいな感じで私を見るのはやめてほしい。
「やっぱり、今回の生でも、今の時点では叔父様と一緒には暮らしておりませんでした。彼女が三歳の時に奥様が男を作って娘ともども家出をしているので、現在、どこにいるのか分かりません」
「ハロネン男爵の方は?」
「アリサやその母親からの連絡はないみたいなので、彼女が十五歳になるまで待つしかないのかも・・・」
アリサ・ハロネンは社交界にデビューするために王都へと現れる。
ハロネン男爵は王都にタウンハウスを持っていないため、公爵である私の父にアリサの事を相談する事になり、父はアリサの後見人になる事を了承する事になる。
アリサがデビューした時に叔父は亡くなっており、叔父の忘れ形見であるアリサの面倒を見るのが自分の役割だと考えたらしい。
こうして破滅の種を自ら引き入れてしまったのが公爵家の没落の始まりだったのかもしれない。
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