第2話
罵声を浴びている間に首が跳ね飛んだ。
誰の首が跳ね飛んだって?それはもちろん、僕の首なのは間違いない。
今回も最後には運命に逆らう事が出来ず、ギロチンで首を切断される事となった僕は、憎しみを込めて最後まで睨みつけてくる弟の姿を空中から見つめていた。
反乱軍を自ら率いて王都を制圧したエリエル第二王子は、王城で権力を奮ってきた貴族たちの処分を断行し、貴族ではなく民衆が統治する新たな国作りを目指して動き出す。
勝手に婚約者との婚約を破棄して、一部の貴族だけに恩寵を与えるやり方で王国に混乱をもたらした。そんな罪でギロチン刑となった事もあるし、スカルスガルド帝国に攻め込まれて征服され、ギロチンかまされたことも数回。反乱軍にギロチンされるのはこれで2回目、実はこれで首を落とされるのは6回目という事になる。
ギロチンは嫌だ、ギロチンをくらうまでにめちゃくちゃな拷問を受けることになるから本当に嫌だ。ギロチンをくらうくらいだったら、戦で首を落とした方がまだマシだと思って何度も自ら志願して戦争に行ったけれど、最後の最後はギロチンだよ。
ああーーーー!もう!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!
何度同じ事を繰り返さなければならないんだ!何度首を切り落とされれば、このループは終わるのか!
「で・・殿下、私は・・私は・・ギロチン4度目でした!」
月の光を溶かしてしまったような銀の髪の毛に金色の瞳を持つ、職人のあらゆる技術を集めて丹念に作り上げた美しい人形のような顔立ちをした少女が、緑色の葉っぱまみれの状態で言い出した。
「多分4度、ええ、4度です、4回目の首をバーンッとやられて今ここです、つまりは5回目の生を生きている感じです」
エーデルフェルト公爵家の令嬢、イスヤラ・エーデルフェルトがそこに居た。
イスヤラが何を言っているのかは良く理解できなかったが、とにかく、ざまあみやがれと言いたいらしい。
あからさまにこちらを侮辱する草まみれの少女に周囲は驚き、衛兵は取り押さえようと前へ進み出てきていたのだが、イスヤラは周りの大人など気にした様子もなく、大人顔負けとも言える美しいカーテシーをしながら、
「帰って公爵である父にこの旨を説明し、殿下との婚約の辞退を話し合おうと存じます。では失礼」
と、言い出した。
彼女は僕と同じくループを繰り返している。
しかも、国から逃げ出そうとしているんじゃないのか?
逃してたまるか!絶対に!
心配をする周りの人間に笑顔を浮かべながら、僕はまず、公爵との話し合いの場を設ける事として、今日はイスヤラとの始めての顔合わせだったのだが、彼女が緊張のあまり、後ろに蹴躓いてひっくりかえったことを説明。淑女としてありえぬ有様に公爵の顔は一瞬真っ赤に染まり上がったのだが、僕はその姿をとても可愛らしいものだと感じた事、とにかく彼女は『初対面による緊張』が酷かったようだが、僕が彼女の事をとても気に入ったこと。恥ずかしがってすぐに帰ってしまったのだが、怪我をしていないかとても心配なので、公爵には同道させてもらって、短い時間で良いからお見舞いをしたいという旨を説明がてら、
「あ、公爵、そこの書類、2枚とも間違いがあるよ」
と、指摘して、僕は彼の執務室から移動する事にしたのだった。
お見舞いといえば花束で、母上に許可を得て、王宮庭園の見事な薔薇の花で花束を作り、公爵と共に王宮から公爵邸へ移動した。
逃げ出そうとするイスヤラを捕まえて、公爵邸の庭園にある東屋にお茶の用意をしてもらい、話が聞こえない程度までお付きの者には離れてもらう事とした。
明らかに不快な表情を満面に浮かべている彼女の顔を見つめながら、先制攻撃をする。
「君、隣国に移動なんてしたら、移動中に死ぬ事になるよ?」
「はい?え?えええ?なんで?」
「覚えていないの?」
「はい?」
「君、僕との婚約が解消となって、即座にスカルスガルド帝国に移動しようとしたみたいだけど、国境近くの峠で盗賊の急襲を受けて、谷底に落っこちて死んだじゃないか」
「は?谷底?」
「それ以外も、僕との婚約解消が決まるとすぐに、帝国との国境近くにある修道院に行くことを決めて、その移動の最中にも襲われて死んでいたよ」
「ひいいいいいいいいいいっ」
イスエラは乙女とは思えない顔で、乙女とは思えない声をあげる。
「わ・・わ・・私は、ギロチンで4回死んでいて・・・」
「ギロチンでも4回死んでいるよ?だけど、ギロチン以外でも2回死んでいるんだよ。もしかして、ギロチン以外は覚えてないの?」
「・・・・・」
どうやらギロチンで死んだ以外の事を覚えては居ないらしい。
「で・で・・で・・で・・で・・・で・・・」
「何?なんでも答えるよ?」
「ででで・・で・・・殿下もギロチンで死んでいるんですよね?」
途中までは緊張そのものの顔だったのに、ギロチンのところで、どうしてもこみ上げてくる喜びが我慢できないって顔で彼女は僕を見る。
「そうだよ、僕はギロチンで6回死んでいる。君の言うように、自分の有責が一回、他国に侵略されてが3回、反乱軍に占領されてが2回かな」
「ふふふ・・ザマア・・・」
むちゃくちゃムカつくけど、毎回、イスエラにギロチン刑を命じていたのは僕だからね。ここは甘んじて彼女の言葉を受けようじゃないか。
「とりあえず言っておきたい事があるんだが、僕は、君を毎度、ギロチン刑に処している訳だけど、その頃の記憶はいつも混濁していてよく覚えていないんだ」
「はあ?」
「いっつも君が首を切り落とされたところで、僕の記憶は戻ってくる。今回、このように早くから記憶が戻るのは初めての事なんだ」
「ええええええ?そうなんですか?」
イスエラは淑女とは思えない顔で驚き、大きな声を挙げているので、周りにいた侍女たちが失神しそうになっている。
まあ、わかるよ。刑に何度も処されていると、マナーとかどうでも良くなってくるよな。
「僕の記憶がぼんやりとして、知らない間に君が刑に処される事になるのには、どうやら傾国の美女が関係してくるようでな」
「傾国の美女ってなんなんですか?」
「傾国の美女とは、我々がつけた俗称みたいなものだな」
「あれですよね?傾国の美女っていうのは物凄い美人で、王様に取り入って、贅沢の限りを尽くしていくから、国庫は空っぽ、国は傾き、あっという間に瓦解して、国は滅びてなくなったっていう、国を滅ぼす悪女的なあれ!」
「悪女なのは間違いない、しかも、人心を操作する力を持った魔女だ」
「アリサ・ハロネンが魔女?」
アリサ・ハロネン、家出したエーデルフェルト公爵の弟とハロネン男爵の娘との間に生まれた娘であり、前ハロネン男爵の孫という立場でありながら、公爵家に乗り込んできた悪女のことだ。
「殿下が夢中になったあの!」
「精神操作されていたんだよ!」
私と婚約者であるイスヤラとの間には、男と女の間で芽生えるような愛情というものは一切育まれる事はなかった為、私たち二人の間に出来た隙間にスッと入り込んだのがアリサであり、彼女の為に、過去、6度も、僕はイスヤラに対して派手な婚約破棄を行っている。
「毒婦であるアリサはいずれ殺される事になるのだが、アリサが殺されると同時に国が呪われる。魔法の力の所為なのか何なのか分からないが、至る所で災害が起こる。あるところでは広大な領地が大きな湖の中に浸り込んだような有様となり、あるところでは広大な領地全体が水不足となって大地全体が干からびたようになってしまう。穀物は病で黒くなり、人は発熱と嘔吐で苦しみ、何千、何万という人間が、病と食料不足で死ぬことになる」
「そこで王様となった貴方が捕まって、全ての責任を取らされる形となって、生贄とか見せしめみたいな感じで首チョンパとなる訳ですかね?」
「嫌な言い方するなぁ・・・」
でもまあ、その通り、全ての責任を取って僕はギロチン台に上がる事になるわけだ。
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