第四十話 エルフ族の王子様 三

「アルケミナさんが呪いについて学ぶ必要はありません」

「それはケルブが言ったことがあるからか? 」


 オレとケルブ、そしてナルク達三人とエルジュは王城に設置されている、ポーション生成の為の作業室にやってきている。

 中に入ると誰もいなかったがどうやら公爵が早急そうきゅうに手配したようだ。

 まだ作りかけのポーションが残っている。


 それをはしにおき、キュア・カースド・ポーション作成の準備をしながらオレ達はエルジュに話を聞いていた。


「それもありますが呪いの知識を習得するだけで膨大な時間が必要になるからです」

「なるほどね。覚える前に、王子が亡くなる可能性がある、と」

「ケルブさんの言う通りです。しかしアグリカル王国の神官が気付かないというのはおかしな話ですね」

「……まさかとはおもうがアグリカル王国の神官が呪いに手をめている?! 」

「有り得る話ですね。これは一回本国で精査せいさしてもらわないといけないかもです」

「大分ややこしくなってきたが吾輩わがはい達がやることは一つだと思うが」

「あぁ。そうだな。オレ達はあの王子様ってのを救う! ただそれだけだ! 」


 オレがそう言い「その通りですね」とエルジュが頷きナルク達が器具を設置した。

 大きな球状のガラス器具を見ながらふと思う。


「しかしエルジュが解呪すればいいんじゃないか? 」


 ガラス器具からエルジュに顔を向けるとそこには少し困ったような顔をする彼女が見えた。

 そしてこちらを顔を向けた。


「出来ないことはないのですが数が膨大過ぎて流石に一人では」

「つまり人手が足りない、と」

「ええ。それに私一人の力ではすぐに解呪の魔法の上限が来てしまうでしょう。そこでアルケミナさんの力が必要となって来る、というわけです。なので今回、私は呪法が解呪されたかの鑑定に回ろうと思います。アルケミナさんはポーションによる治療に専念せんねんしていただければ、と」

「解呪されたかわからなければ、永遠とポーションを飲ませることになるからね」


 ケルブがそう言っているとナルク達が「準備が出来ましたぜ」と言ってくる。

 それに応じ、オレ達は解呪のポーション——キュア・カースド・ポーション作成に取り組んでいった。


 ★


 (苦しい……)


 フェルナンデは暗い中、一人もがき苦しんでいた。


 暗闇の中で様々な色の鎖に縛られている彼は、周囲から無数の怨念おんねんのようなものから襲われていた。


 この苦悩の表情をした無形態が彼を傷つけ、押し潰そうとしている。

 しかし彼はもがく。

 暗闇の中で必死にもがく。

 だが、鎖が更に食い込み激痛が走る。

 

 (痛い!!! )


 アグリカル王国第二王子としてせいを受けた彼は特殊な立ち位置であった。


 まずエルフ族からみても容姿端麗ようしたんれいな顔立ちは周囲を魅了した。

 また誰にでも優しい性格は王城、ひいては国民にも愛された。

 極めつけは妖精族ならば誰もがあこがれる『精霊の加護』を複数有し、様々な精霊の加護を受け精霊術師エレメンターとして高位の存在となっていた。


 容姿端麗で誰にでも優しく才気煥発さいきかんぱつなエルフ族の第二王子。

 それをこころよく思わなかったのは第一王子派閥である。


 が、とりわけ兄弟仲が悪いわけではない。

 むしろ家臣の目をかいくぐって遊ぶくらいには兄弟仲は良い。


 しかし欲望に満ちた貴族達はそれを良いものとは捉えなかった。


 どちらの王子に就くか。これで自分達の未来が決定するようなものだからだ。

 二人にその気がなくとも貴族達は分かれて、争う。

 本来ならばうやまわなければならない王子という存在を『道具』として。


 鎖が更に食い込む。

 痛みが走ると同時に呼吸が荒れる。


 (誰か、助けて!!! )


 そう心の中で叫ぶと、ふわりと鎖のめ付けが弱くなるのを感じた。

 同時に痛みも引いて行き、彼を襲おうとしている周りの——感情を集合させたモンスターのようなもだえ苦しみ始めた。


 (一体、何が)


 困惑しているとどんどんと鎖がけていく。

 そして痛みが引いて行った。


 (温かい)


 今までの苦痛が嘘のように引き、そして正面に光の道が出来ていた。

 フェルナンデは意識せず、足を進め——そして光につつまれた。


 (これは一体)


「お、目が覚めたか」


 フェルナンデに女性の声が聞こえてきた。

 しかし彼の記憶にない声だ。

 声のぬしを確かめようと少し首を動かす。


 そこにいたのは赤い髪に青い瞳を持つ、見惚みとれんばかりに溌剌はつらつとした笑顔の女性だった。


「かなり消耗していたがじきに治るだろう。じゃぁな」


 そう言い立ち去ろうとする。

 だがすぐに「まって」と言い、腕を伸ばして彼女の手を取った。

 驚く彼女だが、同時に「どうした? 」と聞いて来る。

 心配するかのような声が頭に浸透しんとうする。


 そして——。


「結婚してください」

「断る! 」


 ★


 王子の求婚を断ったオレはその後エルファルーナ女王を呼んでもらい目を覚ましたことを伝えてもらう。

 するとフェルナンデ王子に抱き着く女王を見つつオレ達は退席。


 扉の外に出るとそこには安堵あんどの顔を浮かべる公爵が待っていた。

 そして公爵に誘導される形で、部屋に入る。

 席に着くと同時に公爵がこちらに向いた。


「……本当に治るとは。いや、アルケミナ殿の力量りきりょうを疑っていたわけではないのだが」

「今回は運が良かっただけだ。呪法を鑑定できるエルジュに治せる素材を持っていたオレ。正直こんな軌跡きせきをもう一回起こせと言われたら無理だからな? 」

「はは。分かっているとも」


 そう言い苦笑いする公爵。

 本当にわかっているのか?


 話していると扉からノックが聞こえてきた。

 どうやら女王様のようだ。

 全員席を立ち、受け入れる姿勢を。

 そしてアーク公爵が返事をし、扉がゆっくりと開く。


 扉から女王と側近とおぼしきエルフが二人入ってくる。

 席に座ると、オレ達に座るように指示を出した。

 ひざまずかなければならない状況で着席ちゃくせきうながされ少し混乱する中、オレ達は着席した。


「まず、今回は世話になった。礼を言う」


 女王が真剣なまなざしでそう言った。


「して、褒美ほうびを取らせたいのだが何が良い? 」


 少しにこやかな顔でそう聞いて来る。

 ……。いや欲しい物とかないしな。

 褒美と言われても。


 そう考えているとケルブがオレを小突こづいて小さな声で提案してきた。


『(この際だ。なにか服か宝石でも頼んだらどうだね? )』

『(おいおい、どういうことだ? 自称じしょう保護者さんはいつから強欲になったんだ? )』

『(違う。君はもう少し女性としての自覚を持った方が良いということだよ。少し着飾ればそれっぽく見えるだろ? )』

『(よぉし。ケルブが喧嘩を売っているのだけは分かった。その喧嘩買った)』


 二人で小突き合いをしていると女王が「コホン」と咳払いを。

 すぐに女王の方を向いて「どうしようか」と考える。

 そこへエルジュの方からおどおどとした声が聞こえてきた。


「陛下。本件は後日にして、国に帰られた方が良いのでは? 」


 失礼ともとれる言葉に女王のまゆがピクリと動くも、更に続ける。


「呪いを実行していた者は解呪の反動はんどうで今死にかけているかもしれません。主犯格が死亡しないうちに捕らえた方が……」


 エルジュがそう言うと、目を開きすぐに席を立った。


「そなたの言う通りじゃの。すぐに帰り、国賊を捕えよう。後に褒美を与える故、またられよ」


 そう言い残して女王一行いっこうは去っていった。


 ★


 公爵がオレの「あまりおおやけにしたくない」という心をんでか王城の裏側に馬車を用意してくれていた。

 アーク公爵はまだ王城で仕事が残っているらしい。

 貴族というのは大変だ。


「しかし報酬はその程度でよかったのかい? 」

「これでも過剰なほどだと思うんだが」

「なにを言うかアルケミナ。君は服に無頓着むとんちゃくすぎる。服の数着くらいはもらってもそんはないだろう」

「だがオレに似合わないと思うが」

「……」

「いや、そこは否定してくれ」

「姉さん。姉さんは何を着ても美しいですぜ」

「ああ。まるで太陽のようだ」

「オレ達が行く道を示してくれる光そのものだ」


 ケルブがだんまりを決めると世紀末冒険者達が褒めてくる。

 だがこんな「女性!!! 」という風な服は似合わないような気がするんだが。

 それに中にはドレスもある。

 絶対に似合わないだろうこれ。


「アルケミナ殿が望めばそれこそ貴族にも……」

「あぁ……。そう言うのは勘弁かんべんだ」


 露骨ろこつ過ぎたか? 少しまゆひそめて「何故? 」とアーク公爵が聞いて来た。


「今回もそうだがオレが貴族じゃないから王子を助けることが出来たんじゃないか? 」


 それを聞いたらアーク公爵が少し目を開いた。


「そうですぜぇ。貴族の旦那」

「姉さんが歩く道に地位は不要」

「地位に足を引っ張られて助けることのできる命を失うのは勘弁だ。行くぞ、お前達! 」

「「「へい! 姉さん!!! 」」」


 そう言い残しオレ達は王城を離れた。


 アルケミナ魔法薬店。

 そこはお人よしの店主にき付けられた人達が通う不思議なお店。

 今日もまた店主は相棒と共に人助けをする。


 <完>


―――

後書き


最後までお読みいただきありがとうございました。


これにて終幕となります。


約十万文字を目指し、達成したのですが如何でしたでしょうか。

もし少しでも楽しんでいただけたのならば書いた者として嬉しく思います。


これからも作品共々よろしくお願いします。


最後になりましたが【★】をポチッと押していただければと思います。


以上ありがとうございました。

ではまた機会があれば異なる作品でお会いしましょう。

ではっ!


蒼田

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アルケミナ魔法薬店へようこそ! ~【薬師】で【錬金術師】のアルケミナはケット・シー型魔導人形と共に今日もまた人助けをする~ 蒼田 @souda0011

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