第三十九話 エルフ族の王子様 二
そこにいたのはベットに横たわる耳の長い男性と、彼を心配そうに見つめる女性だった。
中に入ってきたのを確認したのだろう。彼女の周りにいる兵士が一人耳打ちをする。
するとその女性の顔が引き
同時にアーク公が
しかしそれを彼女が止めて口を開いた。
「アーク公。そこにおる者が」
「はっ! この者が我が息子を治した
と、立ったままハキハキという。
そして目をこちらに向けて
何だこれ?
単なる興味だけじゃない。かといって敵意でもなさそうな、感じたことのない目線だ。
なにがなんだかわからないがそれを考える間もなくエルフの女性は口を開いた。
「
や、やっぱり女王様か。
軽く引きながらもちらりと公爵を見る。
公爵も人が悪い。
女王様がいるなんて言ってなかったじゃないか。
しかし、いるものは仕方ない。
オレ達も自己紹介もして早速話を始めることにした。
「王子様を診る、でよかった……のでしょうか? 」
「うむ。我が息子フェルナンデを助けてほしい」
エルファルーナがそう言いベットの方を向いた。
そこには緑に少し金が混じった髪をもつ病的に白いエルフ族の男性がいる。
歳は人族
「陛下。この痩せ具合は病気になる時からですか? 」
「いや。苦しみ始めてからじゃ」
本人が
正直不敬罪と
気にせず進める。
脈は速い。
顔を
息は荒く、苦しそうだ。
一先ずできることをしようか。
「ケルブ」
「分かっているとも。相棒」
そう言いケルブがぴょんとベットの上に乗る。
少しアグリカル王国側が驚いたような声を上げるが公爵が抑えている声がする。
そして集中。
「「
ケルブが見るものが見える状態になり、そして
やはりというべきか肺を中心的にかなりやられている。
だが、前情報のように毒らしきものが見当たらない。
鑑定でも何も引っ掛からない。
いや、何かにかかっているが、オレにはわからないため引っ掛からないという可能性もある。
よって知らないものや病気は引っ掛からない。
しかし、専門に
ならば未知の病気、というのが
「困ったね、これは」
「オレが知らない病気、か」
ケルブとオレがぽつりと呟くと「ダメなのか……」と
上を見上げるとそこには悲しそうな顔をする一人の女性が。
……。今の彼女は女王というよりは息子を心配する一人の母親という感じだ。
しかし出来ないものは出来ない。
はっきりと、言うべきか。
治せる可能性としては
告げるべきか、告げないべきか。
と、軽く落ち込んでいると奥の方からエルジュの声が聞こえてきた。
「……どうした? 」
「私にも何か手伝えることはありませんか? 」
黒い神官服を
しかしすぐに首を振る。
「国の神官にも、むろん診せた。だがダメだった」
そう言う女王に軽く提案。
「……彼女は各国を回っている神官です。もしかしたら道中何か
各国、というと少し考える素振りを見せた。
そしてエルジュの方を向いた。
「では、頼もうか」
ペコリとエルジュが頭を下げてオレ達の方へ来た。
そして持っている
「ヒー……あれ? 」
回復魔法を掛けようとしたエルジュが少し止まる。
そして戸惑った様子でこちらを見た。
「あ、あの……」
「どうした? やはり効かない、ということか? 」
「いえ。それ以上に今の状態って」
「原因不明な状態だな」
そう言うとすぐに掲げていた錫杖を戻してなにやら集中している。
そして彼女の瞳が蒼く光ったかと思うと、「やはり」と呟いた。
「まさか何かわかったのかね? 」
そう言うケルブを見下ろし、「はい」という。
それに女王を含めたまわりのエルフにどよめきが走る。
「そ、それは一体何なのじゃ?! 」
言い寄る女王にエルジュが正面を向いて口を開いた。
「
それを聞き、この部屋は
★
「そもそも呪いというは簡単にできるものです」
「そうなのか? 」
沈黙を破ったのは、沈黙を作ったエルジュ本人だった。
そして詳しい話が聞きたいという女王の願いに応じる形でエルジュが答える。
「ええ。しかしその効力はあまり高いものではありません。それに一口に呪いと言っても多様にあり効果も様々。今回のように病気を引き起こすものもあれば単に不幸を引き寄せるものもあります」
「不幸、ね」
「ええ。しかも呪い——聖国では呪法と呼ばれていますが、これを使うにはリスクが多すぎ実行する者は殆どいません」
「リスクとな? 」
エルファルーナ女王が聞き返すとエルジュが頷いた。
「呪いが解除されたらそれが自分に返ってきます」
「自分に返って来るのなら、やらないな。普通」
「ええ。しかも呪った相手以上の力で帰ってきます。覚悟を決めてやるにしても——例えば単に風邪を引き起こすだけとしても——自身が命の危険にさらされます」
そう言うと軽く俯きオレの方を向くエルジュ。
「恐らくアルケミナさんの
「確かに俺には呪いに関する知識はない、な」
「それに今回殿下を侵している呪法は多用に渡り十や二十ではありません。恐らく一つ解除されても大丈夫なようにしているのでしょう」
「だが呪った本人が危険にさらされるのじゃろ? そのような危険を
「呪うのが本人でなくてもいいのですよ。例えば……そう、貧困街の人間にお金をばら
それを聞き、女王の白い顔が一気に赤くなるが、口には出さない。
それに少し聞いてはいけないことが聞こえたような気がするが、触れずに考える。
しかし、エルジュの話を聞くとオレ達の鑑定に引っかからなかったのも納得だ。
「ふむ。なるほど。アルケミナにキュア・カースド・ポーションの
「どういうことだ? 」
「なに簡単さ。君が薬師として働く時呪いを知らなかったら、少なくとも「君が呪った本人ではない」と証明できるだろ? もし君を
ケルブが見上げてそう言う。
鑑定でわからず治せなかったら意味がないとは思うが、確かにそうだ。
しかし納得がいかないものがある。
「そう不満そうな顔をするな、アルケミナ。君の、類まれなる人の縁を信じたのだろうよ。ほら、結果として君の周りには色々な人材がいるのだから」
「……わかっている」
「そ、そなた。今しがたキュア・カースド・ポーションが作れると聞こえたのじゃが」
そう言い女王がオレとケルブを見た。
素直に言おうか。
「可能だ。だが
そう言うとあからさまに落ち込む女王。
だがケルブがオレの方を向いて告げた。
「無いのならば作ればいいのさ。素材はあるだろ? あの果実が」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます