第二十六話 冒険者ギルドに納品へ

「昨日のエルジュ殿は積極的な神官でしたね」


 恵草めぐみそうを買い取った翌日のこと。

 納品のうひん用のポーションを整理し終わったオレにマリアンが言った。

 確かに積極的だった。

 カムイさんは否定しているが、恋人にしか見えない。


「アルケミナ、君も恋愛に少しは積極的になったらどうかね? 」

「相手がいると? 」

「なにを今さら。選びたい放題じゃないか。親衛隊から」

「オレにその気はねぇ」


 受付に置いてある椅子に座り戯言ざれごとを言うケルブに一喝いっかつ


「それをいうならオレよりもマリアンだろ」

「私ですか? 」

「マリアンの家は貴族家なんだろ? だったら結婚話の一つや二つあるんじゃないか? 」


 マリアンの方を向き、そう聞くと彼女の顔が少しくもった。


「あった、ようです」

「「??? 」」


 過去形?


 オレとケルブが顔を合わせどういうことか聞いてみる。

 すると乾いた笑顔でこちらを見て説明を始めた。


「その……。父が過保護でして私の所へ来る婚約話をことごとく断っていたとか」

「それで現在婚約者がいない、と」


 オレの言葉に頷くマリアン。


「その内、いい人が見つかるさ」


 ケルブのその一言が何故かオレの身にみた。


 少し痛ましい沈黙ちんもくが流れた後、それぞれが動き出す。

 各ポーションの本数を数えて、マリアンに渡す。

 マリアンも確認が終えたようだ。

 確認用のチェックシートにしるしを入れた。


「よし。これで準備は大丈夫だな」

「今日は普通のポーションの納品ですね」

「そうだね、マリアン嬢。今回は特別なものではなく普通のポーションだ」


 ケルブがそう言いマリアンが安堵あんどしている。

 時折ハイ・ポーション類を届けているせいか普通ではない日もあるのは確かだ。

 そしてその時は大金が動く。

 貴族出身のマリアンが少し顔を引きらせるほどのお金が動くわけだが、彼女も慣れて来たのか最近はあまり動じなくなった。


 根っこからの真面目な性格がわざわいしているのか、本数の間違いやお金のやり取りに気を配る様だ。

 ハイ・ポーション類でなくてもポーションを納品する時はどこか緊張している。


「確認も良し。じゃぁ行こう」


 合図をするとマリアンが頷いて返事をし、オレが納品用のポーションをアイテムバックに入れる。

 そして冒険者ギルドへ向かった。


 ★


「納品を確認しました。今日もありがとうございます」

「おう。ミミもご苦労さん」


 冒険者ギルドの受付でオレは納品を済ませた。

 感謝の言葉を言うと彼女は耳を軽くピクリと動かし「いえいえ、お仕事ですから」という。

 そしてマリアンの方を向いた。


「マリアンさんもお仕事に慣れて来たようで」

「これも皆のおかげだ」

「そんなことないですよ。この短期間で仕事を覚えるとは、流石です」

 

 ミミにそう言われ少し照れくさそうにほほくマリアン。

 恥じらいながらも恐縮する彼女がだが、元々順応じゅんおう性が高いのか、店の仕事をほとんど覚えてしまった。

 これならばポーションを作ることもできるんじゃないか、と思う程に。

 しかしそうなるとアーク公爵の了解を得ないといけないため実行してない。

 めんどくさいことになるのは必須ひっすだからだ。


 照れるマリアンから目を離しミミと話していると、冒険者ギルドの中にどよめきのようなものが起こった。


「なんだ? 」

「あれは、エルジュ嬢では? 」


 どよめきが大きなところ、扉の方を向くとそこには黒いニーソと神官服を着て錫杖しゃくじょうを抱えてキョロキョロしているエルジュが見えた。


「そう言えば冒険者ギルドで護衛を頼むとか言っていたな」

「早い出立しゅったつですね」

「本当はカムイ殿の教会にいたいのだろうけれどそれを抑えての出立。まさに神官の鏡だ」

「何故オレの方を見ながら言う? 」

「いやなに。特に意味はない」


 なにをぉ! と言っていると高い声で「アルケミナさん! 」と声をかけられた。

 声の方を見るとそこには少し早足はやあしで近づいて来るエルジュが。

 どこか安堵あんどしている風に見える。


「おはようございます。アルケミナさん、マリアンさん、ケルブさん」

「おう。おはよう」

「おはようございます! 」

「今日も良い天気だね。そしておはよう、エルジュ嬢」


 オレとケルブが離れ朝の挨拶をし、マリアンが敬礼けいれいをしながら、そしてケルブは少し服を整え白い帽子ぼうしを取って挨拶した。

 それを見てか少しきょとんとし、クスリと笑いながら軽く咳払い。


「皆さん今日はお仕事ですか? 」

「今日はポーションの納品だったからな。今終わったところだ」

「エルジュ嬢はこれからガガの町かい? 」

「えぇ。なので依頼を出しに来たのです」


 ケルブが見上げて言うと笑みをやさずそう言った。

 やはりか。

 ならば邪魔になったらいけないな。


「終わったら最後に声をかけてくれ。これも何かの縁だ。別れの挨拶くらいさせてくれ」

「吾輩達は向うの席にいる故に」

「はい。では」


 オレは手を上げ、エルジュは軽く会釈えしゃくをして一旦別れた。


 ★


 冒険者ギルドの受付にそなえられた椅子に座りエルジュを待つ。

 だが……。


「おはようございやす! あねさん!!! 」

「「「おはようございやす!!! 」」」


 いつもの不良冒険者、いや世紀末冒険者が現れた。

 だが今日は仕事があるのか挨拶を済まして一部解散。

 残ったのは今日を休憩日にしているモヒカン達のリーダー『ソルム』と肩パット達のリーダー『スピルニ』だった。


「姉さん。昨日からいるあの修道士シスターは一体何なんでしょうね? 」

「ん? なんか各教会を回ってる司祭らしいぞ? 」

「司祭、ですかい。なるほど。それでいい服着てんですね」


 そう言いながら受付をしているエルジュをながめ見るソルム。


 聖国の教会では修道士と司祭はことなる。

 彼女の服は修道士っぽいが持っている階級は司祭。

 修道士は一般市民に含まれるが司祭は所謂いわゆる貴族のような階級だ。

 よってソルムが修道士と見間違えたエルジュが良い服を着ているというのは当然なことで。


「おい、ソルム。姉さんという人がいるのに浮気か? 」

「なにを馬鹿な事を言いやがる、スピルニ! おらぁ姉さん一筋ひとすじでぇ!!! 」


 バン! と大きな声で恥ずかしい事を言うソルム。

 嬉しいが、それは心の中にめておいてくれたらもっと嬉しかったかな。


「おやおや熱い告白だね。こんなにも熱い告白を受けてアルケミナはどう思っているのかい? 」


 と、挑発的な目でオレの方を見てきたケルブ。

 だがそれを言った瞬間――周りの空気がりつめ、そして壊れるかのように騒がしくなった。


「あ、姉さんの想い人?! 」

「俺に決まってる! 」

「黙ってろ! 話が聞こえない! 」


 ソルムとスピルニの後ろが更にがやがやする。

 こ、これ、どうするんだよ!

 ケルブの方を睨みつける。

 だが奴は、むしろ興味深いと言った表情でこちらを見ていた。


 このくそっ!

 

 冷や汗を流しながらも切り抜ける方法を考えていると「あのー」というミミの声が聞こえてきた。


「ソルムさんスピルニさん達に依頼が入りました」


 神は……ここにいたのか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る