第十一話 アルケミナ魔法薬店

 トリアノ君の症状が落ち着いたのを見届けたオレ達は馬車でアルケミナ魔法薬店へ帰宅きたく中だ。

 過分かぶんな気が……。いや、リカバリー・ポーションの事を考えると、これから使い道がないほどの大金をもらい豪華な馬車で送ってもらっても過分かぶんではないのか。

 横であきてるケルブをみつつ一人納得。


「ポーションの出処でどころは……。いやこれも詮索せんさくしない方が良いのでしょう」


 オレに対してまるっきり敬語になってしまったアーク公爵がそう呟き窓の方をみた。

 つられてオレもその方向を見る。

 町に入ったようだ。


「このたびは私の事のみならずトリアノ様までっ!!! 」


 ……。マリアンはトリアノ君の容態ようたいが安定したと聞いた時からこの状態である。

 涙に鼻水をれ流し美人が台無だいなしである。


「ま、治ってよかった」

「本当にっ!!! 」

「着いたようだ」


 話している間に店に着いたようだ。

 馬車が止まり少しおされる感じがする。


 ああ……。なつかしき我が店に着いたか。

 少し感慨深くなりつつも馬車から降りた。


「「「お帰りなさいませ。あねさん方!!! 」」」

「......」

「うぉっ! 」

「な、何だいこれは?! 」


 オレの店の前には賊もビビるBランク冒険者集団が待ち構えていた。

 公爵とマリアンが驚く中、オレの前にリーダーの男が出てきた。


「……これはなんだ? 」

「へい、あねさん! あねさん達が急用きゅうようが出来たということで、勝手ながら不肖ふしょうあっし達が店の警護をさせていただきやした!!! 」


 それを聞き、呆れる。

 人数の多さや彼らの行動に驚いているのか横目よこめでマリアンの方をみると公爵共々固まっている。


「……オレは警護の依頼を出した覚えはないんだが? 」

「へい! あっし達の独断どくだんでさぁ!!! むろんお代はいただきやせん! ご安心を」

「君達、仕事は? 」

「そのこともまえ、輪番りんばん制にしやした。今日来ているのは幸運者達だけでさぁ!!! そしてあらためまして……」


「「「お勤めご苦労様です!!! 」」」


「いやこえぇよ! 普通にこえぇよ!!! 」

「安心してくだせぇ。ご近所には挨拶ずみでさぁ」


 すぐさま隣をみる。

 そこには慣れた様子で手を振るご近所さんが。

 おい、お前ら。それで大丈夫なのか?

 ここは商業区だぞ?

 外聞がいぶんってもんがあるだろうに!!!


「うう“う”……。分かった。君達の善意ぜんいは受け取ろう。ありがとう」

「「「へへへ……」」」


 気持ち悪っ!!!


 スキンヘッドにモヒカン集団が一斉に照れるとここまで犯罪臭がするのか?!

 ま、まぁいい。彼らも良かれと思ってやってくれたんだ。

 如何いかに犯罪臭がするとは言え犯罪者集団じゃない。

 ……。少し不安になってきたが、大丈夫だろう。


「よし! 解散! 」

「「「へい。あねさん!!! 」」」


 そう言いつつ彼らは自分達の本来の仕事に戻っていった。


「ア、アルケミナ殿は随分ずいぶんしたわれているのだな」

「まぁ……。人は見かけによらないといういい例と思えば」


 マリアンが少し顔を引きらせながら男衆おとこしゅうから目を離した。


「今回は本当にありがとう。心より感謝する。トリアノも元気になったら向かわせよう」

「ま、ゆっくりさせてあげてください。随分ずいぶんながらくベットにいたようなので体を慣らす意味でも」

心得こころえました。では」


 軽く手を振りアーク公爵は馬車に乗り館へと帰っていった。


「……何故にマリアン。君がここにいるのだい? 」

「アルケミナ殿には返しきれないおんがある。休養きゅうようねてこちらで働かせていただけたら、と」


 馬車を見送った店の前。

 そこでオレとマリアンは話していた。

 恩返し、ね。

 あの男衆おとこしゅうと彼女の姿がかさなるのは気のせいだろうか。


「給料を出せるほどじゃないんだが」

「それについては大丈夫だ。公爵閣下より給金が出ている」

「……もしかしてそれって公爵の恩返しも入っている? 」


 恐らく、というマリアンを見て「護衛の意味もあるのだろう」と考え――あきらめた。

 考えてどうにかできるものでもない。


 そして足を店に向けて中へ行く。


「さぁ。中へ入ろう! アルケミナ魔法薬店、再開だ! 」


 こうして今日もまた店を開くのであった。


 ★


「トリアノ!!! 病気が治ったというのは本当ですか! 」

「リ、リリィ……。苦しい」

「ご、ごめんなさい!!! 」


 椅子に座るトリアノから慌てて飛びのく少女。

 この空間だけなごやかな雰囲気がただよった。


 数か月後のアーク公爵邸。

 ここにはいつもと違うピリピリとした空気が流れている。

 公爵家三男トリアノ・アーク暗殺未遂みすいで料理を担当していた者や医者などが捕まりこぞって鉱山送りとなったことに加えて、このトリアノに引っ付く女の子が原因となっている。


 トリアノ・アーク暗殺未遂みすい事件は外の者と内部の者が結託けったくし、殺害しようとしていたのが真相しんそうである。

 一件関係ないようだが、この女の子も事件の部外者ではない。

 むしろ原因の一つでもあった。


 リリアナ・シルヴァス。

 シルヴァス王国の第三王女でトリアノの幼馴染、そして婚約者でもある。


 彼女とトリアノの婚約をこころよく思わない敵対貴族が中心となり事件を起こした。

 しかしその貴族は分からずじまいで捕まっていない。

 暗殺失敗により更に身をひそめたのか尻尾しっぽすら見つかっていない状態である。


 よってこの公爵家としても予断よだんを許さない状況なのであるが、リリアナはトリアノの回復を知り、いてもたってもいられず公爵邸に飛び込んできたのだった。

 もちろん王城の護衛ごと。


 シルヴァス王家とアーク公爵家はなかが悪いわけではないが、流石に王女直々じきじきに来たとなるとアーク公爵邸に緊張が走るのは当然であった。


「トリアノ。その……大丈夫、じゃないよね」

「そうでもないよ。定期的に送られてくるポーションのこともあるけど、こうして運動をしているおかげか体は順調に動けるようになってきているんだ」

「確かアルケミナさん、でしたか? トリアノの命の恩人は」


 それに深く頷き肯定こうていするトリアノ。

 それを見て軽く考える素振りをしつつリリアナは可愛らしい口を開いた。


「いつか、私のトリアノを救ってくれたお礼を言いに行かなくてはいけませんね」

「その時は僕も行くよ」

「一緒に行きましょう」

「うん! 」


 くすくすと笑い、リリアナが帰るまで緊張状態は続いた。

 リリアナが献身けんしん的に運動を手伝ったのは、きっとアルケミナには関係のない事だろう。


―――

後書き


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