第6話 治安警備隊の隊長

 ルカは自分に話があると言われて、この間の訓練場での出来事を思い浮かべた。知らないふりをするべきか? 話したところで信じて貰えるのだろうか?


「ルカ、俺は回りくどいのは苦手だから単刀直入に尋ねるが・・・先日、剣を弾き飛ばしたのはお前の力か?」

「隊長、俺・・・どうなるの?」

「どうにもならん、安心しろ。だが力のコントロールや使い方を間違えては大変な事になる。それをお前に教えてやりたいだけだ」

 ロッシの顔を見たが、彼は黙ったままだった。だが怒っている様子はない。


「多分そうだと思う」

「では、精霊の存在も見ることが出来るな?」

「え?  精霊? あのオバケ達は精霊なの?」

「そうか、お前はオバケだと思っていたのか。お前は精霊を見ることが出来る貴重な人間だ。精霊は人間に悪さはしないよ」

「でも悪い事をしてるやつを見た事があるよ、俺」

「精霊のほかに妖精という生き物がこの世界にはいる。そいつらは人間と同じように、良いやつも居れば悪いやつもいるんだ」


 治安警備隊では一般的な治安維持の他に、稀に起こる妖精による事案にも対応していた。妖精を見る能力があるニッパーという能力者に依頼をしたり、ニッパー自体が警備隊に所属しているケースもあった。この頃はまだ一般的ではなかったが、現在ではニッパーが所属している警備隊の数の方が多い。


「隊長も見える人なんだよ、ルカ」ここで初めてロッシが口を開いた。

「え! そうだったの? じゃぁ何か特別な事もできるの?」

「俺は傷の治りが早い。それだけだな」

「へー凄いじゃない。俺もそれが良かったな。貴族の子供に殴られてる、俺みたいな子を全部かばってやる!」

「お前は優しい子なんだな」

「そんなんじゃないよ、強い方が弱い方を助けるんだよ」

「うん、これからもそうしていく為に力の使い方を学ぶんだ」

「分かった。隊長が教えてくれるの?」

「そうだ。これから近くの林へ行ってみよう」



3人は町から20分ほど歩いて大きな川に隣接する林にやって来た。


「ルカの力は具体的にどんな物だい?」

「う―ん、ロープみたいなものを出せる・・かな。鎖みたいな物の時もあるよ。この間はそうだった」

「俺を転ばしたのはそのロープだったのか」

「うん・・・ロッシ、ごめんよ」

「ハーッハッハハ、ロッシお前、こんな小さな子に転ばされたのか!?」


 ロッシは隊長に笑われてむっとしていた。


「見えないんだから仕方ないだろう」

「まぁまぁ、それはいいとして。ロープなのか鎖なのか使い分けはできないんだね?」


 ―良くはないだろう・・だが隊長はロッシを無視して話を続けた。


「うん、思った場所に飛ばすこともちょっと難しいかな」

「まずはコントロールだな」


 隊長はさっき飲んでいたビールの瓶を1m位先にある切り株の上に置いて、それにロープを当てる訓練をさせた。

 40分くらい続けていると3回に1回は瓶を倒せるようになったが、その後は疲れが出てきてロープ自体を出せなくなってきてしまった。


「まだルカは小さい子供だ。毎日少しずつ訓練することにしよう」

 隊長はポンポンとルカの肩を叩いた。

「ルカ、頑張ったな。一休みしてからまたやってみよう」


 ロッシが町に戻って買ってきた飲み物とリンゴを食べながら一休みした。これからどういう方法で訓練していくかなど話し合って、今度は飛距離の確認をすることにした。


 3mまでは瓶を倒すことが出来たが、4mでは瓶を揺らす程度しかできなかった。5mには届かない様だった。

「うむ。飛距離、強度、コントロール、持続時間、この辺りを重点的に訓練していこう。焦ることはないさ、のんびり行こう」


 その日からルカは色々な訓練を始めた。隊長が一緒の時は精霊や妖精についての勉強もした。ニッパーである隊長は対妖精の事案をいくつも解決していた人だった。


 ロッシが訓練に付き合ってくれることも多かったし、一人で頑張ることも多かった。


 毎日の訓練で分かってきたことは、イメージの大切さだった。どんな硬さのロープなのか、どこへ向けて飛ばしたいのか、鮮やかに思い描けた時ほどうまく行くことが分かった。


 15になる頃には隊長と一緒に妖精退治に行けるくらいまでルカの力は大きくなった。

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