第5話 訓練場での出来事
俺がロッシと暮らし始めて1年ほど経った日の事だった。
警備隊の訓練場で隊員と剣の稽古をしていた時だった。領地の管理官が赴任の挨拶に来ていて、その息子が訓練場の見物にやって来た。
「ヘぇ~、子供も訓練してるんだ」
その男の子はルカと同じ位の年頃だった。付き人を従え尊大な態度で隊員たちを見回していた。そして突然何を思ったのか、訓練用の木刀を手に取り、ルカの前にやってきた。
「おいお前、俺が相手になってやるからかかってこい。俺は強いんだぞ、手加減しないからな覚悟しておけ」
ルカは近くで見ていたロッシを振り返った。ロッシは無言で頷いた。
まるで相手にならなかった。
ルカはこの1年、週に何度もここを訪れて稽古をつけてもらっていた。子供とはいえ皆、真剣に相手してくれルカも真面目に頑張っていた。
ルカは途中から手を抜いていたが相手はむきなって力任せに木刀を振り回した挙句、自らつまずいて転んでしまった。隊員の誰かがクスッと笑った声が聞こえてきた。
その子は顔を真っ赤にして逆上し、近くにいた隊員の腰から真剣を抜き取り、ルカに突進してきた。
「木刀だからいけないんだ!これで勝負だ」
しばらくはルカが木刀で受け流していたが、相手は警備隊のよく磨かれた真剣だ。大きな音がしたと思うと、ルカの木刀は半分からぽっきりと折れてしまった。
「そら見ろ、俺の方が強いんだ」
はぁはぁ息を切らしながらその子はルカに真剣を振りかざした。
ロッシも隊員たちも間に合わなかった。大人達はルカの木刀が折れたらその子は満足するだろうと考えていたのだ。だがその子は引かなかった・・・。
目の前にギラギラと光る刃が迫った時だった。ルカの目が金色にキラッと光ったと思うと鋭い金属音が響き剣が弾き飛ばされ、付き人の足元にぶっすりと突き刺さったのだ。
「ひぃええ」付き人は情けない声を上げ、後ろに尻餅をついた。
「そこまで!」
凛とした声が響いた。警備隊の隊長だった。
隊長はコロッと態度を軟化させ、わなわなと震えながらルカを見ている少年へ歩み寄った。
「これはこれはお客様、このような場所に居られてはお父様が心配されます。中へお戻りください」
「あ、あいつは何だ。一体何をしたんだ。なんで剣が弾かれたんだ?!」
「木刀の柄で弾いたのでしょう。さ、中でお茶と菓子を用意していますから」
子供と付き人は隊長に引っ張られていった。
ロッシが近寄ってきて大きな声で言った。
「よくぞ
と、呆然と見ていた他の隊員達も「お―良くやったぞ!」「危なかったな、どうなるかと思ったよ」
などど一斉に駆け寄って声を掛けてくれた。
それから2、3日後、ロッシの休日の日だった。
昼過ぎにドアをノックする音が聞こえ、ルカがドアを開けると警備隊の隊長マルコ・レオーニが立っていた。
「やぁ、ルカ。お邪魔するよ」
そう言ってルカの横を通り抜け、ずかずかと居間に入って行った。
隊長は50代前半くらいだろうか。がっしりした体格で背が高く真っ黒な髪をしている。まっすぐな眉毛も真っ黒だが瞳はグレーで品のある顔つきだった。いつもは穏やかだが、怒ると物凄く怖いことをルカは知っていた。
隊長はロッシに持ってきたビールの瓶を手渡し、ルカには紙袋に入ったクッキーを差し出した。
「じゃぁ俺は遊びに行ってくるよ」きっと大事な話があるんだろう、そう思ってルカはロッシに言った。
「いや、今日はねルカに話があって来たんだよ」
隊長はそう言って、椅子に腰かけた。
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