第3話 占い

 夕方のスーパーテンカイ。その休憩室で新人バイトの佐藤が休憩室でまったりとしていた。

「おはようございまーす」

 その休憩室に、出勤してきた井上の元気な挨拶が広がった。

「おはようございます、井上さん」

 休憩室にただ一人いる佐藤は、井上に挨拶を返した。

「あれ?元気ないの?佐藤くん」

「いや、そんなことはないですけど。井上さんはいつも以上に元気ですね」

「わかる?朝のテレビの占いで1位だったの」

「へぇ、そうなんですか」

「しかも、その通りに行きたかったライブのチケットが当たったし、くじ引きで欲しかったフィギュアが当たったの。もう、最高の運勢。佐藤くんはあんまり占い信用してない?」

「まぁ、生前は占いの運勢にかかわらず、不運に見舞われていたので……」



 そんな中で休憩室の扉が開いた。

「あっ、高橋さん。おはようございます」

「おはようございます、佐藤さん、井上さん」

「高橋さんって、占い信じます?」

 元気な井上は高橋に質問した。

「信じてはいませんが、否定もしていません。一応は私も神なので、占いでどうだこうだって言うのは、どうともコメントしづらいので」

「そうなんですか?」

「えぇ。人は占いの結果によらず、『神の力も大したことないな』って反応するんですよ。占いの結果は、自分で行動をしなくては何も起きないのに『良い運勢なのに良いことなかったな』や『悪い運勢で本当に悪いことが起きたのに神様は守ってくれなかった』なんて言うんです。あくまでも占いはその人の今後の行動の指標なので、自分で動いていただかないと何も変わらないんです。良いことも悪いことにも共通して言えることです」


「なんだか、身に覚えがあって申し訳ない気持ちになります……」

 高橋の熱の入った説明に、身に覚えのあった佐藤は申し訳なさそうにしている。

「でも、実際に私は良いことありましたよ?」

「それに関しては何とも言えないですね。井上さんの気持ちが良いように捉えているからとも考えられますけど」

「そうなのかな」


 そう言うと、うーんと眉間に皺を寄せて井上さんは考えこんでしまった。

「それなら行ってみます?当たると噂の占い」

「えぇ?!高橋さん、占い行くんですか?あまり興味ないものだと思いました」

「私は占いには興味ないですよ。でも、私も一応はそこそこ長く神をやっているので交友は広いんです。なので、占いに長けた人とも関わりがあるっていうだけです」

「そういうことなんですね。それなら、その高橋さんの知り合いのところに行ってみましょうよ。佐藤くんも行くでしょ?」

「いや、僕は別に……」

「彼女の占いは当たると人気らしいのでいいと思いますよ。予約がなかなか取れないらしいんですが、私が頼めば占ってくれるはずです」

 それを聞いた佐藤は占いというより、なかなか予約が取れないという特別感に惹かれ行くことに決めた。



 休みの日に合わせて人気の占い店にやってきた高橋、井上、佐藤の3人。店の前にやってきた井上は驚いていた。

「高橋さん、ここって超人気の邪馬台––––」

「それより、早く行きましょう。営業時間外に特別に占ってくれるらしいので」

 店内に入り、高橋は受付で連絡済みだということを伝えた。話が通っていたため、すぐに占いのスペースへと案内された。

「うわー!本物の卑弥呼様だ!」

 人気占い師を前に井上は思わず大きな声で驚いた。

「卑弥呼様?!」

 この人気占い店のこと以前に、占いのこともまったくわかっていない佐藤もよく知っている名前につられて驚いた声をだした。そして、疑問に思ったことを隣にいる高橋に小声で尋ねた。

「卑弥呼様って、あの有名な邪馬台国の?」

「佐藤くんの思っている通り、邪馬台国で思い浮かべる卑弥呼本人ですよ。その彼女がやっている人気占い店『邪馬台国』がココなんですよ」

 まさか佐藤は、生前の教科書で見たことのある偉人に合うとは思わなかった混乱で固まっていた。

「でも、なんでその卑弥呼が天界で占いしているんですか?」

「彼女は元々、邪馬台国で占いをして導いていた人です。死後、天界に来てからも占いをしていたところ、死者の間で人気になりその評判から天使、神にも人気の占い師となったわけです。あと、彼女自身が転生よりも天界でのんびりしたいという希望もあって、天界に留まっているという理由もありますけどね」

「そういうことだったんですね。ところで、卑弥呼さんの横にいる男性は誰ですか?」

 佐藤は占いのスペースに入ってから、顔を隠した卑弥呼の斜め後ろに立っている男性が気になっていた。

「彼は卑弥呼さんの弟です。恥ずかしがり屋の卑弥呼さんに代わって、お客さんの相手をしたり、彼女の補佐をしているんです。そのおかげで、卑弥呼さんは占いに専念できるようです。ちなみに卑弥呼さんが顔を隠しているのは恥ずかしいという理由です」

「なにをしている!卑弥呼姉さんに気安く接してくるな!」

「あと彼は御覧の通り、姉好きの超がつくほどのシスコンです」

 超がつくほどの人気であり当たると噂の占い師の卑弥呼を前に、井上は興奮しっぱなしで近づいてはペタペタと卑弥呼を触り、早口で卑弥呼にしゃべりかけ続けていた。その様子に卑弥呼は顔を隠していてもわかるほど困惑していた。それに我慢ができなかった彼女の弟は、ついに声を張り上げて井上を注意し、そのまま井上を説教し始めた。すると、その弟の姿にオロオロしはじめた卑弥呼は小さな声で弟を落ち着くように注意した。

 しかし、それでも止めない弟に痺れを切らした彼女は今までと違ったハッキリとした声で弟に言葉を投げかけた。


「ダメですよ。そんなことを言う弟君なんて、お姉ちゃん嫌いです」

「なっ!?き、き、嫌い––––」

 卑弥呼さんの「嫌い」という言葉は、彼にはかなり刺激が強かったようで、白目を向いて背中から倒れてしまった。


「いきなり倒れるなんて驚きました。高橋さんは驚かれなかったですね」

「二人とは昔から付き合いがあるので慣れました。彼はよく卑弥呼さんに怒られて気絶してるんです。なので慣れました」


 その後、高橋と佐藤で倒れた卑弥呼の弟を休憩室のソファに寝かせ、彼が不在のまま占いが再開された。高橋は付き添いできたため、そのまま部屋から退出し1番手に佐藤が占ってもらい、その後に井上という順番になった。


 鼻歌を歌いながら楽しそうにしている井上さん。

「どうでした?」

「占いの内容は秘密だけど、なんかいつも以上に元気が出てきた」

 占いの結果は当然教えてくれなかったが、とても楽しそうにしている井上の姿から良い占い結果だったと予測できた。


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