第十三章 それぞれの戦い⑥
「それが何? 私もゴンダもミュールも、会長に見出された。あの選挙のとき、いいえ、その前から積極的に学校の生徒の代表になりたい人なんていなかった。私たちはなし崩し的に選ばれた。見方を変えれば、誰も私たちを選ばなかった。他に候補者がいなかったからよ……」
ぼやけた青白い光が、か細い柱を作りそこから煙るようにレザークが現れた。
「あの無能はそれに便乗し、心で密かに狙っていたというのか? 自分のヘキサ・シンを得るために。いや、盗むために、メゾムとかいう紛い物にそそのかされ、ヘキサ・シン、あるいはあの馬鹿の内に秘めた、アルテワーキに目がくらんだというのか?」
「言い方は腹立つけど――」
カナリは地を蹴って、レザークの間合いに詰め寄り、剣を振りかざしながら、
「そのとおりよ!」
レザークはそれを刃で受け止めた。
レザークとカナリは、目と目を交わらせ顔を近づけさせる。
「なぜ、貴様はあの無能――いや、真の主犯に手を貸す……。昔の貴様だったらそんなことをしなかっただろう?」
カナリは顔を紅潮させる。剣が邪魔で仕方がないが、カナリは何かを言うに渋っていた。
そして、直に迫った水色の髪をした眼鏡の朴念仁に、抑えていた気持ちを投げつけるように言いのけた。
「あなたから……」
力任せに、レザークの剣を弾いた。
「目を背けたかったからよ!」
バチィンと雷の残光が周囲に散った。
「なぜだかわからないでしょう! 傲慢眼鏡!」
レザークはカナリの様子に動揺する気配もなく、中腰になり顔の横に剣を構えた。
カナリの話を聞いてくれる姿勢には見えない。
カナリはすでに解放し、レザークもリリース直後の光と模様が体から放出されている。
カナリは再び地を跳ね、レザークの右肩目掛けて剣を下ろしながら、
「あなたが好きだからよ!」
刃と刃が今一度、闇に火の粉を舞い散らせ、せめぎ合った。
「でも私はあなたにふられた! 私はあなたにいらないと言われたのよ! だからブライコーダを離れ、あなたからも離れた!」
悔し紛れ、いやどさくさ紛れと言った方がよかっただろう。カナリは駄々をこねる子供のように何度もレザークの剣に自分の剣をぶつけ、
「どうせ! あなたには! 理解できないでしょ! 私の気持ちなんか! でも私は! 今もあなたをっ! 好きなの……よっっっ!」
最後の斬りつけのようだった。それでもレザークは顔色一つ変えず、
「すまない。オレは立ちはだかる貴様を倒して進む。大事な人を救うために……」
一度、レザークはカナリの剣を宙へ下からはね退け、閃刃・改に稲妻を纏わせた。
ふっとカナリの視界に溢れていた光の眩さが、痛みと共に背面へと過ぎった。
「
カナリの目には森の暗闇が訪れたが、その威力は気絶するくらいのものではなかった。
敵である自分を最後まで仕留めない。
その奇妙な気の使い方に、カナリは奥歯を噛みしめ、膝をついた。
「あ、あなた、ほんと腹立つわね……。どこまで私を弄ぶ気……?」
痛みに喘ぎつつ、カナリは仰向けになったあと横向きになった。顔を険しくさせながら、レザークの剣撃が命中した腹の辺りを、手で抑えることしかできなかった。
「貴様にはもっとお似合いなやつがいる……。それだけは確かだろう」
カナリを背にレザークはそう言い残すとその場を去った。
追跡するレザークを巻き、メゾムたちが辿り着いた場所は、学校近くの山の頂だった。
そこは見晴らしがよく、首都オンリーアの夜景が望めた。
額の中央で前髪を分けた少年ジスードは、恐る恐る尋ねた。
「メゾム様……、私にヘキサ・シンを与えてくださるのはいつになるのでしょうか?」
「わからないのか? この状況が!」
金髪をセミロングにしたメゾムは、かっと目を見開きそう怒鳴った。
見た目は、かつて共に勉学に励んだココーネと遜色なかったのだが、その形相は正反対と言えるほどにかけ離れていた。
「明らかに計画は失敗だ。ダイガンにようやく一矢報えると思ったのに……」
メゾムはぐっと握り拳を作った。
「なぜ私を選んだのです? ヘキサ・シンの値の低い私なんか最初から戦力にならないじゃないですか……」
「それはそうだ。弱さをひけらかしたようなお前のような人間には手を差し伸べやすい。弱みを握りやすいということでもある。実直なお前はヘキサ・シンの低劣さに強い劣等感を抱いていた。一番それを欲しているお前に、こちらがそれをちらつかせればその実直さも利用できる……。まあ、もうすでにその意味も持たないがな……」
当惑の色を顔に滲ませるジスードの胸の真ん中に、メゾムは手を差し出した。
「な、何を?」ジスードは狼狽する。
「用なしだ。ここで果てろ……」
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