第十一章 過去との邂逅②
「剣術を教えてほしいって頼まれちゃって……」
ココーネを見習う形で、とはこのときも言えずにいた。ウォルゴはどこか不満気に腕を胸の前で組み、
「変なとこで利害が一致したんだろ?」
「利害っていうか、他人に教えるって結構こちらも得るものがあるよ。彼らと一緒になって自分を磨くのは、謙虚になって学んでいかないとなって、やる気も増してくるし」
ウォルゴの指摘に、アネスは真面目に答えたはずだったが、ウォルゴは不可解なアネスの言動からか、半眼になっていた。そこへもう一人、今度は歯に衣着せぬ物言いをする人物が現れた。
「そうでなきゃ、オレに勝てないもんな?」
「厄介なのが来たぜ」
ウォルゴは胸の前で腕を組み、やってきたレザークを見て顔をしかめた。
「まあ、そんなことしなくても、僕には余裕だけど」
フ……と、アネスに浴びせられた雑言に眼鏡の少年は長い水色の髪を耳に引っかけつつ、突き放すような冷たい笑みを浮かべた。
「その余裕が裏目に出ているようだが? どう考えても森へのピクニックは軽率だろう。バカか貴様ら……」
軽く吐き捨てるように言うレザークだったが、
「真面目ぶっちゃって。森には本物のヘル・マだっているんだ。力試しには丁度いいかと思うんだけど……」
「そんなもの、無謀ってやつだろう。好き勝手やって適当に死ぬがいい」
「まあ、ヘル・マ数体倒せれば、誰かさんを超えられたって事実だけは間違いないだろうね」
アネスの居丈高な様子に、レザークは奥歯を噛みしめ、アネスは追い打ちをかけていく。
「ほんとはレザークだって行きたいんだろ?」
その時睨み合うアネスとレザークの間に入ったのは、ココーネだった。
「他に行く人いないか探してみたけれど、これだけしか集まらなかったわ」
ノイルに誘われて以来、一日二日は経つが力や運を試したいのは、ノイルたちやアネスたちだけではなかったようだ。
ざっと五名近い人数の男女を連れてきたココーネの顔の広さや、行動力はたいしたものだ。よく誘えたものだと、アネスは思ったが、
「何かピクニックにでも行くんだって?」「行き先はどこだ?」と口々に言う同じ学年の生徒たち。ココーネは目的地までは伝えてなかったようだ。しかしそれでも、ココーネについてきた五人はココーネの人と成りを信じていたのかもしれない。でなければ、わざわざ接点のないアネスたちの元にやってくることはなかっただろう。
ところが、ココーネの考えが的外れだったのか「森に行くの。みんなの実力を試してみるためよ」と言うと、手の平を返したように、
「そりゃ無理だ」「力や運を試す前に死んじゃうよ」等と言って五人全員去っていった。
「もう、ココーネまでアネスたちと同じなの?」
腰に手を持ってきてやれやれといった口っぷりのルビーシャに、ココーネはそっと耳元で囁いた。
「お目付け役……。まあすぐに引き返すわよ」
すぐに引き返す――。ココーネのその一言は、普段のココーネの言動からいって、まっとうなものに見えなくもない。しかしココーネを加えた成績上位の三人が、揃って劣等生であるノイルたちの口車に乗せられるとは、ルビーシャは怪訝な顔で、ウォルゴと顔を見合わせた。
そして、森への進入当日――。
アネス、レザーク、ココーネ、ノイルそしてジナクとイッジュは、学校の前の坂を上がっていき、鉄の高い壁を越えて、難なく森に踏み入った。
高い鉄柵は、強化のヘキサートで脚力を上げることで飛び越えられた。
「森との境界を守るヘキサージェンは、巡回時刻が決まってるみたいでね」
「じゃあ今このタイミングが丁度よかったってことか」
ノイルの説明にアネスも得心がいっていた。
「んで? 今日はどこまで行くんだ?」
レザークの態度は微小に横柄なものを感じさせる。力比べという目的での侵入は、レザーク自身、どこか腑に落ちないのだろう。
レザークの今の言葉には、意図的なものを感じた。
「どこまでって、何か目印でもあるみたいじゃないか……。あ、そうか。森の中にヘキサージェンの基地があるんだったっけ?」
アネスとレザークを先頭に、彼らのすぐ後ろをココーネ、そこから少し離れた所をノイルたちが歩く。
レザークが小声でアネスに説明する。
「バカが。そんなわけあるか。ノイルたちは森へ何度も侵入している。過去、行けた場所から、今回は更に先へって具合に、踏み入った距離を大雑把に測って自慢してるんだ」
「え、じゃあミザーレさんの話は……」
「誰だそいつは」
レザークも知らないミザーレというヘキサージェン……。それがもし、架空の存在だとして、ノイルたちは何を企んでいるのだろう。
アネスはレザークの問いかけにはわざと応じなかった。レザークにまた罵られるのも面倒だし、ここでレザークだけが学校の方へ戻ったりすれば、力試し自体がなくなってしまう可能性もあるからだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます