第567話 お礼は大事

テーナガエビを売っていた男の子とお互いに自己紹介をし、名前はボルト君、12歳と判明。


ボルト君は教会の隣の孤児院に住んでいるという事なので、教会まで案内を頼んで歩いて向かっている。



「なぁボルト君、テーナガエビを夕食にするって言ってたけど、テーナガエビって沢山捕れるの?」


「うん、近くの川に沢山居るよ。でも昼間は巣の中に居て出て来ないから、早朝と夕方しか捕れないけどね。

あっ、孤児院が見えて来たよ。教会の隣にあるボロい建物が孤児院ね」



おおっ!


ボルト君の言う通り年季の入ったボロい木造の建物がある。


ただどことなく日本の田舎にあるような木造の平屋に見えなくもない。よく見ると縁側もあるし


ここに来て日本人の痕跡を多数発見するとは思わなかった。



「あぁ~あ、昨日余ったテーナガエビを忘れてそのままにしちゃってたかぁ~」



孤児院の入り口の横に置いてある桶を見て、ボルト君が『勿体無いなぁ』という表情をしているけれど


水の入った桶の中でテーナガエビは元気に動いているから、まだ全然食べられるだろう。


むむっ!


ちょっと待てよ、このテーナガエビ昨日から水の中に居たって事は、泥抜き出来てるんじゃね?



「なぁボルト君、そこの桶に入ってるテーナガエビを売ってくれないか?」


「え?テーナガエビは泥臭いって分かったのにまだ食べるつもりなの?しかも昨日捕ったテーナガエビだし」


「こうみえて俺は商人だから、見知らぬ物は色々試したいんだよ。それにまだ動いてるから問題は無い」


「そういう事ならいいけど、何匹買ってくれるの?」


「ボルト君が持ってるのも含めて、全部頂戴♪」


「あぁ~、全部売っちゃうと夕食が無くなっちゃうから、、、」


「ふむふむ、それなら干し芋と交換でどうだろう?そのまま食べても美味しいし、小さく切ってスープに入れるのも美味しいと思う。

とりあえず試食どうぞ、ボルト君口開けてー、はい、あーん」


「あー」


「ほいっと」


「モグモグモグモグ、、旨っ!えっ?何コレ?!なんか分かんないけど甘くてすげぇー美味しい♪」



ふふっ


ボルト君は良いリアクションをしてくれる。


キャラバンシティだと甘味は子供のお小遣いで買える物も沢山あるから、ボルト君のようなリアクションをしてくる人は珍しいんだよ。



「テーナガエビ1匹と干し芋1枚の交換で商談は成立かな?」


「うん!全部交換で良いよ。テーナガエビなんて幾らでも捕れるから。えっと、、、12匹と交換だね」


「では干し芋12枚どうぞ。良い取り引きだったよボルト君、今後もどうぞ御贔屓に♪」


「えへへ♪」



ではさっそく手に入れたテーナガエビを美味しく料理しよう♪


孤児院の前だと通行人の邪魔になるから、孤児院の裏側に回って、片手鍋、カセットコンロ、サラダ油、カタクリ粉を準備する。


片手鍋にサラダ油を入れてカセットコンロで熱している間に、タワシでテーナガエビの表面を軽く擦って汚れを落とし水洗いする。


キッチンペーパーでテーナガエビに付いてる水を拭き取ったら、テーナガエビにカタクリ粉をまぶし、180℃に熱したサラダ油にゴー!


ジュワァーーーーーーーー!



「うわっ?!テーナガエビがジュワジュワしてるけど大丈夫なの?」



ボルト君のリアクションを見る限り、ポリマでは『油で揚げる』という調理方法は一般的では無いようだ。



「大丈夫だけど、油が跳ねると火傷するから近付かないようにな」


「うん!」


「ナガクラ様、そろそろよろしいのでは?」


「んー、衣に色も付いてカリッとしてそうだからいいか。じゃあヨウコさんもボルト君も1匹ずつどうぞ」


「あぁ~、初めて見た料理方法だから気にはなるけど、テーナガエビは食べ飽きたから、、、」


「まぁまぁ、そう言わずに。上手くいってたら泥臭く無くなってるはずだから、ひと口だけでも食べてみなよ。

それでは、いただきます。」


「いただきまーす♪」


「うっ、うーん、、いただきます」



サクサクサクサク、、おおっ!


テーナガエビの手を食べてみたけど、エビの風味が濃くてサクサクで、止められない止まらないエビせんみたいやな♪


続きましてテーナガエビの本体を、あーんっ、、サクッジュワァ~♪


噛んだ瞬間にエビの旨味が溢れて来て、めちゃめちゃ旨いな!


これは酒のつまみとして出せば絶対売れるやつぅ~。テーナガエビ1匹銅貨3枚くらいで売ればボロ儲けやで♪



「おーい、ボルト君、テーナガエビの味はどう、、、聞くまでも無かったか(笑)」



テーナガエビを口に詰め込んだボルト君は、幸せそうに口をモグモグしてるから、美味しいって事なんだろう。



「なっ、なぁシンさん、何でこのテーナガエビ泥臭く無いの?」


「昨日から生きたまま水の中に居たからだな」


「えぇー?!そんな簡単な事なのかよ!」


「その簡単な事に他の奴より早く気付ければ、大金を稼げるチャンスがある事を覚えておけよ」


「そっ、そうなのか、、、」



ボルト君が真剣に考え込んでしまったけど、頑張って泥臭くないテーナガエビの唐揚げを作って金を稼いで、孤児院の子供達に腹いっぱい飯を食わせてやってくれ。



残念ながら、俺は無償で他人を助けるような聖人では無い!


今回はボルト君が干し芋とテーナガエビを交換してくれたお礼だから、これくらいが妥当だろう。


後で教会に行って創造神様にテーナガエビの唐揚げをお供えするけど、たまたま創造神様が降臨してテーナガエビの唐揚げを喜んでくれて


それをたまたま教会に来て居た誰かが見ていて、ポリマの街でテーナガエビの唐揚げが名物になったとしても


俺には何の関係も無い事さ♪





つづく。

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