第566話 テーナガエビ

宿場町ポリマには身分証の提示だけであっさりと入る事が出来た。


ただ直ぐ近くに王都があるこんな場所の宿場町に、それほど需要があるのか?と思ったけど


王都に入るには身分証の提示だけでは流石に無理らしく、持ち物やら何処から来たのかとか入念にチェックされるらしい。


だから午後から王都に入ろうとしても、チェックに時間がかかって入れない可能性がある。


ベテランの行商人や冒険者ほど早めにポリマに入り宿で疲れを癒し、翌日早朝から王都に向かうのだとか。


そのせいなのか、ポリマの町の中は飲食店と宿屋がズラッと並んで壮観だ!



さてと


護衛対象に見付けて貰う為にこれから露店をしなければいけないし、今夜泊まる宿も必要だ。


だがしかし


こんな知らない町の宿に泊まるのは、はっきり言って恐い!


勿論ヨウコさんと相部屋にするから俺に危険は無いから、そっち方面の心配はそもそもしてないし恐くも無い。


じゃあ何が恐いって、金目当てとか何かしらの理由でお馬鹿さんが襲って来た場合、対処するのはヨウコさんになる。


正当防衛でヨウコさんに手加減をお願いする気は全く無い。そうなると襲って来たお馬鹿さんがどうなるかなんて俺の知ったこっちゃ無い


知ったこっちゃ無いのだが、仮にお馬鹿さんがミンチになったら、、、


おぅふ(汗)


考えただけでも恐怖でおしっこチビりそうだよ。



、、、むむっ?!


ポリマの町の中からでもはっきりと見える王城の向こう側の空から、何か大きな物体が近付いて来る。


あれはいったい、、、


シエーネさんが呼び寄せた浮島か?!


閃いた!



「ねぇヨウコさん、浮島に転移で行けたりしない?多分王城の上に留まると思うんだけど」


「それくらいの距離なら問題ありませんよ。」


「じゃあ夜は浮島で1泊しよう。浮島なら遠慮無く好きな料理を食べられるからね」


「おおっ!それは良いですね♪もう冬ですし、厚揚げたっぷりの土手鍋が食べたいです!」


「土手鍋かぁ、そしたら俺は牡蠣鍋にしよう。シエーネさんも土手鍋好きだと良いけど」


「シエーネさんならトマホークでも出しておけば文句は言われませんよ」


「トマホークかぁ、なら安心だな」



リブロースの骨付き肉の事をトマホークと呼ぶんだが、それを初めて見た時は、こんなマンガやアニメでしか見ない夢の肉があるんだ♪と、すげぇテンション上がったのを覚えている。


キャラバンシティだと小さな肉屋でも、動物だろうと魔物だろうと1頭買いが常識だから、リブロースの骨付き肉(トマホーク)も普通に売ってるんだよな


まぁそれを俺が知ったのはつい最近、スミレ・ケイト・シエーネさん・シェラさんの、『腹ぺこ娘カルテット』が大量のトマホークを嬉しそうに買って来たからだけど。


夕食は土手鍋とトマホークを焼いたので決定!



次は露店で売るものを決めよう。


干し芋と干し肉を売るのが手っ取り早いけど、せっかくならポリマの町の名物になるよう物を売りたい。


という事でヨウコさんと一緒に露店が集まる広場に来て物色中だ。ただなぁ、やはりというかなんというか、調理した飲食物はスープを除くと焼いた肉串しか無い。


しかも味付けは塩のみ!


1年ほど前のキャラバンシティを思い出す。あの頃のキャラバンシティも塩味の食べ物しか無かったなと。


キャラバンシティ以外だと未だにこれが普通なのか?


バルゴ王国の食文化の発展は無理かもしれん。



「ナガクラ様、テーナガエビです!」


「テーナガエビ?」


「はい!私の鑑定で『美味』と出てますが

全く売れていないようなので、テーナガエビを露店で売るのが宜しいかと」



ヨウコさんの指差す方を見ると、12歳くらいの男の子が広場の隅でひっそりと串に刺したエビを焼いているけど、確かに売れてる気配が全く無い。


ただしあのエビ、手が胴体の2倍くらいの長さがあって、元世界にも居た『手長海老』そっくりだ。


こっちの世界のあらゆる生物は創造神様が創造した筈だから、きっとあのテーナガエビも『手長海老』を参考にしたんだろうな。


だとすると絶対美味しいやつやん♪


さっそく買って食べてみよう!



「こんにちは、2本下さーい」


「はーい、1本銅貨1枚でーす、、、お兄さんとお姉さんはポリマには初めて来たの?」


「さっき着いたばかりで色々見てまわってる所だよ。はい、銅貨2枚ね」


「えっと、その前に、テーナガエビって凄く泥臭いけど良い?食べた後で金返せって言われても困るんだけど」


「えっ?!金返せって言われるレベルで泥臭いの?」


「うん、知り合いの冒険者とか商人さんがたまに義理で買ってくれるけど、ポリマに住んでる人でテーナガエビを食べる人は居ないよ。

売れ残っても孤児院で夕食の材料にするから、1本売れたらラッキーって感じでこうやって売ってるだけだから」



よく見たら男の子の後ろに木桶があって、中では10匹くらいの生きたテーナガエビがガサガサしている。


なんてこった、せっかくの新鮮な食材が全く活かされて無いなんて(悲)



「ちなみにテーナガエビの泥を吐かせたりは?」


「え?どうやって?」


「あぁ~、そうね、シラナイヨネー。金返せとか言わないから2本頂戴」


「うーん、それならいいけど、本当に泥臭いからね。はい、どうぞ」


「ありがとう。ヨウコさんも1本どうぞ」


「はい♪」



いざ実食!


あーんっ、モグモグ、、、くっ!


分かっちゃいたけど泥臭いよぉー(泣)



「ナッ、ナナナナガクラ様、これはあきません(汗)せっかくのテーナガエビがこれでは、、、由々しき事態です!」



むむっ!


ヨウコさんがこれほど焦っているという事は、神の怒りに触れるレベルの泥臭さなのか?!


ここは急いで美味しいテーナガエビ料理を作って創造神様にお供えしなければ!


れっつちゃれんじ、テーナガエビ料理!






つづく。

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