第561話 ダサジャージ父と息子

「このサンダルも良いな♪」


「そんな物で良ければ幾らでもどうぞ」


「ただ、ハインツは良い顔をせんだろうがな」


「あぁ~、貴族家の当主がこの格好は駄目なんでしょうねぇ」


「残念だが寝室でのみ使うとしよう」



俺は今、レヴァティ様と一緒に食後の散歩をしている。


息子が居たら一緒に夜の庭を散歩するのが夢だったらしいけど、俺もレヴァティ様もダサジャージにサンダルだから、他家の貴族には絶対見せられない姿なのだろう。


その証拠に


俺達から少し離れた場所で、レヴァティ様の事を慈愛に満ちた表情で見つめている執事のハインツさんは、レヴァティ様の上着と靴を手に持ち、いつでも着替えられるように準備万端だ。



「話は変わるが、アルテミスは良い娘だろ?」


「ええ、俺には勿体無いくらいですよ」


「ふむふむ、もし私が結婚に反対すると言ったらどうする?」


「結婚に反対されるのは困るので、俺も本気を出しておとうさんに結婚を認めて貰うとしましょう。ちょっと待ってて下さいね」



収納から『木箱・白い布・創造神像』の3点セットを取り出し、木箱に白い布をかけて創造神像を置き祭壇を作る。



「何をするつもりだ?」


「俺の経済力は既に知ってるでしょうから、結婚を認めて貰う為に次に示すべきは人脈かと思いまして、直ぐに創造神様に降臨して頂きますから、ちょっとだけ待ってて下さいね」


「なっ?!ちょっ、ちょっと待てシン(汗)頑張る方向が間違っているから!結婚に反対などしないから、1度冷静になろう、なっ?」


「創造神様には俺の義父を紹介したいんですけど」


「けっ、結婚式当日で良いんじゃないかなぁ~?今日はもう夜も遅いし」


「確かに、この時間に呼ぶのは迷惑かもしれませんね。じゃあ紹介するのは結婚式当日という事で」


「ふぅー、助かった。何となく言った事で神が関わって来るとか、スケールが大き過ぎるぞ。豪快な男は嫌いでは無いがな♪」


「実は家族を守る為の備えをしていたらメリルに『邪神と戦うつもりなの?』なんて先日言われたばかりなんですよ。

いくらなんでも邪神と戦うとか無理過ぎて笑っちゃいますよ。あはははは♪」


「アハハハ、、、シンの豪快さは、既に私の想像の斜め上を行っていたか。」



レヴァティ様の反応から、気軽に創造神様を紹介するのは駄目なようだ。


神様と人との距離が近い世界なんだから、『神様に会えるのは至上の喜び!』みたいな感覚かと思っていたけど、違うらしい。



「おっと!おとうさんに聞く事があったのをすっかり忘れてましたよ」


「私に答えられるのはバルゴ王国の事くらいだが」


「それで充分です。ケフェウス子爵領に『炭酸泉』があるのは知ってますか?」


「噂でしか知らんが湧き出る水の事だろう?見た事は無いが他にも、龍殺しや黄金水があるとか」


「実は炭酸泉がレモンサワーにも使った炭酸水と同じかもしれないんで、1度確認したいなと」


「ほぉほぉ、炭酸泉と炭酸水が同じとは面白い。本当に同じ物ならケフェウス子爵はレモンサワーを売るだけで莫大な利益を得られるだろうな。」


「他にも炭酸を使った酒は沢山ありますし、炭酸泉の温度が高ければ大きな風呂を作って保養地にしたり、湯治場にして利用料を取るのも有りでしょう。

何にしても領地が凄く発展するんで、そうなった場合不都合とかありますか?」


「他家の領地が潤うのは面白くは無いが、ケフェウス子爵は保守派閥であるし、我が領地からも離れていて、領地が発展しても影響はほぼ無いだろうからどうなっても構わん。

後はゲオルグ殿次第だな。」


「そういう事ならソレイユ様に1度相談してからにします。」


「それが良いだろうな。」


「ちなみに、普通の水にも微量ですけど炭酸が含まれていて、魔法で取り出せると炭酸泉にこだわる必要は無くなるんですが」


「無理だな」


「まさかの即答?!」


「ははは、我々も遊んでいる訳では無いんだ。エルフのコニーとフラニーがパン作りに魔法を使っていると聞いて、真似が出来ないか研究していたんだが、あのように高度な魔法の応用はエルフだから成せる技であって人には難易度が高い。

水に含まれている物を取り出すなど、パン作りより難易度が高い魔法はまず無理だな。」



へぇ~


コニーとフラニーがまさかそれほどまでに高度な事をしてパンを作っていたとは思わなかった。


コニーとフラニーはパン作りに特化しちゃったけど、眠れる森に行けばもっと色んな事が出来るエルフが見付かるかもしれない。


族長のフレデリカさんには挨拶をしたいと思っていたし、1度くらいは眠れる森に行くのも良いだろう。


年末年始は忙しいから先の話になるだろうけどな。






つづく。

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