第555話 アウェーです!

きりたんぽを大量に購入してご機嫌なアストレア様をトゥクトゥク自転車に乗せて


いざ


ピスケス伯爵邸へ!


チリンチリーン♪



街の中を走るとほどなくして、立派な塀に囲まれた屋敷が見えて来た。


意外にもゲオルグ様やステフ様の屋敷よりかなり小ぢんまりしていて、日本の高級住宅街を探せばありそうな常識的な大きさの豪邸だ。


小さいと言ってもこっちの世界の基準ではってだけで、充分に豪邸ではあるけどな!


トゥクトゥク自転車が近付くと門扉が音も無くスーーーッと開いて、そのまま屋敷の扉の前まで進んで行く。


その間、屋敷の扉の前で整列してアストレア様の帰りを待ち構えていた使用人さん達が、誰1人全く微動だにしていない光景を見ると


アストレア様ってガチの貴族なんだなと改めて実感し、そして貴族って恐ぇーよ(汗)


やっぱ一般人はおいそれと貴族に近付くものじゃない。神経がすり減って寿命が縮んでしまう。


そんな事を考えていると執事っぽい男性が近付いて来た。



「お帰りなさいませ奥様、そしてお嬢様。御無事の到着、祝着至極にございます。」


「はい、ただいま。皆にも紹介しておくわね、アルテミスと結婚するシンさんよ。」


「お初にお目にかかりますナガクラ様。私はピスケス伯爵家で執事をしておりますハインツと申します。老齢の老いぼれですので至らぬ事もあるかと思いますが、以後お見知りおきを」


「はじめましてハインツさん、シン・ナガクラです。こちらこそよろしくお願いします。」


「「「「「・・・」」」」」



ぐはぁっ!


ハインツさんと他の使用人さん達から


『貴様とお嬢様とでは全く釣り合っていないが、結婚するって正気か?』


っていう感じでめっちゃ睨まれてるぅー(汗)


そりゃあ俺もそっち側だったら同じリアクションをするけどさぁ、表面上だけでも最初くらいは暖かく歓迎してよぉー(泣)



「ハインツさんも皆もただいま♪」


「お帰りなさいませお嬢様、、、う゛っ、、ぐっ、、、不肖ハインツ、今まで生きて来れて、真に、、、真に幸せに御座います(泣)」



えぇー?!


さっきまで俺の事をめっちゃ睨んでたハインツさんが、アルテミスさんと挨拶しただけで涙ぐんでるんですけど


何この落差!


しょせん俺は他人だからしょうがないんだけどさぁ



「ちょっとおかあさん、俺だけ敵地に乗り込んで来たみたいになってるんですけど」


「ふふっ、あの子達は昔からアルテミスには凄く甘いからしょうがないわね。

アルテミスが離婚して帰って来た時も大変だったのよ。

昔みたいに笑わなくなっちゃったアルテミスを見て、皆言葉には出さないけど怒っちゃってねぇ。

元旦那の所に何時乗り込んでもおかしく無いくらいで、そりゃあもう屋敷内の雰囲気は最悪だったわ。懐かしいわねぇ♪」



のんきに思い出に浸ってる場合とちゃいまっせおかあさん!


いや、今この場で困ってるのは俺だけだけど



「あのう、これって俺が皆さんを認めさせないと駄目みたいな流れですか?」


「シンさんのお陰でアルテミスに笑顔が戻った事は皆も理解してるだろうし、放っておいても良いんじゃないかしら?」


「流石に放っておくのは駄目でしょ。あれだけ慕われてるんだから、今すぐにでも祝福して欲しいじゃないですか」


「あらあら♪可愛い息子がやる気を出してておかあさん嬉しいわ♪」




人生において大切な事は星の数ほどあるけれど


今この瞬間に限って言えば、惚れた女性の笑顔を守るより大切な事など、ある筈が無い!



「ピスケス伯爵家の使用人さん達に告げーる!俺は皆さんに勝負を申し込む!」


「「「「「っ?!」」」」」


「え?あのっ、シンさん?!」


「アルテミスさん、心配無用です。使用人を代表してハインツさんに問います。俺との勝負を受けて頂けますか?」


「残念ながら、我々とナガクラ様が勝負をする理由がありません」


「理由ならある!俺も皆さんに心から祝福して貰ってアルテミスさんと結婚したい。そこで、皆さんでは絶対に見る事が出来ない、アルテミスさんのとびっきりの笑顔を見せてみせる!

それが出来たら俺の勝ちって事で、俺とアルテミスさんの事を笑顔で祝福して欲しい。」


「もし出来ない時はいかがするのですか?」


「煮るなり焼くなり好きにしてくれ」


「う゛ぅ゛、、、ジン゛さ゛ん゛、私、、、頑張って、ひっぐ、、、えが、、、え゛がお゛に、、、な゛るから゛、、、」


「ふふっ、既にお嬢様が涙目になっておられますが、勝負は我々の勝ちですかな?」


「ちょっ、ちょっと待った!アルテミスさん、今は嬉しいんですよね?」


「う゛ん゛、むぐぐぐぐっ、、、」



あちゃー


アルテミスさんが唇を噛んで必死に涙を堪えてくれてるのは嬉しいんだけど、そうじゃない!



「アルテミスさん、嬉しい時も泣いて良いんですよ」


「う゛っ、、、だぁーーーーーーー(泣)」



まったく、俺の奥さんはみんな泣き方が豪快なんだから


そういう所、俺は大好きだけどな♪



「ハインツさんどうですか?アルテミスさんの嬉し泣きは最高でしょうよ。ここは俺の勝ちですね♪」


「まったくナガクラ様は、老いぼれになると体内の水分量が減ってしまうのに、これ以上水分を出させて私の寿命を縮める気ですか?」


「いえいえ、アルテミスさんの子供の面倒を見て貰うんだから、長生きして貰わないと困りますって」


「老いぼれに無茶を言わないで頂きたい。ですが、、、そうですね、幼少の頃の教育というのは大切ですから、ここは素直に負けを認めて、お嬢様の子は私が責任を持って面倒を見させて頂きましょう。」



ハインツさん、そういう台詞は俺に背を向けて空を見上げながら言う事じゃないっての


ただ、、、


メイドさん達から、「一人だけズルい!!」って言われてめっちゃ責められてるけどな(笑)


アストレア様も笑顔だし、号泣してたアルテミスさんも泣きながら笑ってるから


問題なんて何も無し♪






つづく。

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