第554話 笑顔の誓い

チリンチリン♪


数回の小休憩とお昼ご飯休憩を挟み、ようやくピスケス伯爵領の領都アルレシャまでやって来た。


領都と言っても街道の右側には米用の田んぼ、左側には大豆用の畑が広がっていて、とてものどかな田舎町だ。


今はちょうど収穫された稲が天日干しされていて、こういう風景を見ていると夏休みに田舎のお婆ちゃんの家に遊びに来たみたいで、めっちゃテンションが上がるぅー♪


今すぐ田んぼの横にある溜め池でスルメイカを餌にザリガニ釣りをしたいくらいだ。


まぁここはアルテミスさんの実家な訳だから、将来的には夏に子供を連れて帰省して


朝はラジオ体操


昼は川遊びに魚釣り


夜は花火


そんな感じで夏の間ひたすら遊んだら、絶対に楽しいやつぅー♪



「ねぇシンさん、大豆畑に何かあったのかしら?」


「特別な事は何もありませんよ。想像していたより広大な畑だったんで驚いてますけど」


「そうなの?驚くというよりは嬉しそうだったから、何か新しい料理でも思い付いたのかと思って」



おっと


将来の事を考えてニヤニヤしていたのが顔に出て、アストレア様に見られていたか。



「新しい料理はありませんけど、ピスケス領はとても過ごしやすそうな土地なので、子供が出来たら一緒に遊びに来たいなと考えてました。」


「あらあらまぁまぁ♪キャラバンシティのような活気は無いけれど、ゆっくり過ごすには本当に良い所なのよ。

アルテミスも20歳を越えているとはいえ、10人くらいは子供を産めると思うのよねぇ」


「ちょっとお母さん!そういうのは夫婦で相談して決めるから余計な事は言わないでよね(恥)」


「ふふっ、アルテミスに怒られちゃったわ」



アルテミスさんに怒られたのに、アストレア様は相変わらず嬉しそうなんだよなぁ。


アルテミスさんと遠慮せず色んな話が出来るのがよほど嬉しいんだろうと思う。


まぁ、アルテミスさんは顔を赤くして俯いちゃったけど



「何人、、、ですか?」


「え?」


「シンさんは、子供は何人欲しいんですか?」


「あぁ~、そういうのって考えた事無いかもです。1人で充分な気もしますし、10人居ても楽しそうですよね。でも妊娠出産って大変な事ですから、人数にこだわる必要は無いですからね」


「はい!私、頑張りますから!」



えっと、アルテミスさんが凄く気合いの入った表情をしているんだけど、何人子供を産むつもりなのだろう?


まぁ子供に関しては『安産』以外は自然の成り行きに任せるだけだから、気にしてもしょうがない。


『安産』だけは、お菓子をお供えして創造神様にきっちりとお願いしておくけどな!




むむっ?!


すぅーはぁー、すぅーはぁー♪


何処からともなく醤油の焦げる良い匂いがする!


領主邸が近付いて来たからか、いつの間にか周囲に民家が建ち並び、串に刺した何かを焼いてる屋台がいくつもある。


米の産地なだけあって『五平餅』とか『きりたんぽ』みたいな物を焼いてるようだ。



「もっと気温が下がったら、みんなできりたんぽ鍋を食べたいですね。味付けは味噌と醤油両方作って食べ比べるのも良いですよね♪」


「あのシンさん、鍋は食べない方がいいと思いますけど」



ん?


何故かアルテミスさんが凄く不安そうな顔をしているのだが、、、


あっ?!


原因は『鍋料理』か!


そういえば以前ニィナに鍋料理を教えた時にも、凄く不安そうな顔をして


「食べられる鍋なのですか?」


なんて事を言われたっけ、懐かしいなぁ(笑)



「アルテミスさん、心配しなくても鍋は食べませんから。鍋で煮た料理を『鍋料理』って呼んでるだけですから」


「そっ、そうですか。でも屋台の料理を見て『きりたんぽ鍋』を食べたいと言ったという事は、新しい料理ですか?」


「料理って味付けや具材が変われば全く別の料理になったりしますから、ピスケス領発祥の料理って事で良い、、、のかな?」


「とりあえず夕食は『きりたんぽ鍋』にして試食ね♪シンさん、あそこの屋台で売ってる食べ物で良いの?」


「そうですね。」


「じゃあ買って来るから待っててちょうだい!」


「え?ちょっ、アストレア様?!」



言うが早いかアストレア様はトゥクトゥク自転車から飛び降りて走って屋台に向かってしまった。


まさか飛び降りて行くとは思わなかったんだろう。護衛の人達も急いでアストレア様の後を追って行くけれど


急に武装した集団が押し掛けて来て、きりたんぽの屋台の店主さんが、青い顔をして怯えてしまっているよ。


まぁメイドのシンシアさんが事情を説明してるから大丈夫だろうとは思う。



「アルテミスさんちょっといいですか?」


「大丈夫です。シンさんの言いたい事はだいたい分かります。お母さんは良くも悪くも他人の事を気にしない性格なだけです。

元々がライブラ公爵家の御令嬢として大事に育てられた筈なので、致し方無いかと」


「まぁ王国十二家のピスケス伯爵夫人という立場にしては、気さくで話しやすいんでしょうけど、、、」


「「・・・」」


「キュゥ~ン」



俺とアルテミスさんはお互いの顔を見て『一緒に頑張りましょう!』という意味を込めて、ゆっくりと頷きあう。


ついでにずっと寝ていたもふもふキツネ姿のヨウコさんも、何かを察して同意するように静かに鳴いている。


俺とアルテミスさんは、アストレア様を笑顔に出来る数少ない『人』なのだろうと思う。


アストレア様から笑顔が消えた時、それは神獣すら巻き込んで、沢山の悲しい事が起きてしまうのだから。



俺達3人はアストレア様の笑顔を守る為に、静かに誓いあうのだった。






つづく。

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