第545話 会長のお仕事 その2

【2組目】


ポセイドン王国からやって来たダークエルフ、総勢12人。


成人男性1人


成人女性10人


2歳の女の子1人





ニィナ以外のダークエルフを見るのは初めてだから感慨深いものがある。


だけどなぁ


この中で唯一の子供である女の子に、先程からずっと怯えた目で見つめられていて、豆腐メンタルの俺は消滅の危機なんだが(汗)


これは女の子が悪い訳でも無いし、俺が悪い訳でも無い


だってダークエルフの皆さんは部屋に入って来るなり、そのまま床に土下座して微動だにしないんだもの。


リーダーっぽい男性が50歳くらい?


女性達は15~20歳くらいと若く見える。


まぁダークエルフは長命種族だから、20歳に見えても100歳を越えている可能性は充分にある。




「なぁアル、この人達は何なの?」


「見ての通りダークエルフですね。シンさんに召し抱えて欲しいとやって来たのですが、どうします?」



待て待て


『召し抱えて欲しい』って何やねん!


『雇う』では駄目なのか?


ここは同じダークエルフのニィナに聞いてみよう。



「えっと、ニィナさん、この人達は知り合いだったりします?」


「いえ、面識はありません。ただ、何処かの戦場で一緒だった可能性はありますが、その程度の関係ですね。」


「ようするに他人って事ね。それで、召し抱えて欲しいって何なの?雇うのは駄目なの?」


「旦那様が『雇う』と言うのならそれでも構わないけれど、ここに居る人達は旦那様に忠誠を誓って、旦那様の為だけに全てを捧げたいんじゃない?」



待て待て待て!


初対面で全てを捧げるとか、責任重大過ぎて嫌過ぎる!


とりあえずダークエルフの皆さんに話を聞いて判断だ。



「えっと、皆さんは池田屋商会で働きたいという事でしょうか?」


「叶うのならば、我ら一同をナガクラ様に召し抱えて頂きとうございます。」


「どうして俺なんですか?商会経営は順調だから池田屋商会で働きたいって人は沢山居ますけど、俺に召し抱えて欲しいってのは理解出来ません」


「ナガクラ様は我らの怨敵、オフューカス兄弟を見事討ち取ってございますれば、我らが全てを捧げるのはナガクラ様以外におりません。」



あぁー


オフューカスの名前は久しぶりに聞いたな。


詳しくは知らないけど、過去にオフューカスとダークエルフは戦をしていて、オフューカスが勝ったんだよな。


そこでニィナは捕虜になったけど、病にかかってキャラバンシティの奴隷商に売られたんだ。


そして、オフューカス兄弟は川の中洲で野営をしている時に土砂に飲まれて亡くなっている。



「オフューカス兄弟は事故死で俺が討ち取った訳では無いから、全てを捧げる相手とは言えないんじゃない?」


「偶然であれ何であれ戦場では結果が全て。更にはオフューカス一族郎党が根絶やしになったのは、ナガクラ様が関わっていたからだと、我々は確信しております。」



うーむ


これはかなり入念に俺の事を調べて来てるっぽい。


ダークエルフは種族の特性として情報収集が得意らしいからな。



「まぁその辺の事情は俺からは何も言えませんし、そういう理由で召し抱えるなんて事も無理です。」


「ナガクラ様に迷惑をかけるのは我らも本意ではありません。

ナガクラ様にお仕えしたい理由は他にもございます。


ナガクラ様は私財を投じて孤児達の世話もなさっておられるとか。先程教会に祈りを捧げに行った際、孤児達が楽しそうに遊んでいる姿を見ました。


今の世の中で、あれほどの数の孤児を笑顔に出来る者がどれほど居るでしょう?


次代を担う我が娘のカレンも、あの輪の中に入れるのなら、ナガクラ様に全てを捧げる程度は安いものです。


直ぐに信用して頂けるとは思っておりませぬ。必ずや成果を出しますので、それをもって信用の証として頂ければ幸いにございます。

もし『首』が必要と申されるのであれば、この老いぼれの首1つで許して頂けますよう、伏してお願い申しあげます。」



待て待て待て!


『首』で許すとか俺は暴君か!


臣下に焼き討ちされる未来が確実に歩み寄って来とるがな(汗)


とにかく、焼き討ちフラグは確実に折っておかないと駄目だ。



「分かりました。とりあえず皆さんには池田屋商会の見習いとして働いて貰います。その様子を見てから俺が召し抱えるかどうかを判断したいと思いますが、どうですか?」


「はっ!委細承知しましてございます。必ずやご期待に添えるよう、ナガクラ様と池田屋商会の為に、この命燃え尽きるその瞬間まで頑張らせて頂きます。」


「あぁ、うん、皆さんの働きに期待します。」


「「「「「「「「「「「おおっ♪」」」」」」」」」」」



おぅふ


ダークエルフの皆さんのキラキラした笑顔が重いです。


これが大人だけだったら拒否したけれど、こんな大人達に育てられる2歳の女の子カレンちゃんの将来が不安過ぎる。


これは早急に召し抱えて適当な任務を与えないと駄目だ。



「ダークエルフの皆さんにはとりあえず、畑仕事か牛の世話をして貰えば良いと思うんだけど、後はアルに任せて大丈夫か?」


「お任せ下さい。」



はぁ~


2組目で俺の精神は早くも満身創痍なんだけど、会長のお仕事はまだまだこれからだ!






つづく。

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