第533話 Key person
ドサッドサッ
「2人にはとりあえずこれで頑張って頂きたい。」
「ナガクラ君はバルゴ王国を乗っ取るつもりなのかい?
本気だって言うなら召し抱えて欲しいな」
「ヤンの言う通りです。まぁあっしは国がどうとか関係無く、ナガクラ様に召し抱えて頂きたいですがね♪」
「2人とも待ちなさいよ。アリエス辺境伯領発展の為なのに、俺が召し抱えたら意味無いでしょうが」
俺はアリエス辺境伯領発展のキーパーソンを、薬師のヤン先生と、料理長のセルジオのとっつぁんだと判断した。
ちゃんと効果のある薬を平民でも買えるくらいの安価で提供出来れば、それだけでアリエス辺境伯領に移住したいと考える人は居るだろう。
料理に関しては今更説明する必要も無いだろうけど、美味しい料理が沢山ある地域に人が集まるのは必然だ。
逆に言えば、美味しい料理が無い場所に人が集まる事は無い!
という理由から
俺はさっそく2人を呼んで、これからの活動資金として金貨100枚入った袋をそれぞれに渡したところ
何故か召し抱えて欲しいという話になってしまった。
「活動資金をくれるのは嬉しいけど、金額に相応しい成果を出す自信は無い!」
おいおい、自信が無い事をそんなに胸を張ってはっきり言わないで欲しい。無駄に自信満々よりは良いけども
「ヤンはまだ若いんでおおめに見てやって下さいナガクラ様。代わりにあっしが頑張りやすから、心配無用でさぁ!」
とっつぁんのノリと勢いは好きなんだけど、根拠があるようには見えないんだよなぁ。
「それより急に活動資金なんてどうしたのさ?ナガクラ君が急に何かをするのはいつもの事だけど。」
「目的は領地の発展ですけど、色んな人材の育成が急務と判断しました。事務仕事を専門にする文官は完全に俺の専門外なので、俺に出来る事を考えた結果です。」
「ナガクラ君なら問題無く文官も育成しそうだけどね」
「人材育成なんて自分の商会だけで精一杯ですよ。
とっつぁんにはこの本をプレゼントするので、新人育成に活用して下さい。」
「あっしに本ですか?どれどれペラッと、、、なっ?!これはもしやナガクラ様の秘伝書!」
凄く良いリアクションをしてくれて申し訳無いけど、その本は『家庭料理入門・20選』というタイトルの、普通の料理本です。
味噌汁・肉じゃが・親子丼・ハンバーグ等々、日本人にはお馴染みの料理20個を集めた本だ。
「とっつぁんにプレゼントしたのは初心者用の料理本だから、それで基本の家庭料理を覚えて下さい。」
「ちなみに写本はしても構わねぇですか?無関係の奴等に見せるような事はしやせんが、紙はどうしても劣化するんで普段は写本を使いたいんですが」
「勿論構いませんよ。もし汚れて読めなくなったら言って下さい。新しい本を用意するんで、遠慮せず皆さんで熟読して下さい。」
「いえいえ、原本はあっしの家宝にさせていただきやす!明日は腕の良い写本師を探さねぇとなぁ、忙しくなるぜ♪」
ふふっ
セルジオのとっつぁんは料理本を両手で大事そうに抱えて凄く嬉しそうだなぁ。
あの表情はクリスマスの朝に、枕元に置いてあるプレゼントを見付けた子供みたいだ♪
「領地を発展させる方法で思い付いたんですけど、酒を造りませんか?」
「そりゃあナガクラ様の持ってるような酒が作れるなら、貴族連中が大金払ってでも買うでしょう。
しかしですね、それで領地が発展するかってぇと難しいかもしれませんぜ」
「貴族に高値で売れるなら産業として充分だと思いますけど」
「普通ならそうなんですがね、貴族が絡むとそうもいかねぇんです。特に酒は駄目ですね。
旨い酒の産地は国内に幾つかありやすけど、他家の領地が潤うのは許せねぇんでしょうね。
生産者の強引な引き抜きくらいは可愛いもんで、脅迫や半殺しなんてのも普通です。結果として領主が楽しむくらいの量しか生産されず、他領にはほぼ出回りませんね。
キャラバンシティは領主不在の空白地ですし、ドワーフとエルフが睨みをきかせてるんで、誰も手を出せやせんが。」
まったく、貴族というのは実に面倒な連中だな!
「細かい事は追々考えるとして、少量で良いんで酒造ってみませんか?
芋から酒を造って梅を漬けて『梅酒』にしたら名産品になりそうでしょ?」
「梅干しのあの梅が酒に?」
俺が欲しいのは梅酒に使う『ホワイトリカー』だ。
甲類焼酎に分類されるホワイトリカーは無味無臭の焼酎で、梅酒やレモンサワーに使う酒だ。
ホワイトリカーは安価にする為に廃糖蜜から作るのが一般的らしいけど、俺には眠れる森から定期的に大量の芋が贈られて来るから、芋でホワイトリカーを造っても何の問題も無い。
「とりあえず今夜は梅酒の試飲会するんで、2人とも予定は空けておいて下さいよ」
「ガッテン承知でさぁ!とは言え、ナガクラ様より大事な予定なんてありやせんがね、わっはっはっはっ♪」
「セルジオさんの言う通りだね。どっかの偉そうな薬師のジジイから話を聞くより、ナガクラ君とお酒を飲む方が得られるものは断然多いよ」
お酒を飲んで酔っぱらってる時に、薬師に役立つ話は流石に出来ないと思うんだけどなぁ
そんな事より、試飲会に向けて梅酒に合う料理を調べておかなくっちゃ!
つづく。
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