第521話 駐屯地改善作戦! その4

「ナガクラさん、バターとは?」


「池田屋商会で作ってる新商品になる予定の油のような物ですね。」


「へぇー、それがあれば更に美味しくなるのかい?」


「好みもありますけど俺は好きです。」


「では私が個人的に買うからバターを使って欲しい。」


「そりゃあ俺は商人ですから、買ってくれるなら売りますけど。しかしですよ、アリエス辺境伯領でバターが買えるようになるのは1~2年は先じゃないかな?

美味しい食べ物って、また食べたくなりますし、止めておいた方が良い気がしますけど。」


「ナガクラさんは育ちが良いんだねぇ。

普通は今日を生きるのが精一杯で1年も先の事なんて考える奴は居ないよ。だから今この瞬間の幸せを1番大事にしてるんだ。

それに今回は依頼の報酬だからね、アイツ等に代わって正当な対価を要求する。」


「となると、契約違反にならないように、たっぷりバターを使って作らないといけませんね♪」


「ふふっ、助かるよ。

犯罪奴隷って言うと人権を無視しても良いなんて考える馬鹿も居るんだけどね、国境の守りや鉱山での採掘には欠かせない人材なんだよ。

他の場所ではどうだか知らないけど、少なくともここに居る連中は自分の犯した罪を後悔しながら生きてる。

やさぐれてはいるけどね(笑)」


「あはははは。それにバターが売れるなら俺は儲かるだけで損はしません。1~2年後はどうぞ御贔屓に♪」


「わっはっはっはっ、王都のアホ文官なんぞ、国境防衛に予算を出す出すって言っといて10年も音沙汰無しだ。

会長のナガクラさんが言うなら2年あれば確実にバターが買えるようになるんだろうさ。

2年なんて余裕だね!」


「信用して貰えるのは凄く嬉しいですけど、期待がプレッシャーとなって辛いです(汗)」


「そこは未来の常連客獲得の為に、必死で頑張って欲しいね♪」



おぅふ


なんやかんやで俺はリアさんに上手く乗せられてしまったんじゃなかろうか?


だがしかし


国境の防衛を頑張ってくれるなら、アリエス辺境伯領の平和も保たれてステフ様の心配事も無くなるから、問題なんて全く無い♪



さぁーて、頑張って報酬の料理を作りますか!


バター無しで焼いたパンはマヨネーズを塗って、リアさんと従者の2人に渡して食べて貰おう。



「おっ、おい、ナガクラさん!」


「どうしました?」


「いや、さっきまで散々バターの話をしてたと思うんだが、どうして我々にバター無しのパンを渡すんだ?」


「掃除を頑張った彼女達にバター無しの報酬を渡す訳にはいきませんし、だからと言って無駄には出来ないので、リアさん達に渡すのが自然な流れかなと。

バターを使ったパンはちゃんと3人の分も作りますから、お腹に余裕があれば食べて下さいよ。」


「まぁ旨そうな匂いはしてるから5枚位は余裕だろうけどさ、あんっ、モグモグ、旨っ!なんじゃコレ?!スープに入れても旨味なんて全く感じないカッチカチパンなのに、旨っ!

ちょっと待ってナガクラさん、これバターを使って更に美味しくするんだよな?」


「ええ、さっきから散々その話をしてましたから。」


「ナガクラさん、コレ駄目なやつぅー!奴隷に食べさせちゃ駄目なやつだからぁー(汗)

次から労役させる時は、報酬にこのパン無いと誰も仕事しないやつだからぁー(泣)」


「大袈裟だなぁ、材料は全部貯蔵室にあった物だから作れば良いじゃないですか。今からバターをたっぷり使って焼くパンは無理でしょうけど」


「ホントごめんなさい。池田屋商会を舐めてました!」


「今さら無しとか言えないんで、頑張って作れるようになって下さい。」


「だよなー、頑張って作るよ(悲)」


「でも奴隷って命令には逆らえないでしょ?」


「逆らえはしないけど抵抗は出来るから、仕事の効率がめちゃくちゃ落ちる!」



へぇー


奴隷ってそういう感じなのか。


池田屋商会にも奴隷は沢山居るけど、命令した事無いからここに来て初めて知ったわ。


奴隷の扱いは責任者であるリアさんに頑張って貰うとして、報酬のお食事系フレンチトーストを作らねば!



ケチらずたっぷりのバターを入れて熱したフライパンに、卵液に浸しておいたパンを投入


ジュワァーーー


スンスン、、パンとバターの焼ける匂いが最高やな♪


中までちゃんと火が通るようにじっくり片面を焼いたら、ひっくり返してベーコンとスライスチーズを乗せてマヨネーズをかける。


少し悩んだけど、スライスチーズはとろけないのを選んでみた。


とろけるチーズも美味しいんだけど、とろけないチーズも美味しいんだよなぁ。



パンの両面が焼けたら上にもう1枚パンを乗せて、なんちゃって『クロックムッシュ』の完成!


お好みでホワイトソースを挟んでも美味しいよね♪


完成したなんちゃってクロックムッシュを見たリアさんが、何とも言えない複雑な表情をしているけれど、貯蔵室を綺麗にしてくれた対価としては安いくらいだよ。


食糧を運ぶだけの簡単なお仕事が、思いがけず重要な任務になってしまったけど


これにて無事に任務完了!






つづく。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る