第520話 駐屯地改善作戦! その3

ズザッズザッズザッ、ズザッズザッズザッ


この世界にある保存食のカッチカチパンという物を、俺は今日初めてこの目で見ている。


噂には聞いていたけれど、まさかノコギリじゃないと切れないほどに堅い食べ物だとは思わなかった。


マーサさんがノコギリを勢いよく前後に動かすと、ズザッズザッ!とパン粉を撒き散らしながら次々にカッチカチパンがスライスされて行く。


しかもこのカッチカチパン、貯蔵室でホコリまみれになっていたから、風魔法で表面のホコリを飛ばして、更に濡れ布巾で表面を拭いている。


パンにカビが無いだけで、こんなのもう食べ物の扱いじゃねぇーよ!



「あっ、あの、パン切り終わったっすけど」


「マーサさんありがとうございます。切ったパンを塩と牛のミルクを混ぜた卵液に浸します。」


「「「「あ゛っ?!」」」」



マーサさん、リアさん、従者の2人が凄く驚いてるけど何故だ?


カッチカチパンはそのままだと堅過ぎて食べられないから、スープに入れてふやかして食べるのが普通らしいのに、卵液に浸す事の何処に驚きポイントがあるんだよ。



「あの旦那様、よろしいでしょうか?」


「ニィナどうしたの?」


「その卵液には塩と牛のミルクしか入っていません。フレンチトーストを作るには砂糖が足りませんけど」


「うん大丈夫。砂糖はまだまだ気軽に買える値段じゃ無いから、俺が帰った後でも作れる料理にする為に砂糖は入れてないんだよ」


「なるほど、甘味では無くお食事系の料理ですか」


「正解♪まぁ甘味はジャムで充分かな。山を探せば木苺くらいはあるっしょ」



「おっ、おーい、白っぽくなったぞ、です。」



「ナガクラさん、プゥ達の方も出来たみたいだぞ」


「分かりました。とりあえずパンはしばらく卵液に浸しておいて、プゥさんが頑張って混ぜた卵を木匙で掬ってペロッと、、、ふむふむ、ピクルスの汁とレモン汁少々を加えて、プゥさん混ぜて!」


「おっ、おう!」


シャカシャカシャカシャカシャカシャカ



「はい、ストーップ、、もう一度味見をペロッと、、、オッケー!プゥさんもシーラさんも口開けて~、はい、あーん」


「「あー」」


「ほいほいっと」


「んっ?!」「わっ?!」


「卵?、、えっ?、、卵なのに、、え?」


「「えぇっ?!」」



ふふふっ


マヨネーズを食べたプゥさんとシーラさんのリアクションは新鮮で楽しいなぁ♪


マヨネーズって最初から作り方を見ていても、どうしてこんな味になるのか分からない不思議な食べ物だと思う。



「ナガクラ様、貯蔵室の掃除が終わりましたよ~♪」


「はーい、、、?」



貯蔵室の掃除をしていたヨウコさんに呼ばれたので振り向くと、そこには清々しい表情のヨウコさんと、横一列に綺麗に並んで三角座りをしている7人の女性達が居る。


ただなぁ


皆さん地獄で沙汰を待つ罪人のような表情をしてるのは何故?


いやまぁ、彼女達は犯罪奴隷だから罪人なんだけど、掃除をしてる最中に貯蔵室にある備品でも壊したのかな?



「ヨウコさん、貯蔵室は綺麗になりました?」


「現状で最高の仕事をやったという自負はあります!」



人と同じ常識を持ち合わせた神獣のヨウコさんがそこまで言うなら、間違いなく貯蔵室は綺麗になったんだろう。


どれどれ確認を、、、おおっ!


なんという事でしょう、あれほどカビ腐かった貯蔵室が驚くほど無臭になり、部屋の隅に積もっていたホコリも蜘蛛の巣も跡形も無い


建物自体が古いからはっきり言って清潔感は微妙だけど、短時間でよくここまで綺麗にしたと思う。


皆さんやれば出来るじゃない♪


これなら天から神の怒りが降り注ぐ最悪の事態は起こらないだろう。



「ヨウコさんお疲れ様でした。ここまで綺麗になれば充分です。」


「私は虫を追い出しただけで頑張ったのは彼女達ですから、賛辞は彼女達にお願いします。」


「それは勿論だけど、どうして彼女達はあんなに不安そうな表情なの?」


「私は問題無いと言ったんですけど、報酬の焼き栗を貰えるか不安らしいですよ」



なるほど、犯罪奴隷にとって決められた食事以外で何か食べるってのは無いんだろうな。



「えーー、皆さん、掃除お疲れ様でした。私の期待以上に綺麗になりましたから、約束通り報酬を支払わさせて頂きます。」


「「「「「「「♪♪♪」」」」」」」



ふふっ


皆さん声には出さないけれど、パァッと花が咲いたように無邪気な笑顔だ♪



「今から焼き栗を配りますけど、一気に口に入れずに味わって食べて下さいね。無言の圧力を見付けたら没収しますから」


「「「「「「「うんうん!」」」」」」」



あぁ~


皆さんの反応から予想すると、ガッチリ序列があって無言の圧力で後々に食べ物やらなんやらを自主的に献上するとか、日常茶飯事なんだろうなぁ


人が集まるとどうしても起きる根深い闇だよ。



「こっちはヨウコさんにお任せします。」


「はい♪」


「マーサさん、プゥさん、シーラさんは焼き栗は後回しにして、追加の報酬を作って貰います。卵液に浸しておいたパンを焼いて下さい」


「「「おうっ!」」」



ジュワァーー!


スンスン、スンスン


甘くないお食事系フレンチトーストはラードで焼いてみたんだけど、なかなか良い感じだ♪


だがしかし


「やっぱりパンにはバターだよなぁ」


「ナガクラさん、バターとは?」



おっと!


うっかり心の声が漏れていたらしく、リアさんにバターの事を聞かれてしまった。


池田屋商会でもバターは未だに作る量が少なくて、贈り物にするだけで販売していない。


だから教えて良いのか迷うけど、、、


無料の試食会って事にすればメリルにも怒られる事は無いと思うし


まっいっか♪






つづく。

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