閑話 広がる影響

side:ガゼル



「あなた~、手紙が来てますよぉ」



妻のオリビエがやって来たが、あの手に持っている紫色の封書、あの紙は確かポセイドン王国の王族だけが使う事を許されている『海皇紫』と呼ばれる色の特別製の紙だったはず。


差出人が誰か知らんが、あんな物を受け取ってもロクな事にはならんだろうな。



「ワシに手紙じゃと?そんな物を出して寄越すような知り合いなど居らんから、窯の焚き付けにでもしておいてくれ。」


「私はそれでも構わないけれど、ポセイドン王国からの正式な外交文書だから絶対に読んで下さい!ってミリアリアから渡されたのに、読まずに捨てるとあの子が泣いちゃうけど良いの?」


「後で謝罪すればええじゃろ。そもそも商業ギルドを経由してワシに外交文書を送って来るなど、どうせ嫌がらせじゃ」


「あの子が泣くとシンさんが心配するでしょうねぇ。そしてシンさんに心配事が増えると、お酒造りとか酒場とか色々と手が廻らなくなっても仕方無いわねぇ~」


「くっ(汗)、、、分かった、手紙を読めばええんじゃろ!まったくシンの事を持ち出すのは反則じゃぞオリビエ」


「うふふ、それで手紙は誰からだったの?」



封蝋はポセイドン王国の物で間違い無いな。特殊な魔法がかけられておるから、ワシ以外が開けようとすると手紙が燃える仕組みか?


ワシごときの手紙に無駄に手の込んだ事をする


ベリベリッ、と海皇紫の封書を無造作に破いて中身を確認する。



「差出人はヘイゲルじゃな」


「ヘイゲルって言えば、あなたの兄弟子だったあのヘイゲル?」


「ふんっ、たかだか30年ほど早く長老に弟子入りしただけのヘイゲルを、兄弟子などとは呼ばん!」


「確か80年くらい前にポセイドン王国から王宮を作る指名依頼が来たのよね?そのままポセイドン王国に移住したって聞いたけど」


「うむ、そのヘイゲルが池田屋商会の扱う瓶ビールをポセイドン王国に輸出しろと言って来た。

値段は瓶ビール1本に銀貨5枚を出すらしい」


「あらあら、随分と評価が高いのね♪」


「まぁ当然じゃろう。酒精が弱いとはいえビールの旨さはまさに『酒革命』じゃ。

ドワーフの里に贈った瓶ビールを誰かがヘイゲルに贈ったんじゃろう。池田屋商会以外で瓶ビールは買えんからな。

ついでに国王も説得済で、ビールの輸送はポセイドン王国の責任で行うらしい」


「それでどうするの?国王を巻き込んでいるのに断ると色々と面倒になるけど」


「個人的な考えを言うと、ヘイゲルとポセイドン王国の王族が飲む分を売るくらいは構わん。向こうは海洋国家、バルゴ王国では手に入らん物も多い、それらを得る為にも恩を売って損は無かろう。」


「問題はシンさんね」


「ああ、ビールの仕入れ先は秘密という事になっとるが、シンが直接造っておるのじゃろう。どうやって造っているのかまでは想像も出来んが、おそらく酒の神に頼まれてビール等の酒を広める使命を授かったのじゃろうな。

もしかしたらビールも酒の神から下賜されている物なのかもしれん。

そういう理由があるならビールの仕入れ先を秘密にするのも納得じゃ。」


「酒の神様はポセイドン王国にビールを輸出する事を許して下さるかしら?」


「どうじゃろうな。ワシらキャラバンシティに住むドワーフには酒の造り方さえも無制限に教えてくれておるみたいじゃが、、、シンはポセイドン王国の事は知ってるのか?」


「んーーーーー、シンさんってバルゴ王国の事でさえあまり詳しく知らないんじゃないかしら?となると、酒の神様に説明する時に困るわよねぇ」


「そこは要相談じゃな。

とりあえず酒の神にお供えする物を考えておくべきじゃろう。ワシとしてはビールとモツ煮をお供えするのが良いと思う。

サチコさんの作るモツ煮は絶品じゃからな♪」


「それならクレアさんのつくね串も必須よ。塩とタレ、どちらも最高に美味しいんだから!」


「うーむ、ヘイゲルの為にモツ煮とつくね串の両方をお供えするのは、ちょいと勿体無い気がするのう。」


「そこはシンさんに聞いてから判断しましょう。

創造神様はこの世界の食文化の発展を望んでおられるみたいだから、きっと酒の神様も酒文化の発展を望んでおられるはず!

これは我々ドワーフに課せられた天命なのよ!」


「これは来年の春に向けて、酒の原料になる作物の作付けを増やさねばならんな。

シンと出会ってから冬もゆっくりしてる隙が無くて忙しいのう♪」


「シンさん流に言うと、嬉しい悲鳴というやつね♪」


「嬉し過ぎて寝る間も惜しいくらいじゃ。」


「きちんと睡眠を取らないとシンさんに怒られちゃうのが問題よねぇ」


「うむ。シンも寝不足になるくらい子作りに励めばええんじゃが」


「うふふ、お藤さんが言うにはそろそろらしいわよ♪」


「やっとか!メリルさんの体が小さい事を気にして遠慮しておったからな。今日はめでたい日じゃなぁ、よし!ワシの秘蔵のウィスキー『ジャック』を開けて祝杯じゃ♪」


「あらあら、アルテミスさんの結婚式まで取っておくんじゃ無かったの?」


「そこはまぁ、、、あれじゃ、めでたい日に旨い酒を飲まんのはドワーフとして生まれた意味が無かろう?」


「じゃあ私は『ジョニー』を開けようかしら♪」


「そう来なくては!ナガクラファミリーに」


「シンさんの未来の子孫達に」


「「かんぱい♪」」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る