第497話 シェヘラザード・バレンタイン

パカラッ!パカラッ!パカラッ!パカラッ!


ブルルッ



心なしか急ぎ足で戻って来たスコーピオン公爵家の馬車は、俺とアルテミスさんの前で停車した。


ガチャッ!



「この匂いはやっぱりシン殿だったぁー♪」


ぐぅー!ぐぅーー!!ぐぅーーー!!!


馬車から下りて来たのはペトルーシュカ様の護衛のシェラさんで、俺の予想通りシェラさんの腹の音が豪快に鳴っている(笑)



「シェラさんお久し振りです。相変わらずお腹の調子は良さそうですね♪」


「調子が良過ぎて限界ですよぉ(泣)何か食べるものを、、、いえ、こっ、ここは、くっ!、、、ぐぬぬっ、、、、、」



よく分からないけどシェラさんが必死に何かと葛藤しているようだ。



「シェラさん大丈夫ですか?簡単な料理で良ければ直ぐに出せますけど」


「今にも倒れそうなほどお腹が減ってますけど、ここは、、、ペトルーシュカ様を、、、ゆ、、ゆうせ、、、、、、優先して下さい(泣)」



待て待て待て、泣くほどお腹が減ってるのにペトルーシュカ様を優先するとか、どんな緊急事態やねん!



「ペトルーシュカ様大丈夫ですか!」



俺は急いで馬車の中に入ってペトルーシュカ様に声をかける。



「シンさん?!ちょっ、ちょっと外で待ってて(汗)」



馬車の中に居たペトルーシュカ様に馬車の外で待ってるように言われたから出て来たけど、ペトルーシュカ様は真っ赤にした目をグシグシ擦っていたから目にゴミでも入ったのだろうか?


とりあえず馬車の外から目を擦るのは止めるように注意しておこう。



「ペトルーシュカ様ぁー、目にゴミが入ったのなら擦らず目薬があるので使って下さいねー」


「あのシン殿、ペトルーシュカ様は目にゴミが入った訳では無いです。でもその事には触れないであげて下さい。」


「でもシェラさんが空腹を我慢するほどの何かがあったんですよね?」


「ええ、まぁ、そうなんですけど、、」


ガチャッ



「シンさんこんにちは、少し遅くなったけど約束通り戻って来たわよ。でも今まで何処に行ってたのよ!」


「ペトルーシュカ様、お久し振りです。今日はずっと自宅に居ましたけど、私を探してたんですか?」


「自宅に居た?うっ、嘘を言うんじゃ無いわよ、私と会いたく無いならはっきりそう言えば良いじゃない!」




おーい、ペトルーシュカ様


はっきり言えばって言われましても、俺はペトルーシュカ様と初対面の時から、はっきりきっぱり『ペトルーシュカ様と結婚はしない』と断言してましたやん(悲)



「ペトルーシュカ様とは結婚しないだけで、会いたく無いと思った事はありませんよ。」


「ほっ、本当に私と会いたく無いから隠れてた訳じゃないの?」


「本当ですし隠れてもいませんからね。私の隣に居るアルテミスさんに聞いて下さい。創造神様に誓って証言してくれますから。」


「本当ですよペトルーシュカ様、今日はずっとシンさんと一緒に自宅に居ましたから」


「でっ、でも自宅に行ったけど留守だったわよ!商会に行っても閉まってたし」


「あぁ~、最近引っ越しまして、塀の後ろに見える建物が新居です。それと池田屋商会は本日臨時休業なのでタイミングが悪かったですね」


「じゃっ、じゃあシンさんは本当に私と会いたく無くて隠れてた訳じゃないのね?」


「勿論ですよ。ペトルーシュカ様ならいつでも歓迎しますから安心して下さい。

ちょうどクッキー焼いてたんでお茶にしませんか?」


「うぅぅ、グスッ、、よがっ、、、よがっだぁ~、、わだじ、ジン゛さんに゛、嫌われだどおもっ、、お゛も゛っだがら゛ぁ~(泣)」



あちゃー


ペトルーシュカ様が号泣しちゃったよ。



「ペトルーシュカ様、大丈夫ですから鼻かみましょうね。はいっ、チーン」


「チーン、ズビッ」


「はい、もう1回、チーン」


「チーン」


「ペトルーシュカ様大丈夫ですか?」


「、、、うん(照)」



ほっ


照れてるって事は少しは冷静になったみたいだ。



「ペトルーシュカ様、どうやらわたしはここまでのようです。長い間お世話になりました。ぐきゅるるぅ~~(悲)」



シェラさーん!


ペトルーシュカ様を優先して放っておいたのは申し訳無かったけれど、空腹で限界だからって我が家の門扉の前で横にならないで欲しい。


自慢じゃないが、俺にシェラさんを担いで家に戻るだけの体力は無い!


だから


誰か助けてぇーー(泣)






つづく。

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