第427話 アルテミス・ピスケス伯爵令嬢

「ではサーシャさん、本当に無理はしなくて良いですからね。リコちゃんで子育ての練習をさせて貰えてるだけで、報酬を渡したいくらいなんですから」


「ナガクラ様や御家族の皆様の御役に立てるのなら、リコも私も生涯の誉でございます。仕事はお任せ下さい!必ずや御満足頂ける結果を残してみせますので!」


「あう、あう」


「リコ、あなたも頑張るのよ!」


「あう゛ぅ~♪」


「うふふ、行って来ます!」



あぁ~


サーシャさんが腕をブンブン回しながら行ってしまったよ


もう少し母と子のスキンシップを増やした方が良いと思うんだけどなぁ


とはいえ、俺に抱っこされてるリコちゃんも、サーシャさんの気合いの入った姿を見て『頑張れ!』と言っているように見えなくもない。



リコちゃんが産まれてから5日ほど経ったんだけど、なんとサーシャさんが仕事をしたいと言い出したんだ


「仕事より子育てを優先して下さい!」と言ってはみたものの


我が家で世話になるからには、対価として仕事をさせて貰えないなら今すぐ出て行くって言われたら断れませんやん(汗)


という訳でサーシャさんには栗の皮剥きをお願いする事になった。


栗なら洋菓子にも和菓子にも使えるから幾らあっても困らないし、ベッドの上でリラックスしながら、、、は無理だろうなぁ


どう考えてもサーシャさんは気合いを入れて全力で栗の皮剥きをしちゃうよ


まぁ栗の皮剥きの報酬は年末のボーナスに上乗せしてきちんと支払うから、体調に問題が無いなら頑張って稼いで欲しい。



「そしたらカスミ、リコちゃんは頼むな。俺は夕方まで寝るからアストレア様が来たら起こして」


「お任せ下さい!」



抱っこしていたリコちゃんをカスミに渡して、いったん俺の役目は終わりだ。


リコちゃんの世話は、昼間がカスミとケイトのペアとヨウコさんとスミレのペアが交代で担当していて、俺は夜担当だ。


俺なら疲労も寝不足も回復魔法で癒せるし、収納にサーシャさんの母乳もストックしてあるから適任だろう、、、とは言っても


精神的な疲労に回復魔法は効果が無いから、睡眠が不要って事にはならないけどな。


夜はみんなが寝ているからする事も限られるけど、昨夜はゴーレムの『べーやん』と『ゼタ丸』と一緒にずっとリバーシで勝負していたし、オムツの交換も手伝ってくれるから


昼夜逆転生活でスミレをもふもふする機会が減った以外は、なかなか充実した育児生活を送っている♪


これが1人で昼間に仕事をしながら育児をしなきゃいけないとなったら、考えただけでも一気に疲労がががが(汗)


とりあえず池田屋商会の本店に保育所のような場所は作んなきゃなぁ、、、っていうかさっさと寝よう


今日は珍しくアストレア様が客を連れて夕食を食べに行くからよろしく、って事前に連絡があったんだよ


いったい誰を連れて来るのかは知らんけど、面倒事だけは勘弁して欲しい。




◇ ◇ ◇



「えっと、アルテミス様はお酒は好きですか?」


「好き、と言えるほど飲んだ事がありませんけれど、よろしければ戴きたいと思います。それとナガクラ様、私のような出戻りの醜女(しこめ)に『様』など不要にございます。」



うーむ


醜女(しこめ)ってたしか、容姿の悪い女性の事を言うんだったか?


貴族らしく華やかさのあるアストレア様と比べると、肩まである茶色い髪の毛を後で纏めたアルテミス様はとても地味な見た目だけど


1980年代~90年代にかけて活躍した若い頃の『ブリジット・フォンダ』や『ティア・レオーニ』に雰囲気が似ていて充分に可愛いし


スーツを着せれば落ち着いた雰囲気の真面目な美人さん、って感じもする。


アルテミス様は現在21歳。


貴族の結婚適齢期が12~18歳らしいから、この歳で独身で更に離婚歴があると本人に何か問題があると思われるんだろうと推測する


色々な意味を込めて自分の事を醜女と言ったんだろうけど、そこまで言わんでも良いと思うけど貴族の世界ってマジで面倒くせぇーよ!




「では、アルテミスさんと呼びますね。それと私にも『様』は不要です。」


「そう仰有られるのであれば、母のように『シンさん』とお呼びしてもよろしいでしょうか?」


「勿論です。」


「ではそのように致します。」




俺は今、我が家の客間でアストレア様が連れて来た客人と2人きりで居る


まぁその客人というのがレヴァティ様とアストレア様の娘さんで、政略結婚でアークトゥルス伯爵に嫁いでいたのだけど、離婚してピスケス伯爵領に戻って来た


アルテミス・ピスケス伯爵令嬢、21歳



お互いの自己紹介もそこそこにアストレア様から


「せっかくだから2人だけでお酒でも飲みながらお話してらっしゃいよ♪」


って言われて我が家の客間でアルテミスさんと2人きりにされてしまった。


そして


アルテミスさんは母親であるアストレア様と違って、自分から積極的に話をするタイプでは無いらしく


どういう風に接して良いか分からないんですけどぉー(汗)


アストレア様も俺が自分から話をするタイプで無い事くらい分かってるはずなのに、アルテミスさんと2人きりにして楽しい会話が出来ると思ったんだろうか?



とにかく俺にこの場を盛り上げるだけのトークスキルは無い。


ここはいつものように、スキルの「店」で買ったお酒とお菓子で驚いて貰って乗り切ってみせーる!






つづく。


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