第425話 つぼみが花開くように

「「「すぅ、、、すぅ、、、すぅzzz」」」



現在の時刻はもうすぐ日付が変わろうとする深夜


サーシャさんの出産が始まってから約9時間が経ったけど、未だに産まれる気配は無い


スミレ、コニー、フラニーはリビングの前に出したソファーベッドで仲良く気持ち良さそうに眠っている。


さすがのケイトも待ち疲れたのか俺の肩を枕代わりにして寝ちゃったし、もしかして俺はこのまま朝を迎えるのだろうか?


そう思った時だった



「ふぎゃぁ、ふぎゃぁ、ふぎゃぁ」



あっ?!



『ガチャッ』


「ご主人様、産まれました!女の子です♪」



リビングのドアが開いて出て来たカスミが、赤ちゃんが産まれた事を嬉しそうに報告してくれる。



「そうか産まれたか、サーシャさんは大丈夫か?」


「少し疲れてるみたいですけど、大丈夫だと思います。」


「ケイト起きろ!産まれたぞ」


「、、、ほへ?」



寝ぼけているケイトは放っておくとして、スミレ、コニー、フラニーは、、、


無理に起こす必要は無いか


さっそく赤ちゃんの顔を見に行こう♪




「失礼しまーす。サーシャさん大丈夫ですか?」



ベッドに寝ているサーシャさんは確かにお疲れのようだけど、タオルにくるまれた赤ちゃんを抱いてとても嬉しそうだ。



「ナガクラ様のお陰で無事に産まれました、ありがとうございます。」


「俺は軽食を作ってただけですけどね(笑)」


「良ければこの子を抱いて下さいませ。」


「えっ?、、ちょっ、俺はこういうの初めてなんだけど(汗)」


「ふふっ、誰だって初めてはあるんだから大丈夫よ」



戸惑う俺を無視してサーシャさんとお藤お母さんから赤ちゃんを渡されてしまった。


赤ちゃんの抱き方なんてマジで分からん!


うーむ


とりあえず首と頭を固定しておけば大丈夫だろうか?


赤ちゃんは首がグラグラするからとかなんとかってのを、テレビで聞いた事があるような気がする


俺の抱き方が合ってるかどうかはともかく、なんとなく安定したし周囲で見守ってる誰からも注意されないから大丈夫だろう。



改めて赤ちゃんの顔を見ると、、、


産まれたての赤ちゃんってのは、なんとも表現に困る見た目をしてるよね



「えーーっと、なんとなくお母さんに似てるのかな?将来は美人になるぞぉ♪」


「そっ、そうですか、、、勿体無い御言葉でございます(泣)」



俺が赤ちゃんに向かって話しかけていると、それを聞いたサーシャさんが一瞬驚いた表情をした後に泣き出してしまった。



「ふふっ、あんたもなかなかどうして女性の接し方に慣れて来たじゃないか♪」



女将さんが俺の耳元でサーシャさんに聞こえないような小声で話しかけて来たけれど、ちょっと言ってる意味が分からない


サーシャさんは喜んでるって事で良いんだよな?



産まれたばかりの赤ちゃんが両親のどちらに似ているかなんてのは、はっきり言ってさっぱり分からんけれど、そんな事を正直に言う必要は無いだろう。


それに赤ちゃんは女の子だし、父親よりは母親に似ていて欲しいという俺の願望も入ってるけどな(笑)



「あのナガクラ様、図々しいお願いなのは承知の上ですけれど、この子に名前を付けて頂けませんか?」


「そういうのは旦那さんと相談して決めた方が良いと思うんですけど」


「いえ、出産に間に合わなかったような人と相談するよりも、ナガクラ様に名付けて頂けるのなら、他に勝る事の無い誉でございます。」



サーシャさーん


そこまで言われると俺には荷が重いよぉー(汗)




(ナガクラ様、よろしいでしょうか?)



むむっ!


頭に直接聞こえるこの声、これはヨウコさんからの念話だ。



(ヨウコさん、何かトラブルですか?)


(いえいえ、ちょっとした報告でございます。サーシャさんの旦那様は現在キャラバンシティに向かっている最中ですが、余程稼ぎが良かったのか途中の宿場町等々で娼館巡りをしていて到着が遅れているようです。)


(えーーっと、何故それをヨウコさんが知ってるの?)


(サーシャさんの旦那様に万が一の事があった場合、ナガクラ様の御心が乱れるかもと思い調べておりました。生きてさえいればどうとでもなりますから。そして一般的な人族の感覚だと娼館に行く既婚男性というのは女性から忌避されているのでしょう?ですので遠慮無く名付けて差し上げて良いかと)


(あっ、はい、了解です。お疲れ様でした。)



はぁ~


あまり知りたく無い事実ではあったけど、サーシャさんの旦那さんが無事に帰って来られそうで良かったよ


これからの夫婦生活がどうなるのかは知らんけどな。


池田屋商会は頑張る女性を応援しているから、シングルマザーは大歓迎です!


さてと


赤ちゃんの名前だけど、、、



「『リコ』という名前はどうですか?『つぼみ・若葉』という意味があって、すくすく育つようにって願いも込めみたんですけど」


「リコ?リコ、、リコ、、うふふ、あなたの名前はリコよ、将来はナガクラ様と池田屋商会の御役に立てるように、大きく立派に育ってね♪」



他人の教育方針に口を出す気は無いし、知らない人を雇うよりは縁故採用を喜んでするけれど


子供の将来を決めるのは、せめて言葉を理解してからにしませんか?


とはいえ


リコちゃんを抱いてるサーシャさんは本当に幸せそうだし、サーシャさんに自分の名前を呼ばれるリコちゃんもなんとなく嬉しそうに見える。


さすがに何を言われてるのか理解はしてないんだろうけど


素敵な笑顔の女性が1度に2人も増えたんだもの


それだけで


すべて世はこともなし、ってな♪






つづく。


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