閑話 気付く者
side:とある町の傭兵
「お疲れ様でしたラウール様。素材買取り代金の金貨8枚です。」
「ではいつも通り代金の半分を教会と孤児院の運営費にまわして下さい。くれぐれも王都からシスターや神父を派遣して貰わないようにお願いします。」
「そちらは問題ありませんよ、教会も孤児院もラウール様が運営されているようなものですから、無断で何かをする事はありません。ですので今後もアンデッド討伐はよろしくお願い致します。」
「勿論です!アンデッドとボクの剣は運良く相性が良いみたいですから♪それでは失礼します。」
さてと
最近売られ出したパウンドケーキと言うお菓子でも買って、孤児院の子供達のお土産にしよう♪
ボクは今、ジェミニ辺境伯領にある『プロプス』の町を拠点に傭兵として活動している。
そしてこの町でのボクの主な活動はアンデッド討伐だ。
アンデッドは物理攻撃も魔法もほぼ効かないというとんでもなく厄介な相手だから、討伐難易度もAランクと高い
倒すには『聖属性』が付与された武器や聖属性魔法が必要になるのだが、聖属性魔法を使えるのは神官と聖女様のみ
『聖属性』が付与された武器も勿論あるけど、ミスリルを使った武器以上に高価だから、プロプスのような田舎の小さな町にわざわざアンデッドを討伐してくれるような奴は来ない。
まぁアンデッドはダンジョンにしか出ないから無理に倒す必要は無いんだけど、アンデッドの素材は高値で売れるから倒せるならかなり美味しい相手と言える。
では何故そんな厄介なアンデッドをボクが討伐出来るのかというと、それは
ボクの幼馴染みのケイトと一緒に居た男と戦って負けたからだ。
珍妙な鎧を着たあの男に雷魔法と思われる攻撃を受け気絶したボクは、次に目が覚めた時には別人になっていた
本当に別人になっていた訳では無いけれど、それまで頭にモヤがかかっていたのが一気に晴れたような、長い夢から覚めたような
そんな不思議な気分だったのを今でも鮮明に覚えている。
あの日を境にして何故かボクの身体は聖属性を帯びるようになってしまっていた。
聖属性を帯びるようになった理由は全く分からないけれど、これは女神様からの慈悲だとボクは考えている。
この力を使い今まで犯した罪を償うようにと、、、
ボクの身体に聖属性が帯びるようになって数日、その力が体に馴染んでくると
何故あれほどまでにケイトに執着していたのか、何故ケイトと一緒に居た男に憎しみを抱いていたのかその原因に気付く事が出来た。
おそらく女神様の慈悲の本当の目的はそこにあるのではとボクは考えている。
あれはボクとケイトがまだ孤児院に居た時の出来事だ
当時教会に居たシスターが高齢の為亡くなり、王都から代わりのシスターが来た日の夜
シスターから体が強くなるからと出されたドリンク、あれが全ての始まりだったんだ。
ケイトや他の子達は不味いと言って飲まずにこっそり捨てていたけれど、ボクにはとても美味しく感じて
その日からシスターの作ったドリンクを飲むのが日課になった。
今だから分かるけど、あのドリンクには弱いながらも洗脳の魔法が付与されていて、毎日少しずつボクの事を洗脳していき力を欲するように導いたんだと思う。
元々ボクの中にあったケイトを護る為の『力が欲しい』という欲望と、洗脳魔法の術者との目的が一致した事で
皮肉にも洗脳魔法の効果を強めてしまったんだ。
何の為にそこまでしてボクに力を求めさせたのかは分からないけど、王都から派遣されたシスターが犯人だという事が分かれば調べるのは簡単だった。
シスターを派遣してたのは教会を管理している王都の神殿で、ついでに神父も各地に派遣している事が判明
しかも、シスターや神父は以前から神殿が積極的に集めていた、水魔法を使える者達だった
その人達に洗脳魔法を覚えさせて、バルゴ王国各地の教会に派遣していたんだ。
しかしよく分からないのが、洗脳魔法自体の効果は凄く弱くて何年にも渡って毎日のように飲み続けなければならない
更にボクのように『力が欲しい』という欲望と洗脳魔法の術者の『力を求めろ』という目的が一致しないと、洗脳の効果は弱いって事だ。
こんな面倒な事をするくらいなら、最初から神殿に孤児を集めて強制的に洗脳した方が早いと思うんだけど
あまり派手に動くと王国十ニ家に気付かれてしまうからなのかもしれないし、各地からSランク冒険者やその他優秀な者達を集めて
数十年や百年くらいかけてゆっくりと王国を乗っ取る作戦なのかもしれない。
本当の所は分からないけど、少しでも神殿の企みを遅らせる為に
王都から派遣されたシスターや神父が居る教会や孤児院からそいつらを追い出しているって訳だ。
神殿は冒険者ギルドにも影響力が大きいから、冒険者のままだとボクがしている事に圧力をかけて止めさせようとして来るだろう。
だからこそ国が管理する冒険者では無く傭兵として活動をしている。
幸いにも聖属性を帯びているボクなら教会のやり方に口を出しても、聖女様や神官と同等の扱いをされて町の人達から反対されないし
教会や孤児院の運営資金にと、アンデッド討伐で得た金を寄付しているから尚更反対意見は無い
ただ1つ懸念があるとすれば、ジェミニ辺境伯領にある教会には他領と比べて王都から派遣されるシスターや神父の数が多いって事だ。
ボク1人ではとうてい手が足りるはずも無い
もしケイトが居れば手を貸してくれただろうけど、ケイトとあの男の関係者の前に2度と姿を現さないと約束しちゃったし
ケイトもボクの顔なんて見たく無いだろう。
うーむ
報酬目当てで手伝ってくれる人を集めるしか方法は思い付かないけれど、冒険者時代のボクは分かりやすく嫌な奴だったから、冒険者や傭兵からは避けられてるんだよなぁ
自業自得とはいえこれからどうしよう、、、
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