第365話 パイ

「すぅ、、すぅ、、すぅ、、」



泣き疲れたのか『ジャック』と『ジョニー』の酒瓶を抱えたままオリビエさんは眠ってしまった


徹夜したせいもあるんだろうけど、とても幸せそうに寝ているからそっとしておこう



「ジャックさんに親方、祝いの酒盛りするなら俺も混ぜてくれませんか?」


「お前さんならいつでも大歓迎じゃぞ♪」


「むしろ今日の祝いにはシン殿がおらんと盛り上がらんからな」


「それなら良かった、じゃあ夜に製麺所の地下室に集合って事で」


「ちょいと待て!地下室と言うと池田屋商会の秘技が詰まっとるんじゃないのか?ワシ等は誰かに話したりはせんが、こういう事は徹底して誰も入らせん方が良いぞ。徹底的にやってやり過ぎという事は無いからな」



「ん?いつから地下室に池田屋商会の秘技が詰め込まれたんですか?」


「いつからって、最初からじゃろ?」



何故か会話が噛み合わないんだけど、あの地下室に秘技と呼べる物があったか?


レンネットの培養が成功していたら『秘技』と呼べたかもしれんけど、俺には難易度が高くて断念したし


生ハムとイカの塩辛も『秘技』と呼べるほどじゃない



「えぇーっと、よく分からないんですけど、地下室には俺が色々試している物が沢山ありますけど、どれも『秘技』って呼べるほどの物はありませんよ」


「そうなのか?オリビエからあそこには秘密が詰まっとるから近寄るなと厳命されとるんだが」


「どうやらオリビエさんには気を使わせてしまったみたいですね、せっかくなんで俺が試してる物を見て感想を聞かせて下さいよ」


「うむ、楽しみしとるぞ!」



「地下室は夜のお楽しみという事で。実は旅の間に手に入れた素材があるんで、ジャックさんと親方に見て欲しくて、これです」



俺は収納から旅の間に手に入れた素材を取り出す



「素材と言うからまた新たな金属かと思ったが、、、なんじゃコレは?」


「魔物のパイを倒して残った素材です」


「「パイ?!」」


「パイというと臭くてヌメヌメしとるあのパイか?」


「そうです『パイナン・テターベルモ・ンジャネー』の素材です」


「うーむ、これがパイの素材か、ワシも長く生きとるが初めて見るぞ」



おおっ!


長老のジャックおじいちゃんでも初めて見るのか



「ジャックさん、その素材ハンマーで思いっきりブッ叩いてみて下さい」


「叩けと言うならやるが、どうなっても知らんぞ」


「思いっきりどうぞ!」


「では遠慮無く、そりゃっ!」


『ボフ』


「「なっ?!」」



ふふっ、ジャックさんも親方もパイのゴムみたいな素材にハンマーの勢いが完全に吸収されてびっくりしてるよ


まぁ俺もジャックさんの振り下ろしたハンマーの勢いには少しビビッたけどな(笑)



「どうですか?面白い素材でしょ♪」


「確かに色々と使い道はありそうじゃが、コレ1つではなぁ」


「実はパイの弱点が分かったので簡単に倒せるんですよ」


「「なんだと?!」」



「お前さんのやる事に慣れたと思ったら、まさかパイの弱点を見付けて来るとは流石のワシも呆れてしまうぞ」



えぇー?!


魔物の弱点を見付けたのに何故そんなリアクションになるんだよ(悲)



「パイを簡単に倒せるようになれば森での活動も安全になるでしょ?」


「まぁそうじゃろうが、そもそも意識を失うくらい臭い魔物に近付きたくないというのが本音じゃな、弱点が分かったからといってお前さんはよくパイを倒そうとなどと思ったな」


「俺だって好きで倒した訳じゃないですよ、たまたま遭遇して危なかったんですから!でも今後の為には弱点を知っておかないと危険だと思って攻撃したら、たまたま弱点が分かっただけですよ」



「倒した理由はともかく、シン殿の事じゃから利用法は既に考えてるんじゃろ?」


「流石ジャックさん!話が早くて助かります、衝撃を吸収する特性を利用して車輪の周りに付けたら良いと思うんですけど」


「なるほど、池田屋商会で使ってるリヤカーの車輪のようにするんじゃな?」


「そうなんです!これが普及すればかなりの効率アップになると思います。」



「確かにリヤカーの車輪は良い物じゃから荷運びが楽になるのは確実だが、また騒ぎになるぞ」


「デスヨネー(汗)しばらくはパイの弱点を含めて秘密にしておきますけど、サダルスウド侯爵、アリエス辺境伯、ピスケス伯爵、この3家と連名で公表すれば俺の存在感も薄まるかなぁって考えてみたり?」



「「ガハハハハハハハハハ!」」



えぇー!


ジャックさんと親方の両方から爆笑されてしまったけど、何故だ?



「やはりお前さんと一緒に居ると退屈せんな!存在感が薄まるかは分からんが、いっそのこと十二家全部を巻き込むくらいしたらどうだ?」


「やっぱりそういう方向性になりますか、考えときます」



「お前さんはそうでなくてはな!」


「うむ、シン殿はワシが認めた御仁だからな!」


「「ワハハハハハハハハ♪」」


『『バンッ!バンッ!バンッ!』』


「ぐぇ゛っ!げほっ!ごほっ!」



さすがに2人同時に叩かれると俺の脆弱な防御力では、、、


くっ!


誰か助けてぇー(泣)






つづく。

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