第363話 ジャックとスミレとオリビエと

「それでお前さん今日は何用じゃ?」


「その前に、親方はなんだか疲れてるように見えるんですけど、なんなら明日にましょうか?」


「まぁ、ちっとだけ疲れとるのは確かじゃ、なんせ初めてのウィスキー造りと思うと興奮しちまって寝れそうになくてのう


昨夜はオリビエと一緒に徹夜で準備してしもうたわい、お前さんのビールを飲んだら疲れなど吹き飛んだがな!ガハハハハハハ♪」



まったく、仲良し夫婦なのは良いけどあんまり無理はしないで欲しいよ


となると、オリビエさんにもエネルギー補給の酒が必要だな



「あなたー!仕事をサボって何を、、、あらシンさんいらっしゃい♪」



いつものように工房の2階からオリビエさんが降りて来たけど、やっぱりちょっとお疲れのようだ


いつものように日本のメーカーのビールでも良いんだけど、ここは俺の好きなビールにしてみようかな


元世界で海外旅行した時に地元のスーパーで見付けて、旅行中は昼からそればっか飲んでたビールだ(笑)


残念ながら日本には輸出してなくてネットでも買えなかったけど、スキルの「店」で見付けちゃったら買うしかないでしょ!



「オリビエさんこんにちは、親方から徹夜したって聞きましたけど無理はしないで下さいよ」


「美味しいお酒を造る為にも絶対無理はしないけれど、昨日はシンさんが無事に帰って来てくれたし、畑の収穫もして宴会まであったんだから大目に見て貰えないかしら?」


「そういう事なら仕方ないですね(笑)とりあえず『シュポッ、トクトクトクトクトクトク』はい、どうぞ」


「あら?いつもと違うビールなのね」


「ええ、たまには違うのも良いかなと、ちなみに俺の好きなビールなんで一緒に飲みましょう。ほら、ニィナもグラス持って」


「はい♪」



ふふっ、意外とニィナも酒好きだよなぁ



「それでは」


「「「かんぱい♪」」」



んぐんぐ、ぷはぁっ♪


これだよコレ!日本のビールには無い爽やかな風味が昼間から飲むには最高やな(笑)




「ふふっ、シンさんの好きなビール♪いただきます、んぐんぐんぐ、、ぷはぁーー♪」



わぉお!


さっきまでオリビエさんの目の下にうっすらあったクマが消えちゃったよ(驚)


ドワーフが酒を飲んで元気になるのは以前から知ってるけど、目の下のクマが消えるとか回復薬かよ!


ここに来て新たに知るドワーフの不思議か、、、



「おっ、おーい」



オリビエさんの後ろからガゼル親方が遠慮がちに声をかけて来るのだが


もはやこれも恒例行事だよ(笑)



「はいはい、ちゃんと親方の分もありますよ~」


「やっほぉー!」


「ちょっと待ったぁ!どうせ工房の皆さん全員徹夜して疲れてるんでしょうから、ちゃんと皆さんで飲んで下さいね」


「勿論じゃ!お前らぁー!今から酒をくばるぞぉーー!並べぇーーー!」


「「「「「ウォーーーーー!」」」」」



親方が作業場に向かって声をかけると今まで物音ひとつしなかったのに、大気を震わすような気合いの入った声が返ってきたんだが


皆さんめちゃめちゃ元気やん、本当にこの人達は徹夜で疲れているのか?



「ふふっ、一応言っておくけれど、シンさんのお酒以外ではこんな風にはならないから(笑)」


「そっ、そうですか、まあ元気になって悪い事は無いんで良いですけど」



「ねぇねぇオリビエさん」


「あら♪スミレちゃんこんにちは、何か用かしら?」


「こんにちは、おじいちゃんいますか?」


「ええ、居るわよ、呼ぶからちょっと待っててね、クソジジイー!お客さんよぉー!」



おっと!


スミレをほったらかしだった、申し訳ない!



『ドタドタドタドタ!』


「誰がクソジジイだ、この馬鹿娘がぁー!!」



こうして見てるだけだと、ジャックさんとオリビエさんの父娘仲は最悪としか思えないんだけど


これで案外仲良し父娘なんだよなぁ(笑)



「おじいちゃーん♪」


「おおっ!来とったんかスミレさん♪ほれ、ジジイが抱っこしてやろう」


「わぁーい♪」



ふふっ、ジャックおじいちゃんもスミレも嬉しそうだなぁ



『ガシッ!』


あ゛っ、、、(汗)



「オリビエさん、腕を掴むのは良いですけど痛いです(泣)」


「それは本当にごめんなさい。でもね、あれを見てチカラ加減なんて出来ないわよ!シンさん!スミレちゃんが『神酒』をジジイにお土産で渡しているのは羨ましいけれど、、、凄く羨ましいけれどそれは良いの


でも今回はスミレちゃんは2本持ってるわよね!前回も持って来て頂いたお酒とは別に見た事無いお酒をジジイに渡そうとしているのだけれど、あれは何かしら!」


「何と言われましてもお土産のお酒ですよ。それとあの酒は『神酒』じゃなくて普通のウィスキーよりランクが高いってだけですからね」


「スミレちゃんのお土産と言う事は、あの『神酒』レベルのお酒という事よね?」



おぅふ


オリビエさん俺の話全然聞いてませんやん、酒の名前なんて何でも良いけどさぁ



「同じかどうかは俺には分かりませんけど、ランクの高い酒ではあります」


「なっ、なんて事なの!『神酒』が2種類もあったなんて、、、シンさん!!」


「はっ、はい(汗)」


「スミレちゃんと仲良くなるにはどうしたら良いのかしら?」


「スミレと仲良く?オリビエさんは既にスミレと仲良いと思うんですけど」


「でもお土産を持って来てくれるほどではない」


「うーん、そこはスミレに聞かないと分からないんで、とりあえずジャックさんと一緒にスミレと遊んでみたらどうですか」


「え?、、、あのジジイと私が一緒に遊ぶ?いや、あの、私もそれなりの歳だし、あっちはクソジジイだし、あっ、遊ぶとかそういうのはちょっと(汗)」



むむっ!


珍しくオリビエさんが動揺している、これはいったいどう解釈すれば良いんだ?



「主様、お耳を」


「おっ、おう」



親方と工房で働いてる皆さんと一緒にビールを飲んでいたニィナが戻って来て、オリビエさんに聞こえないように囁き出した。



「ごにょごにょごにょごにょ」


「ふむふむ、オッケー♪」






つづく。

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