第337話 旅9日目

「シン殿、このグラタンという料理は肉を入れては駄目だろうか?」


「肉ですか、鳥肉は美味しいですけど他は試した事が無いのでなんとも言えませんね、野菜や魚貝を入れる方が合うと思いますけど


肉と合わせるならグラタンじゃなくてソースとして使ってみてはどうでしょう」


「ソース!そうかソースとして使う方法もあるのか、ならば味付けも肉に合うように考えねば、するとアレとアレを組み合わせて、アレは乾燥させて味を凝縮させてから、ぶつぶつぶつぶつぶつぶつ、、、」



ぶつぶつ独り言を言いながら、自分の世界に入ってしまった侯爵家の料理長さんは放っておいて



サウスビーチでのやるべき事も終わり、今日が侯爵家で最後の朝食になる


そして、朝から熱々のグラタンを食べる事に多少の抵抗感はあるものの


ゲオルグ様とソレイユ様をはじめ、皆さん笑顔で食べているから良しとしよう♪



朝食にグラタンを食べる事になったのは、エモンズ商会のタコヤーさんが夜明けとともにカニを持って来たからだ


俺達が今日サウスビーチを出発すると聞いて徹夜でカニを捕って来たらしく、まだ食べた事が無いカニ料理を作って欲しいとお願いされたので


カニを贅沢に入れた『カニグラタン』を作ったんだ



本当は『カニクリームコロッケ』が食べたかったけど、成型しやすいように冷やす時間も油で揚げる時間も無いから


苦肉の策で『カニグラタン』になった


『カニクリームコロッケ』用にホワイトソースは作ってあったし


パン粉とチーズを乗せてから、魔法でガスバーナーっぽい火を作って表面をこんがりと良い色になるまで炙れば


オーブンを使わなくても短時間で大量にグラタンが作れる



「ソレイユ様にゲオルグ様、カニグラタンはどうですか?」


「とっても美味しいわ♪夏に熱々の料理を食べるのも意外と良いわね」


「まぁシン殿が教えてくれた冷たいデザートがあってこそなのだが、、、シン殿は本当に今日で帰ってしまうのか?」


「えぇ、予定通りに帰らないとアストレア様をはじめ、待ってくれている皆が心配しますので」


「そういう事であれば仕方ないが、シン殿達と居ると退屈する暇が無いくらいに楽しい毎日だったから寂しくなる」


「シンさんと居ると本当に休む暇も無く楽しいことが次々起こるんだもの、娘達も寂しがるわ」


「えぇーっと、キャラバンシティからサウスビーチまでは1日かからずに来れますので、呼んで頂ければお茶のお相手くらいは」「じゃあ3日後に♪」


「さっ、さすがに3日後は(汗)旅の疲れもありますから」


「うふふっ、冗談よ。でも、季節が変わる頃にまた会いに来て欲しいわね」



ふぃ~


貴族の冗談は笑って良いのか未だに判断に迷うんだよなぁ


でも、素敵な女性に会いに来る理由が出来たから良いか♪



「ダンナァ~、グラタン食べ終わったけどいつ出発するのぉ~?」


「それじゃあケイト達は先に自転車に乗って待っててくれ、すぐ行くから」


「あいよ~」




「ソレイユ様にゲオルグ様、そろそろ行きますね」


「うむ、心配は無いだろうが気を付けてな」


「そうよ、シンさんに万が一があると娘達が悲しむんだから」



「ナガクラ様どうかご無事で、次にお会いする時は是非私の部屋で下着姿を見て下さいね♪」


「お姉様?!抜け駆けは行けません!」


「お姉様、駄目ぇー!」


「分かりましたわよ、3人一緒なら良いのでしょ?ナガクラ様、3人でお待ちしております♪」


「「お待ちしております♪」」



待て待て待て!


マリーナ様、エレーナ様、ミレイユ様、3人揃って何を言ってるんですかー?


ご両親もニコニコしながら眺めている場合じゃ無いでしょうよ


この仲良し家族め!



そして、恋愛レベルが中2で朴念仁の俺でも今のこの状況の意味する所は、、、


侯爵家の娘さんだもの、既に嫁ぎ先が決まっているはず!


怖いから確かめたりはしないけど、娘さん達の結婚式には『客人』として呼ばれる事を切に願う。


当事者として出席するとかマジで勘弁だよ(汗)



とにかく、これ以上何か言われる前に出発しよう!




「マリーナ様、エレーナ様、ミレイユ様、どうかお元気で!」


「「「はい♪」」」



「おーいダンナァ~、早くしないと置いて行くよぉ」


「まっ、待ってくれー(汗)、、、よっこらせっと、ケイト出発して良いぞ」


「あいよぉ~♪」


『チリンチリン♪』



「「「「「さようなら~」」」」」


「「「「「「ばいばーい♪」」」」」」






つづく。

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