第317話 なんやかんやあったけど

商業ギルドの職員達に連れて行かれるジロサブロウを、俺とニィナとクレアさんはぼーっと眺めている



「ねぇクレアさん、今ならまだジロサブロウの借金返済期限を延ばす事も、奴隷墜ちを回避する事も出来るかもしれないけど」


「それをしてもたぶんあの人は変わらないと思います。今までも仕事の紹介は何回もあったのに、わたしに稼がせてお酒を飲むだけの生活を選んだのは、あの人だから」



少女にここまで言わせるとは、ジロサブロウのクソ野郎ぶりは筋金入りだったか



「それじゃあ改めて聞くけどクレアさん、池田屋商会で働いて貰えますか?」


「えっと、普通はわたしがお願いして雇ってもらうんじゃ」


「今回は俺がクレアさんに商会で働いて欲しいと思ったから声をかけたんだ、だからお願いするのは俺の方になるね」


「ふふっ、池田屋商会の会長さんにお願いされるなんて、なかなか無いわよクレアさん♪」


「よっ、よろしくお願いします!」


「こちらこそよろしくお願いします。それでこれからどうしようか、ウチの大事な従業員をスラム街で寝泊まりさせる訳にもいかないし」



アカリさんとクレアさんを一緒に連れて行きたいけど、現在トゥクトゥク自転車の定員は運転手を含めて7人


俺とニィナが降りて自転車に2人乗りしても良いけど、帰りはヤン先生も乗せるから定員ギリギリ


一緒にキャラバンシティまで帰れなくはないだろうけど、安全第一で行くなら念のため止めておいた方が良いだろう。



「それでしたらナガクラ様、商業ギルドに『依頼』を出して貰えませんか」


「なるほど、それじゃあ今から商業ギルドにクレアさんの保護を依頼します。期間はとりあえず10日で、報酬は大銀貨100枚で足りますか?」



俺の手元にはジロサブロウに渡した大銀貨が戻って来ているのでそのままアカリさんに渡す。


一旦キャラバンシティに帰ってから俺とニィナだけ戻って来て、クレアさんとアカリさんを連れてまたキャラバンシティに帰る作戦だ


よく知らない護衛を雇うよりこの方が安全で早いからな



「ナガクラ様、大銀貨100枚は多過ぎます!せいぜいが大銀貨20枚、これでも余裕を持って多く見積もった金額です。


クレアさんに最高級の宿と食事を用意しろ、という事であれば話は変わりますが」


「わっ、わたしは安い宿で良いですから!むしろ今の家でも」


「「それは駄目!」」


「やっ、宿で良いです(汗)」



おおっ!


アカリさんと意見が一致したよ♪




「とりあえずお金は預けておきます。色々と必要になるかもしれませんし、余ったら返してくれれば良いです。」


「かしこまりました。それと、依頼内容がクレアさんの保護しかありませんけど、ナガクラ様がサウスビーチに戻って来て連れて行く、という事でしょうか?


かなり効率が悪いと思うのですが」



「そこはご心配なさらず。下手に護衛を雇うより安全で早いですから、勿論アカリさんもその時はご一緒にどうぞ


池田屋商会の実力の片鱗を見せられると思いますので♪」


「よく分かりませんけど、サダルスウド侯爵様を始め多くの貴族の皆様が今1番気を使っておられるのが、池田屋商会とナガクラ様ですからね、楽しみにお待ちしております。」



うーむ、気を使っているのは俺じゃなくて、アストレア様にだと思うけど


まあ良いか(笑)



「それじゃあクレアさんとは一旦お別れだね。10日以内に迎えに来るから、それまでに引っ越し準備とか諸々を済ませておいて」


「はい、わたし池田屋商会で一所懸命に働きますから!」


「期待してるよ!後はお任せしますねアカリさん。」


「クレアさんの事は私が責任を持って保護しますのでご安心下さい。」


「それじゃあニィナ、侯爵邸に帰ろうか」


「はい」





はぁ~、疲れた


今回は成り行き上仕方なかったけど、本来俺はこんなに頑張るつもりは無かったんだよ


これからは自分でスカウトするのは控えようかな




「主様」


「どうしたのニィナ」


「そろそろ日暮れの時間です。」


「そうだね」


「・・・」


「えっと、、せっかくだから今日も簀立ての様子を見てから帰ろうか、ちょうど夕陽も綺麗に見えるだろうし」


「はい♪」



いつもよりニィナが嬉しそうに見えるのは俺の見間違いではないと思う


だからなんだって話だけど


惚れた女性が笑顔でいてくれるんだもの


それだけでおっさんは明日も頑張れちゃうんだぜ♪






つづく。

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