第316話 少女の想いとおっさんの決断 その4

「クレアさん、俺と一緒に王国で1番の焼き鳥屋を目指そう!」


「・・・は?」



ぐはぁっ!


これでもかってくらいにスベってしまったぁーーー(恥)


ニィナはいつも通りだけど、クレアさんと職員のアカリさんはポカーンとしちゃったよ


真面目に考えたし良い提案だと思ったんだけどなぁ



「えっと、言い直しますとですね、池田屋商会が支援するので『つくね串』をメインにした、鳥の肉串屋さんをしませんか?って事ですね。


もしくは、池田屋商会に就職してもらって住む場所と1日3食とおやつを支給する代わりに、『つくね』の作り方を教えて下さい。


商会に就職した場合は1日の報酬は最初は銀貨2枚から、そして成人するまでは読み書き計算と礼儀作法を勉強して貰うのがメインで、合間に働くって感じかな


どうでしょうか?」


「あ、え、、、うぅぅ、アッ、アカリさ~ん(泣)」



おーいクレアさーん、いきなりこんな提案されてビビるのは分かるけど、泣かんでもええやん



「クレアさん、はっきり言いますけど王国中を探してもこれほどの好条件を提示して下さる方は居ないと断言します。


そして、池田屋商会の従業員はそこらの貴族の次男や3男より良い生活をしているのは商業ギルドでは有名な話です、なので私も雇って欲しいくらいです!


ナガクラ様、ちなみに事務員の募集はしていませんか?」



わぁお♪


アカリさんってなかなか積極的な方だったのね、現役の商業ギルド職員なら即戦力で欲しい所だけど、一応ウチの人事責任者に会わせてからだな



「事務員は不足しているので常に探してますね、雇うかどうかは面接してからですけどいつでもどうぞ♪」


「ほっ、本当ですか?!さっそくスケジュールを調整しないと、、、クレアさんはどうしますか?」


「わたしは、、、商会で雇って欲しいです!でも借金が」


「それはクレアさんが借りたの?」


「違うけど、ジロサブロウはわたしの親代わりになってるから」


「うーむ、、、アカリさんこういう時はクレアさんにも返済義務があるんですか?」


「調べて来ます!」



優秀な従業員の為に先行投資として借金の肩代わりをするのは良いんだけど、それするとジロサブロウの奴隷墜ちも無くなって色々と面倒な事になりそうなんだよなぁ



『バンッ!』


「あっ!こんな所に居やがったか、探したぞクソガキが!」



商業ギルドの扉が乱暴に開けられたのでそちらを見ると


チッ!


ジロサブロウが来やがった、もう少しで話が纏まりそうだったのに



「きゃっ、はなして!」


「うるせぇー、さっさと帰ってつくねを作りやがれ!」


「ちょっと待てジロサブロウ!乱暴はいかんだろ」


「てめぇさっきはよくも、ひぃぃ(汗)」



ジロサブロウが力任せにクレアさんの腕を掴んだので、クレアさんの顔が苦痛の表情に変わった。


おいおい、ジロサブロウの野郎は俺が回復魔法でわざわざ酔いを覚ましてやったのに、頭を冷やすどころか逆に沸騰してんじゃね?


もう滅茶苦茶やな


しかもニィナに笑顔を向けられてビビるくらいなら、ちょっとは学習しろよ



「クレアさんにはまだ話があるから、勝手に連れて行かれると困るんですよ」


「さっ、さっきの事は忘れてやるがこいつに用があるなら親の俺を通せ!」


「お前は親じゃなくてただの保護者だろう?」


「あぁ?何が違うんだよこいつの母親が死んじまってから俺が面倒見てやったんだ、俺が『つくね』を教えてやったから生きて来れたんだから、俺が親みたいなもんだろうが


分かったら早く帰って俺に助けられた恩を返せクソガキが!」



うーむ、恩ねぇ


クレアさんが急に大人しくなったのは、助けられた恩があるからか?


あんまりやりたくない手だけどしゃーないか



「おいジロサブロウ!」


「なんだコラァ!」


「この1年でクレアさんに使った生活費は幾らだ?それを俺が払うから邪魔しないでくれ、大銀貨50枚くらいか?」


『ジャラ』


俺は大銀貨の入った袋をテーブルに置く



「なっ?!、、、ひゃ、100枚だ!大銀貨100枚くれたら邪魔しないでいてやる」


「100枚?本当だろうな」


「本当だって、それとも大銀貨100枚は払えないってか(笑)」


「ほら」


『ジャラ』



「やったぜ!もう返せって言われても俺のモンだからな!」


「だめです、ナガクラ様!わたしの為にそんな大金」


「うるせぇぞガキ!大人の話し合いを邪魔すんな」


「クレアさんは気にしなくて大丈夫だから、それよりいい加減クレアさんを離せよジロサブロウ」


「あぁそうだな、俺がガキの為に作った借金をあんたが代わりに返してくれたらなぁ♪」



おいおい、こいつは何処まで腐った性格をしてんだよ



「ジロサブロウさん今すぐクレアさんを解放しなさい、さもないと取り返しの付かない事になりますよ!」


「ギルドの職員が口出してんじゃねぇぞ、何が取り返しが付かないだ、行くぞガキ!」


「きゃっ!」



「誘拐です!誰かジロサブロウを捕まえて!」


「「「「任せろ!!」」」」



え?


これ何が起きてんの?


アカリさんが「誘拐です!」って言った途端に周りでずっと話を聞いていた職員さん達がジロサブロウを取り押さえたんだけど



「てめぇら、こんな事してどうなるか分かってんのか?罪を捏造するのは重罪だぞ」


「いいえ、あなたは借金の返済義務違反、詐欺罪、誘拐の罪で裁かれるのです。


あなたはナガクラ様が渡したお金を受けとりましたね?」


「だからなんだってんだ」


「受けとりましたね?」


「しつこいぞ、受け取ったからなんだよ」


「先程ナガクラ様がお金を払うからクレアさんとの事は邪魔しないでくれ、と言い


あなたは『邪魔しない』と言ってお金を受けとりました、これで契約は成立です。にも関わらずあなたは邪魔をし続けた、これは立派な詐欺罪です。」


「なっ?!」


「誘拐については未遂になるでしょうけど、ナガクラ様への詐欺罪は我々が証人となって証言します。


ちなみに、あなたがクレアさんの保護者であるという証拠は書類上は何もありませんでした、ですのであなたがクレアさんの保護者だと言い張るなら脅して従わせている事になり、脅迫罪が適用されますから覚えていて下さい。」



わぁお!


そんなつもりは全然無かったのにいつの間にやらジロサブロウを追い詰める結果になっとるがな(驚)


どのみち借金が返せんくて奴隷墜ちになってたんやろうけど


ついに観念したのかジロサブロウは大人しく商業ギルドの職員さん達によって連れて行かれた。


これから取り調べを受けるんだろうな


しかしアイツもとことん馬鹿だな


『つくね』をレシピ登録すればそれなりの金額が継続的に入金され続けただろうに


どうせ登録料を払う金すらもケチって酒代に消えたんだろう


酒に溺れるってのは本当に恐いって身に染みて分かったよ


それだけはジロサブロウに感謝だな。






つづく。

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