第315話 少女の想いとおっさんの決断 その3
俺とニィナは商業ギルドのロビーの隅っこで、椅子に座ってクレアさんが来てくれるのを待っている。
商業ギルドに来るまでに街でジロサブロウについて少し聞き込みをしてみた
1年ほど前までは職を転々としてはいたけど一応働いていたらしい
その当時からジロサブロウの酒好きは有名で、朝になると酒場横の路地で酔い潰れて寝ている所を見かけたと言う人も多かった
だけど去年の夏を境にだんだん働かなくなり、クレアさんを働かせてジロサブロウは酒浸りの生活を送っているとの事だった。
あげくの果てに、あちこちから借金もして返済の目処も立たずジロサブロウの奴隷墜ちはほぼ確実らしい
やはりクレアさんのお母さんが亡くなった事がきっかけなのだろうか?
自分の稼ぎで酒浸りの生活をするなら文句は言わんけど、クレアさんに稼がせてしかも借金三昧とか典型的なクソ野郎やな!
「主様、クレアさんが来ました」
ニィナに言われて商業ギルドの入口を見ると、不安そうな表情をしたクレアさんがキョロキョロと中を見回している
「おーい、クレアさーん、こっちだよー!」
「あの、お待たせしました」
「来てくれてありがとうクレアさん、そこに座ってちょっと待っててね。すいませーん、お願いしまーす。」
俺はあらかじめお願いしておいた商業ギルドの職員さんを呼ぶ
「失礼致します。本日ナガクラ様とクレア様との商談の見届け役をする事になりました、商業ギルド職員のアカリと申します、以後お見知りおき下さい。」
「えっと、、、わたしはどうすれば(汗)」
「私の役目はどちらか一方が損をする事の無いように見届ける事です。
例えば、クレア様がナガクラ様に騙されて不利な契約を結ばされそうになっていたら助言をする、と言えば分かりやすいでしょうか?」
「はい、それなら分かります。」
「と言うのは建前で、本当はクレア様が不安だろうから側に付いていて欲しいと、ナガクラ様に頼まれただけです♪」
「え?」
「ちょっ、アカリさん、それは言っちゃ駄目なやつですよぉ(汗)」
「つい、大きな独り言が(笑)」
まったく、商業ギルドの職員がそんなんで良いのかよ
お茶目な女性は好きだけどさ。
「それじゃあ、時間が勿体無いんで仕事の話をしようか。昨日俺達がクレアさんの屋台で『つくね串』を買ったの覚えてる?」
「覚えてます、でもその前にナガクラ様は本当に借金取りでは無いんですか?」
「その事なら商業ギルドが保障します。ナガクラ様は借金取りではありません。ナガクラ様の経営しておられる池田屋商会は真っ当な商売で有名ですから、しっかり話を聞いて熟考する事をお勧めします。」
「まぁいきなり言われても困るとは思うんだけど、俺はあと数日したらキャラバンシティに帰らないといけないんだ。だから考える時間は限られていると理解した上で話を聞いて欲しい。」
「わっ、分かりました!」
「じゃあ続きを話そうか、昨日クレアさんから買った『つくね串』が凄く美味しくて、あれを作った人にウチの商会で働いて欲しくて探してたんだ
あの『つくね串』はクレアさんが作ったの?」
「そうです、でも最初はジロサブロウに教えて貰ったから」
なるほど、となるとジロサブロウは前世で焼き鳥屋をやってたのかな?
クレアさんでもあれだけ美味しかったんだから、ジロサブロウの腕は相当なものだと思うんだけど
真面目に働いてたら借金なんてしなくても良いくらいには稼げただろうに、馬鹿な野郎だよ
「ジロサブロウはクレアさんのお母さんが連れて来たって言ってたけど、親しい仲では無かったの?」
「それは絶対にありません!お母さんはジロサブロウみたいなタイプが嫌いだったから、でも、、、」
むむっ?
「えっと、クレアさんは今、人生の分岐点に居ると俺は思ってる。今ここで選んだ事は良くも悪くもこれからの人生に大きな影響を与えるはず。
だからクレアさんが自分で考えて決断しなければいけない、それがたとえ後悔するような事になったとしても他人を恨む事が無いようにね
もし何か話そうと思っている事があるなら遠慮はしないで欲しいな」
「、、、えっと、わたしとお母さんは、お父さんが死んでから凄くお金に困ってたんです。だからお母さんはジロサブロウを連れて来たんだと思います。」
「んー?それはジロサブロウが援助してくれるとかそういう事?」
「ちゃんと聞いた事が無いから分からないけど、お母さんはジロサブロウの『つくね』を売ってお金を稼ごうとしてたんだと思うんです。
『つくね』を実際に作って知ったけど、仕込みが凄く大変なんです。お母さんが『つくね』の仕込みをする代わりにジロサブロウと一緒に商売をしようとしてたんじゃないかなって、何も証拠はありませんけど」
クソ野郎のジロサブロウなら、楽して儲けられると思って話に乗った可能性は充分ある
それがクレアさんのお母さんが流行り病で亡くなってしまったから、代わりに娘のクレアさんにって所か
誤算だったのは、少女の体力では『つくね』を大量に作るのは無理だった
そのうち金が尽きて借金をしまくる、って考えると色々繋がる
だがしかし
俺は他人の過去に興味は無い!
「クレアさん、俺と一緒に王国で1番の焼き鳥屋を目指そう!」
「・・・は?」
つづく。
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