第314話 少女の想いとおっさんの決断 その2

今、俺の目の前には土下座をして微動だにしないクレアという少女が居る


さっきまでの俺とニィナと借金取りのやり取りを見ていた結果、ビビって腰を抜かして土下座をするに至っている。



これって、どう考えても冷静に話を聞いてくれる雰囲気じゃないよ(泣)


今からカスミを連れて来た方が良いかなぁ、俺とニィナが声をかけたら更に怯えるだろうけど


一か八か、声をかけてみるか!



「ねぇ、お嬢さん、俺は君と話をしたいだけだから顔を上げて貰えないかな?」


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい、借金は必ず返しますから、どうか奴隷墜ちにはしないでください。頑張って働きますから!」



はぁ~


予想はしていたけど、実際にこういう反応されると傷付くなぁ


『むにっ』


落ち込んだ俺を励ます為なのか、ニィナが俺の手を掴んで自分の胸に押し当ててくれているけれど


今はその優しささえも効果薄だよ、まったく効果が無いとは言わないし嬉しい事には変わり無いけどさ



「おいガキィ!戻ってんららしゃっしゃと酒かってこねぇか、この役立らずがぁ!」



急に現れて怒鳴り散らす赤ら顔の酒臭い男、こいつがジロサブロウか?


昼間っから泥酔してるとかアル中じゃないだろうな



「ねぇ、お嬢さんの名前はクレアで合ってる?」


「はっ、はい、クレアです」


「それじゃあ、あの人はクレアさんのお父さんで良いのかな?」


「違います!」



やっぱ否定するか、しかも即答だよ


さっきの借金取りにも違うって言ってたからな



「おいゴルァ!俺の娘に手ぇだしてんじゃねぇろ、ロリコン野郎が!ポリを呼ばれたくなきゃ慰謝料だせや!あそこの本部長はダチの知り合いなんらぞ!」



『本部長』というのが何処の誰かは知らんけど、ダチの知り合いって事はお前はほぼ関係無いやん


そして確信する、目の前の酔っぱらいは日本人だ!


ポリスの事を『ポリ』なんて呼ぶのは日本人だけだろうし、この国にポリスなんて存在しない


見た目はこの国の一般的な人族だから、転生して前世の記憶がある元日本人なんだろうけど


もしかして全てを覚えている訳では無く、断片的にしか前世の記憶が無いのかな?


それともこいつの親が転生者か転位者で日本の事も親から聞いたのかもしれない


もし、前世が日本人で記憶が全てあるのなら、ここまでの駄目人間にはならないような気がする


それこそ元世界の料理や便利な道具のアイデアを売るだけでも、生活に困らないだけの収入は得られるはず


その程度の事は元世界の人なら当然のように思い付くと思う。


俺は他人に興味が無いからどうでも良いけどな



「俺達はクレアさんに話があるんで静かにして頂きたいのですが」


「はぁ?寝ぼけてんのかこの野郎、俺の娘に用があんらら俺の許可をとりゃやがれってんだぁ!」



酔っぱらいって面倒くせぇー!



「クレアさん、あの人があんな事言ってるけど」


「わたしとあの人は関係ありません!」



「このクソガキ!俺が教えてやった『つくね』のお陰で飯が食えてるのを忘れてんじゃねーぞ!オラァッ!」



「きゃっ!」『パシッ』



あぶねぇー(汗)


あの野郎、クレアさんに向かって石を投げやがった!


ニィナが難なく石をキャッチしたから良かったけど



「ニィナ、正当防衛だ!」


「はい♪」


「おっ、おい!俺に手ぇ出し」『ドゴォッ!』


「げはぁっ!!」


「主様、もう1発駄目でしょうか?」


「うーん、あと1発だけなら許す!」


『バシッ!』


「ふぅー、まだ足りませんが意識を失っては仕方ありませんね」



いや、ニィナさん、1発目で意識は無くなってたけどね、まあ正当防衛だから良いや


ちなみに、この世界に過剰防衛などという言葉は無い、自分の身を守れない奴は全てを失っても文句は言えない厳しい世界だ


だからこそ先に手を出した愚かな奴に人権なんて物は存在しないけどな。



「クレアさん、あそこで寝ている男との関係を教えてくれるかな?」


「お父さんが亡くなった後に、お母さんが連れて来たジロサブロウって人です。」


「お母さんと再婚したって事?」


「そういう相手では無いと思います。」


「ちなみに、お母さんは」


「去年、流行り病で亡くなりました」



うーむ、少し引っ掛かる所もあるけどジロサブロウは内縁の夫というやつか?



「クレアさん改めまして、私は池田屋商会会長のシン・ナガクラと申します。隣のダークエルフは護衛のニィナと言います。ギルドカードもあるから確認してくれるかな」


「・・・は?」



そりゃあいきなり言われたら驚いてフリーズするよね。



「俺はクレアさんと仕事の話がしたくて来たんだけど、いきなり言われても困るよね。


だから商業ギルドの職員に立ち会って貰って話そうと思う。今から日暮れまで俺達は商業ギルドで待ってるから、話を聞くだけでも良いから来てくれると嬉しい


それと、アイツを殴り倒しちゃってごめんね」


「謝らなくていいです、あの人は他人だから」



良かったー!


なんだかんだ言って駄目男を放っておけないタイプだったらどうしようかと思ったけど


クレアさんはニィナに殴られて気絶しているジロサブロウを、汚い物でも見るような目をしている。


ニィナに殴られて鼻血が吹き出していて見た目がアレだから、ジロサブロウの鼻だけ回復魔法で治してやろう


ついでに泥酔状態からも回復だ!


たとえ弱っていても肝臓は回復させてやらんけどな!



「ニィナ行こうか」


「はい」



後はクレアさんが商業ギルドに来てくれる事を祈るだけだ。






つづく。


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