第312話 旅5日目

現在の時刻はちょうど正午になるところ


まだまだ夏のサウスビーチはこれから徐々に暑さを増して行く時間になる。



俺としては夏休み感満載でテンション上がるし、日本の夏より湿気も少なく10倍は快適だから暑さもまったく苦にならないんだけど、街行く人達はウンザリ顔だ


それでも寒天を使ったフルーツゼリーを売ってる店の前には行列が出来ているし、列に並んでいるお客さん達も楽しそうにしている♪



昨日はカニの試食をした流れのまま夕食になり、ついでに俺達の歓迎会を兼ねて宴会になってしまった


ただ、お酒も料理もほとんど俺が提供した物だったのは、少しだけどうなんだろう?とは思ったけど


皆さん楽しそうだったから、まぁ良いや♪



更に


昨日の宴会のテンションを保ったまま、侯爵家は夜明けと同時にカニとエビ関連の準備でバタバタしている


俺がサウスビーチに居る間は直接アドバイスが貰えるから、キャラバンシティに帰る前になんとかしたいという理由もあるんだろう


とは言え、カニ籠やら生け簀やらある程度カタチにならないとアドバイスも出来ないから俺の出番は無く暇になってしまった


そして俺と同じように暇になったソレイユ様と娘さん達からお茶のお誘いがあったけど


そっちはメリル、カスミ、スミレにお任せだ。



女性のお茶に付き合ってお腹がタポタポになり苦しんだ事は1度や2度では無い(泣)


女性というのはどうしてあんなにお茶が好きなのか、おっさんにはさっぱり分からんのよ


だからサウスビーチの更なる発展の為にも街を見たい!と言って逃げて来たんだ(笑)


ケイトもお茶を飲んでお喋りを楽しむタイプじゃないから、一緒に連れて行ってくれって無言のSOSサインを送って来たけど


メリル、カスミ、スミレを置いて行く訳にはいかないからな、許せケイト!


今夜はお高いワインを飲ませてやるからな。



というようなやり取りが朝食の後に行われ、今はニィナと2人でサウスビーチの街をブラブラ歩いている。


残念ながら『デート』などと言うシャレた感じはゼロだ(悲)



しかしそれも仕方ない


俺は誰が見ても金持ちの裕福な野郎だから、浮かれ気分で歩いてたら直ぐに『ひったくり』とか


いちゃモンを付けて『かつあげ』しようとするお馬鹿さんがやって来てトラブルになってしまう


キャラバンシティなら池田屋商会で契約してる冒険者も多くて、お馬鹿さん達は事前に排除されてたり


俺に何かあれば助けてくれる人も多いけど、他の街だとそうは行かない。



心の中だけでニィナとのデートを楽しみつつ、真剣にサウスビーチの街を見て歩く


前回来た時は気付かなかったけど、海沿いの街だからか塩のはかり売りをしているお店が多かった


買い溜めするんじゃなくて2~3日分の塩を買って行く感じなのかな、、、塩



しお?


潮?


塩?


何か引っ掛かる、塩について何か重要な事があったような気がする、、、



あっ


『にがり』だ!


塩を作る時には苦い液体の『にがり』が出来るはず


『にがり』は豆腐を固めるのに使う重要な材料、そして夏が長いサウスビーチなら風呂あがりの冷奴とビールの組み合わせは必須じゃあないか!


今まで忘れていたとは不覚!


塩の作り方によっては『にがり』が出来ないかもしれないし後で確認しなければ。



ゲオルグ様に豆腐という思わぬお土産も出来たし、今回はカニもあるから食べ物関連はもう充分かな



「主様、そろそろお昼時ですので『つくね串』を売っていた少女の屋台もあるかもしれません」


「そうそう!忘れちゃいけない『つくね串』、スゲェ旨かったから是非スカウトしないと、行くぞニィナ!」


「はっ!」



ニィナと走ってやって来ました屋台通りの端っこの更に木の陰になっている場所


昨日『つくね串』の屋台が出ていた場所だけど、まだ時間が早いからなのか屋台は出ていないし少女の姿も見えない


もう少し待ってみても良いけど隣で『アジの塩焼きサンド』を売ってるおっちゃんに聞いてみるか



「おっちゃん、それ2個ちょうだい」


「おっ!美人連れの兄さんは見る目があるねぇ、これからはサバよりアジだよ、アジ♪代金は2個で銀貨1枚だ」


「はい、銀貨1枚っと」


「まいどありー!」


「ねぇ、昨日おっちゃんの隣にも屋台が出てたと思うんだけど」


「あぁ、確かに出てたぞ、ありゃクレアちゃんの屋台だ」


「そのクレアって子、今日は来ないのかな?」


「来るかもしれんが、、、もしかしてあんたら借金取りか?」


「やめてよおっちゃん、借金取りなんてのはもっと勤勉な奴がやるもんだよ。俺は、ほら、昼間から女連れでフラフラ出来るお気楽な後継ぎ息子だから(笑)」


「ん?、、、わははははは、確かに!兄さんが借金を取り立てに行っても簡単に追い返されちまうだろうなぁ♪」



おぅふ


話をスムーズに進めたいからおっちゃんのテンションに合わせて適当に話してたら爆笑されてしまった(悲)


確かに俺は頑張っても借金取りなんてなれないけどさぁ



「それよりクレアって子借金があるの?」


「全部ジロサブロウが作った借金だけどな、アイツももうちっと酒を控えてくれたらなぁ。最近は直に奴隷墜ちするんじゃないかって噂で持ちきりだけど、助けてやれる訳でも無いしな」



ジロサブロウねぇ、ちょっと珍しい名前だけどここでいきなり転位者登場か?


もしかして、二郎三朗?


戦国時代にはこんな名前の人がけっこう居たような気がする


たまたま日本ぽい名前っていうだけの可能性もあるけど、面倒は嫌だから『つくね串』は諦めるか



「おっちゃんさん!クレアさんの家を教えて下さい!」


「えっ?!えっと、街外れのスラム街に住んでるよ、たしか海に近い場所だったと思うけど」


「ありがとうございます。主様、急ぎましょう!」


「はっ、はい(汗)」



うーむ、何故かニィナが怒っている


いや、怒ってる理由はなんとなく分かるから俺もクレアって子の家に行くけどね


でもニィナさんにひとつだけ言いたい


『おっちゃん』というのは名前ではありませんよ。






つづく。

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