第293話 ニィナvsエミール

手合わせの為に準備運動をしていた4人が戻って来た。


ケイトとニィナが普段は見せない真剣な表情をしているって事は、相手のエミールさんとリィファさんも相当な実力者って事なんだろう


手合わせのルールは俺とステフ様の時同様、魔法と故意の急所攻撃は禁止でそれ以外は自由だ。




さてさて最初の手合わせは、、、


ニィナと獣人のエミールさんか、あの2人初対面の時から火花バッチバチに飛ばしてたもんな


ニィナもあまり感情を表に出さないだけで、中身は触ると牙を剥く野生の獣みたいな所があるんだよ(汗)


そうかと思ったら、可愛い物が好きで乙女な性格をしているのは意外と知られていない


最近は元世界で大人気だった、ウサギと犬のキャラクターの絵が描かれた下着がお気に入りだったりする


最初はカスミとスミレが喜んでくれるかなと思ってスキルの「店」で購入したんだけど、それを見たニィナの無言の圧力に負けました(笑)


ちなみに、メリルはリスでケイトはコヨーテのキャラクターが好きらしい


そんな可愛い所があるニィナの戦い方はと言うと


基本的には警棒をメインに使って、相手や状況に応じて投げ技や関節技も使うフリースタイルだ


エミールさんも俺の投げ技は見ていたから当然警戒しているはず、2人がどういう戦いをするのか楽しみだ。



「審判は私がやるからそろそろ始めようか、お互い悔いの無いようにね♪」



ステフ様に促され3メートルほど離れて向かい合ったニィナとエミールさん


使用する武器は当然お互い木剣で、エミールさんが短剣、ニィナがショートソードを模した木剣をそれぞれ持って構えている、、、あれ?


いつもニィナは警棒を2本持つのに今は木剣を1本しか持っておらず、両手でしっかり握って下段に構えている


まさか俺の真似か?


それはさすがに無い、、と思わせておいての意表を突く作戦という事も有り得る


対するエミールさんは2本の短剣を順手に持って構えている


むむっ?


短剣は逆手に持つイメージがあるんだけど、素人の俺では順手と逆手でそれぞれどんなメリット、デメリットがあるのかさっぱり分からん




「それでは、始め!」


「・・・」


「・・・」



いよいよ始まったかドキドキするぅ!


しかし、ステフ様の合図からお互いに向かい合ったままなかなか動かんな、先に動いた方が不利なのだろうか?




動いた!


けれど突然エミールさんがニィナに背を向けて邸の壁の方に走って行った



『タンッ』



ジャンプ?!


しかも高い!


獣人なだけあって軽やかな動き♪



『ドンッ!』



そのまま回転して邸の壁を蹴った!


勢いを付けて斜め上からニィナに向かって来るエミールさん、しかも腕を交差させたあの構え、一撃目を当てた刹那に二撃目で一撃目を押し込むつもりか?!



だがしかし


空中では動きが制限されるからニィナなら避けてから一撃入れてそれで終わりだ!


待ち構えるニィナは下段から擦り上げるように木剣を振り上げる


真正面から受けるつもりか?!


マジで俺の真似して下段の奥義『龍飛剣』を繰り出すつもりなのかよ



「フシャーー!」


「はぁぁぁっ!」



2人が吠えた!



『カカンッ!パァンッ!』



うおっ?!


木剣どうしがぶつかる時に出る特有の甲高い音が鳴ったほんの一瞬の後、お互いの木剣が砕け散って破片がこっちまで飛んできた(汗)




「そこまで!お互いに武器が壊れた事により戦闘不能とみなし、この勝負引き分け!」



おおっ!


いや待てよ?



「ステフ様質問です。素手で戦ったりはしないのですか?」


「ふふっ、やっぱりナガクラ君は知らなかったんだねぇ♪そもそもの話この国じゃあ無手なんて誰もやらないんだよ


戦場で武器を持った相手に素手で挑むなんて危険だし、仮に自分の武器が壊れたり落としたりしても、武器なんてその辺に落ちてるからね


だから手合わせの時も武器を落としたり壊れたりしたら負けなんだよ、それを知っててナガクラ君はわざわざルールの確認をしたと思ってたんだぁ(笑)」



わぁお!


なんてこったい、そんなルールがあったとは



「えぇーと、色々と申し訳ありませんでした」


「謝る必要は無いよ、戦場で負けたら言い訳を言う事すら出来ないし、私が油断してた事には変わり無いんだからさ」


「それはそうなんでしょうけど、、、」


「はい!私も質問があります。」


「えっと、メリルさんだったよね何でも聞いてくれて良いよ」


「ありがとうございます。今の手合わせ、気が付いたら木剣が砕けてたんですけど」


「さっきのニィナさんの動きを捉えられるのは、Aランク冒険者でもそう多くはないだろうねぇ、私でもギリギリだったよ(笑)」



おいおい、以前からニィナは強かったけど、それでもスピードや正確性はケイトの方が上だった


それなのにいつの間にやらケイト並のスピードを身に付けてるとか、どんだけ強くなってんだよ!



「さっきのニィナさんとエミールの手合わせだけど、最初の一撃でお互いの木剣は折れていたんだよ、この時はまだ木剣は砕けていなかった訳だけど


エミールは木剣を2本持っていたから残ったもう1本でニィナさんに一撃を加えて終わりのはずだった、普通ならね♪


ニィナさんはエミールの二撃目が来る前にその場で1回転して勢いを付けて二撃目を放ったんだ、折れて手元に残った木剣の柄を使ってね


その場で1回転したにも関わらず、二撃目がエミールより僅かに早かったんだから、剣術の心得が無くても凄さは分かって貰えると思う


そしてお互いの二撃目がぶつかった瞬間に木剣が砕け散った、最初に折れて残ったニィナさんの木剣が楔になったせいだろうね


ニィナさんは最初から武器破壊を狙ってたんじゃないかな?」



マジかよ?!


お互いに二撃目があったようには見えなかったあの一瞬でそんな事が行われていたなんて(汗)



「主様、引き分けになってしまい申し訳ございません」


「いや、怪我無く戻って来てくれて嬉しいよ♪それより、最初から武器破壊を狙ってたの?」


「はい、まともに手合わせをすると危険ですし時間もかかるおそれがあったので、エミールさんと話し合った結果、勝負は一瞬で決めようと」


「そっか、ナイス判断!改めて、無事に戻って来てくれて嬉しいよニィナ♪」


「はい♪」






つづく。

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