第292話 ステファニーと自転車
『チリンチリン♪』
「へぇ~、これは良いね♪街中だったら馬や馬車より気軽に移動出来るんじゃない?」
「確かに気軽さは抜群でしょうね、でも上り坂がキツいのが難点なんですよ」
「それは仕方ないよ、なんせ動力が自分の足だからねぇ」
「まあそういう事です。」
早朝からステフ様の護衛、獣人のエミールさんと銀髪のリィファさんとケイトとニィナが手合わせする事になったので、さっそく庭に来ている
4人は手合わせの前に準備運動をしているので、その間に俺は三輪タイプの自転車を出してステフ様に試乗して貰っている
「でもさぁナガクラ君、この自転車って馬よりかなり遅いと思うんだけど、これじゃあ馬車よりは少し早い程度じゃない?」
「幾つかスピードを上げる方法はあるんですけど、私の場合は風魔法を使いますから、、、
実際やった方が早いですね、しっかり掴まってて下さいよ、風魔法発動!」
『ビュォーーーーーーーーー!』
「わっ?!、、、あははははは、凄く早いよナガクラくーん♪あはははははは」
自転車の速度が時速20キロくらいになるように風魔法でステフ様の背中を押してみたんだけど、ステフ様はご機嫌に中庭から走り去ってしまった。
準備運動中のエミールさんとリィファさんの代わりに、ステフ様の護衛を担当していた兵士が慌てて追いかけて行くけれど
俺の魔法の有効範囲は短いから直ぐに追い付くだろう、、、と思ったらステフ様は護衛の兵士と自転車に2人乗りして戻って来た
早くも自転車を乗りこなすとか流石やな♪
「ステフ様、お帰りなさい」
「ただいま~♪自転車って凄いね!でも風が無いとあんまり速くは走れないのかな?」
「基本的には運転する人のパワーとスタミナ次第ですけど、2輪タイプならもっと速く走れますよっと、はいどうぞ」
俺は収納からスピードの出るレース用のロードバイクを取り出す。
「えっとナガクラ君、これ車輪が2個しかないけど」
「まあ不思議ですよね、これでどうやって走るんだって思いますもんね(笑)」
「でも走るんでしょ?」
「勿論です、見てて下さいね」
『チリンチリン♪』
「すっ、凄い、、、凄いよナガクラ君!私も乗りたい!」
「いきなりはちょっと難しいと思いますよ、だいたい1~2日くらい練習して乗るのが普通ですから」
「そうなの?でも乗りたいなぁ~、乗れたら気持ち良いだろうなぁ~」
「はいはい、存分にチャレンジして下さい。横に倒れるので受け身は取って下さいね」
「うん♪行くぞぉー、それっ!」
『、、、ガシャンッ』
「ステファニー様?!お怪我はありませんか!」
最初の勢いは良かったけど、案の定直ぐに自転車が倒れてしまい駆け寄って来たメイドさん達がステフ様に怪我が無いか確認している
「ありがとう怪我は無いよ。ナガクラ君が簡単に乗ってたから行けると思ったんだけどなぁ(悲)」
「1度乗れれば簡単なんですけど、コツを掴むまでに少し時間がかかりますね」
「それじゃあ今日の仕事は全部キャンセルして自転車の練習だぁ!1日で乗ってみせーる!」
おいおい、辺境伯としての仕事より自転車を優先するって、それで良いのかステフ様
まあ、良くないから執事のケーニッヒさんとメイドさん達が全力で説得してるんだろうけど
「ステフ様、残念ですけど私達はそろそろサウスビーチに向かわないと行けませんので、自転車の練習はまたの機会にお願いします。」
「えぇー!!もう行っちゃうの?」
「ゆっくりし過ぎてキャラバンシティに帰るのが遅くなると、アストレア様が心配なさるので」
「あぁ~、それはキャラバンシティというか国の平和の為にも、私からも予定通りに帰る事をお願いするよ(汗)」
なんだか凄く恐い事を言われた気がするけど、きっと俺は慣れない旅で疲れているのだろう、そうに違いない!
旅は予定通りに行動するのが1番だ!
「それじゃあ、自転車はアストレア様に許可を頂ければプレゼントしますから、練習はその時に頑張って下さい」
「やったぁー♪さっさそく姉様に手紙書くね」
無邪気に喜んでるステフ様の姿を見てると全然貴族っぽくないんだけど、腹の探りあいは俺より断然上手いんだから
改めて貴族の世界っていうのは恐ろしい所だな
そしていつのまにか、メリル、カスミ、スミレも中庭にやって来ている、相変わらずスミレはまだ寝ぼけてるみたいだけどな(笑)
「ダンナァ、こっちの準備は出来たよぉ」
準備運動をしていた4人が戻って来たか、ケイトも口調こそいつも通りだけど珍しく真剣な顔をしている
これは久しぶりにケイトの本気が見れるかもしれん♪
つづく。
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