第287話 厨房の華?

ステフ様と別れた俺はニィナと一緒に夕食の準備をしている厨房にやって来た。



「こんちゃーっす、とっつぁんいますかー?」


「誰でい!このクソ忙しい時に厨房に来やがる馬鹿はよぉ!、、、ってナガクラ様?!」


「忙しいのは承知のうえでお願いがあって来ました」


「お願い?」



俺のお願いはメイドさん達が喜びそうな料理を作って貰う事だ。


昨夜と今朝の食事メニューを見ただけでも充分過ぎる程に理解したけれど、今も忙しそうに夕食の準備に追われている厨房を見ると


生肉の塊からステーキ用の肉を切り出したり、野菜のスープを作るのに忙しそうだけど・・・


くっ!


分かってはいたけど、予想通りまた肉と野菜のスープだけのメニューか(悲)


せめて付け合わせに、茹でて塩をかけただけで良いから芋くらいは欲しい!


肉が好きなケイトとスミレでさえ既に飽きて来てるんだから、毎日食べてるメイドさん達にとって食事は、エネルギー補給をする為だけの『作業』になっているであろう事は容易に想像できる


そういう理由から早急に食事の改善が必要だと判断した。


予定では明日か明後日にはサウスビーチに向けて出発したいから、セルジオのとっつぁんに料理の基礎を教えて早く覚えて貰う必要がある!


今からセルジオのとっつぁんに作って貰うのは、豆板醤に砂糖、酒、醤油を加えて作った特製のタレで具材を煮込む鍋料理だ。


明治時代に流行した味噌で具材を煮る、すき焼きっぽい鍋料理『牛鍋』をイメージしてみたんだけど


出来上がりはチゲ鍋とすき焼きを合わせたような物になってしまった。


当時はサイコロ状の肉だったらしいけど、今回は食べやすさを重視して薄切り肉を使う。


という事で見本兼試食用に1個作って渡したら、、、



「ゴルァ!お前ら俺が試食するまで待てねぇのか!」


『ゴンッ!バシン!ボコッ!ドゴッ!』


「「「「やりやがったな!」」」」


「どうせおやっさんがひとりで全部食っちまう気だろうが!」


『ドゴォッ!』


「ぐはぁっ!てめぇ師匠に手ぇ出しやがったな!」


「料理に関しちゃ師匠も弟子もあるかぁ!皆おやっさんをやっちまえ!」


「「「「うぉーーーー!!」」」」


「てめぇら覚悟しやがれ!」


『ドッタンバッタン!ドッタンバッタン!』




うーむ、どうしてこうなった?


試食用の鍋をセルジオのとっつぁんに渡したら、周りで見てた他の料理人さん達が集まって来て殴りあいが始まってしまった


試食なんだから皆で仲良く食べようよぉ(汗)


もしやこれは口より先に手が出る江戸っ子的な、、、


ここは厨房だから喧嘩は厨房の華?



「ぎゃーー!」「いでぇー!」「ぐぇっ」「まっ、まいりまし、、た」


「便所掃除から出直して来やがれってんだ、がはははははは!おっといけねぇ、ナガクラ様には見苦しい所を見せちまいましたね」


「それは良いんですけど、皆さんは大丈夫でしょうか?」


「なぁに、いつもの事ですから気にしねぇで下せぇ。それにしてもこの『牛鍋』は旨いですねぇ♪


最初は薄切り肉なんぞ貧乏くさい真似しやがって、ガキの遊びじゃねえんだぞ!って思ってたんですがね(笑)」



ここまではっきり言われると逆に気持ち良いよ、だけどまだお楽しみが残ってるんだぜ♪



「まだ具材が残ってますけど〆(しめ)に行きましょうか」


「絞め?そこに転がってる奴等の首なら絞めて構わねぇですが」


「首は絞めちゃいかんでしょ!〆って言うのは鍋の最後のお楽しみの事です。うどんを入れて少し煮込んでから卵でとじれば出来上り♪さあどうぞ」


「この細いのがうどん、、、ふぅー、ふぅー、ずずっ、ずずーー、、もぐもぐもぐ、はぁ~♪旨い!ずずーー、ずずーー」


「あっ!おやっさん、またひとりで何か食ってるじゃねぇか(怒)」


「ちょっ、ちょっと待ったー(汗)また殴り合うつもりなら他の鍋料理も教えるつもりだったけど止めようかなぁ」


「「「「「っ?!」」」」」



「ナッ、ナガクラ様ちょいとお待ちを!あっしらはただ、、、そう!これは訓練でさぁ、ステファニー様は国境の防衛を任されてますから、いざと言う時の為に料理人も戦えないと駄目なんですよ


そうだよな、お前ら!」


「「「「勿論です!」」」」



なんだかんだで仲が良いんだったらわざわざ殴り合わんでいいでしょーよ!


はぁ~、俺は疲れたよ


さっさとレシピを渡して、疲れた心をカスミとスミレをもふもふして癒されよう♪






つづく。

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