第277話 ステファニー・フォン・アリエス
アリエス辺境伯の邸に到着した俺達は、出迎えてくれた執事のケーニッヒさんに案内されて邸の中へ、、、入らずに庭に案内された
庭には弓の的や、案山子みたいな物が幾つもあり、日頃から兵士の訓練に使われている場所だろうと思われる
普通は初対面の客人を庭に案内したりはしない、となると凄く嫌な予感が・・・(汗)
このままアリエス辺境伯に会わずに逃げた方が良いんじゃないかと考えていたら、突然場の空気が変わった
この庭に居る執事、兵士、メイドさん達の表情等は変わらないのに、あきらかに雰囲気が変わったのが分かる
「ナガクラ様、我が主が参られました。」
執事のケーニッヒさんに言われて振り向くと3人の長身の女性が歩いて来る
3人とも足が長くてスタイル抜群なうえに、ブーツを履いて騎士の正装らしき格好をしているから、いわゆる男装の麗人とか宝塚っぽい見た目と言えば分かるだろうか
3人のうち1人は短剣を腰に挿してる20歳くらいの獣人の女性。尻尾と耳の柄からヒョウかジャガーどちらかだと思うんだけど
ニコニコしてるのに目が全く笑ってないせいで、さっきから俺の足にしがみついてるスミレの耳と尻尾がぺしょんとしちゃってるんだもの
しかもあの獣人、俺の頸動脈をずっと見ている気がしてスゲー恐いです(汗)
2人目は
銀髪のショートヘアで氷のように冷たい表情なのが印象的な人族の女性。幼さの残る顔から年齢は10代にも見えるけど、ベビーフェイスなだけで30歳と言われても納得出来そうな判断に迷う見た目だ
笑えば凄く可愛いだろうに勿体無い!
腰にはショートソードと言うのかは知らないが、脇差とか小太刀くらいの長さの剣を挿してるのはまあ普通だけど
盾代りなのか左手に金属製の手甲をしているのがなんとも異様な感じがする。
そして3人目は
金髪のロングヘアを無造作に頭のうしろで纏めた爽やかな笑顔の人族の女性、年齢は20代後半かな
目が笑ってない獣人の女性とは違って、これ以上ないくらいに満面の笑顔だよ。銀髪と獣人の女性が守るように挟んでいるから、おそらくこの金髪の女性が
ステファニー・フォン・アリエス辺境伯なのだろう。
チラッと素早く左右を見ると、俺の左側に居るケイトは珍しく真剣な表情をして銀髪の女を見ている
ケイトがこんな顔をするのは珍しいな、浮島でドラゴンさんと対決した時でさえ、近所を散歩して来る時みたいな軽いノリだったのに
そして、俺の右側に居るニィナは・・・
獣人の女性を見つめて今日もとても素敵な笑顔でいらっしゃる、お互い笑顔なのに目が笑ってないから超恐い
既にお互いの護衛同士で火花バッチバチですやん!
それからですね、メリルとカスミも張り合うように相手を睨むのは止めてー(泣)
3人の女性が俺達の前に来ると、予想通り金髪の女性が1歩前に出て来た
「やあ、遠くからわざわざ来てくれてありがとう、私がステファニー・フォン・アリエス、君がナガクラ君だね?」
「はい、私がシン・ナガクラです。アリエス辺境伯の拝顔を賜り恐悦至極に存じます。」
「あれれ?姉様の手紙とはイメージが違うなぁ」
「姉様?」
「姉様じゃ分からないか、アストレア様の事だよ。アストレア様の妹のルナとは同じ歳で幼馴染なんだ、子供の頃は姉様と3人でよく一緒に遊んでたんだよ
それで姉様からの手紙には、ナガクラ君とは凄く親しい仲だって書いてたからてっきり、馬鹿な貴族は笑顔で殴り飛ばす豪胆な人かと思ってたんだけど」
待て待てー!
馬鹿な貴族を笑顔で殴り飛ばすって、それはただの暴力馬鹿やないかーい!
「とんでもございません(汗)アストレア様がどの様に私の事を手紙に書いたのかは存じませんけど、私は小心者の平民ですから」
「ふーん、、、よし!
ナガクラ君、私と勝負をしよう♪」
「え゛っ?!」
いやいやいや、ちょいとお待ちなさいよ辺境伯のお姉さん
ここは火花をバッチバチに散らしてるお互いの護衛が戦う所でしょーが!
いきなり大将戦って、せっかく盛り上がる見所を何個スルーすると思ってんねん
ニィナも『主様なら絶体勝てます!』ってキラキラした目で俺を見るんじゃありません!
「私が勝ったらナガクラ君達が着ているその服、凄く気に入ったから私にも作ってよ」
「いやいやいや、服ぐらい勝負しなくても献上しますから!それに私は剣の腕はからっかきしなんですけど」
「構わないよ、勿論手加減はするしナガクラ君の頑張り次第では、私に一太刀も入れられなくても引き分けにするからさ♪」
構わなくないよー、構ってー、そこは全力で構ってくださーい(泣)
「あのう、既に私の『勝ち』は想定されてないんですね」
「ん?、、、ふふっ、あははははは、やっぱりナガクラ君は姉様に気に入られるだけの事はあるよ♪
勝負を諦めてる奴は勝ちがどうとかなんて言わないよ、つまり君は私に本気で勝つつもりなんだからね!」
くっ!
アリエス辺境伯は脳筋体質だったか(悲)
俺は本当に剣は使えないというのに、チート能力も戦いには向いてない物ばかりなんだよなぁ
命の危険も無いこんな状況でチート能力を使う気は最初から無いけど
しかも
ニィナは相変わらずキラキラした目で俺を見ているし
ケイトはなんとなく同情してくれてるような気はするけど、メリル、カスミ、スミレは俺の勝ちを確信した顔をしているしさ
俺はみんなに言いたい、信頼と盲信は違いますよと
だがしかし!
男には、たとえ勝ち目の無い勝負であろうとも、負けの許されない時がある
今後アリエス辺境伯と何百回勝負しても俺が勝つ事は無いだろう
それでも
生涯で1度きりしかない初対面の今この時、この勝負に限れば俺に分がある!
俺は脳筋体質の奴は嫌いじゃない、普通に出会っていれば酒を酌み交わす仲にもなれたかもしれん
だけどなアリエス辺境伯
こっちの事も考えず勝負を楽しむその態度、俺は許さん!
いざ尋常に
勝負!
つづく。
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