第260話 健康診断

「会長さぁ~ん、ちょいと聞いてくださいな。あたし胸がなんだか変な感じがするんですけど、触って確めてくれないかしらぁ~?」


「えぇーと、そういうのは向こうに居るお藤さんに相談して下さい。」



「ちょっとレイチェル!抜け駆けは禁止だって昨日皆で話し合ったでしょ(怒)」


「うっせぇ!お前らが勝手に決めた事に従う理由は無いね!あたいはもう娼婦なんて嫌なんだよぉ~、下女で良いから会長さんの所に置いておくれよぉ、わぁ~~~~~~(泣)」



「すいません会長さん、いったん外に連れ出して落ち着かせますから」


「どうしても娼婦が嫌だって事なら1度ベスときちんと話し合って下さい。」


「そうします、お騒がせしました。」



レイチェルと呼ばれた女性は号泣しながら、娼婦仲間に引きずられるように無理矢理外に連れ出されてしまった


ふぅ~、疲れる


こりゃあ思った以上に前途多難だよ(汗)



先日、ベラドンナ・ステッツェンことベスと話し合い、現役娼婦の女性達に仕事を頑張って貰う為、色々と支援する事にしたので


その一環で今日は娼婦の皆さんが住む宿舎の隣にテントを建てて健康診断をしている。


医者役はお藤さん、当然だけどお藤さんに専門的な医学知識は無い。


だから基本的には世間話をしつつ仕事の悩みを聞くだけだ


健康診断をするのは俺の役目になる


待合室に居る女性達にこっそり『鑑定』をして病気の有無を確認


病気だったら、これまたこっそり回復魔法で治療して、お藤さんと話終えて帰る時に薬と称したサプリメントを渡している


そして俺の回復魔法が病気を治療出来るかの実験も兼ねていて、既に治療可能な事を確認済みだ。


そして幸いな事に娼婦特有の病気は今のところ誰も居ないけど、水虫の人が1人居たので即治療して素足で履いてた靴も回収


急遽代わりの靴と靴下を全員に渡しておいた。


侮るなかれ水虫の恐ろしさ!



あとは偏った食生活のせいだろう、貧血と便秘が多かったけどサプリメントだけで改善しそうな事には魔法での治療はしていない


魔法を使うと一瞬で症状が消えてしまうから、色々と都合が悪い。


こんな事で娼婦の仕事を頑張ってくれるようにはならないかもしれんけど、他に出来る事が思いつかん


さっき外に連れ出されたレイチェルという女性が居たように、娼婦という仕事は精神的にも肉体的にも辛い仕事なのだろう


全員転職させて別の仕事を与えるのは簡単だけど、娼婦という仕事が無くなる事は無い。


キャラバンシティには幾つか娼館があってそれぞれ縄張りみたいな物がある


ベスが娼館経営を辞めても空いた縄張りを狙って直ぐに別の誰かが娼館経営をやるだろうし待遇は今より確実に悪くなる


いくら俺にチート能力があるからって無限に助けられる訳じゃないし、孤児や貧困層の女性にとって娼婦は数少ない稼げる仕事なんだ



仮に領主代行命令で娼館を廃止したとしても


色々と溜め込んだ変態共が増えて、我が家の可愛い娘達を嫌らしい目で見られる事になるのは絶対に阻止しなければならない!


結局のところ俺が助けたいのは我が家のみんなやお世話になってる人くらいで、わざわざ他人を助ける気は無い


だから現役娼婦の皆さんには頑張って貰わねば困る!


そして俺は全力でサポートをする!


とは言え、精神が病むくらい悩んでいるなら転職も考えないといけない


仕事の『合う』『合わない』は人それぞれだから本当に難しい。


なんだかんだで娼婦の仕事が気に入って長く続けてる人もそれなりに居るんだ。



娼婦の職場環境改善案としては、布団、枕、下着、石鹸の支給


個別での客引きは禁止して娼館に受付を作って料金前払いシステムを採用。用心棒も必要だな


それとマナーの悪い客は、顔写真を撮って街の中央広場に張り出す。


娼婦への暴力行為をした野郎には、地獄への招待状(股間に唐辛子スプレー噴射)をもれなくプレゼントさせて貰う(笑)



「ちょいと邪魔するよ、健康診断は順調かい?」


「あぁベスか、いらっしゃい。順調かと問われると微妙なところだな」


「その原因は表で泣いてたレイチェルだろ?あの子は性格的に娼婦に向いて無いから」


「それが分かってるなら他の仕事を紹介してやれよ、ベスならなんとか出来るだろ」


「そいつは過大評価ってやつだね、老いぼれババアに出来る事は少ないんだよ


それにレイチェルは不器用でねぇ、水汲みをさせりゃあ毎回躓いて水をぶち撒けるし、思った事が直ぐ口から出ちまって雇い主を怒らせて何回も仕事をクビになってんのさ」


「あらら、そいつは難儀だな」


「そうなんだよ、だからあんたがなんとかしておくれ」


「俺は何でも屋じゃないんだが、、、とりあえず定期的にお藤さんに話を聞いて貰おう、愚痴を言うだけでも気持ちが楽になる事はあるからな」


「おっと、話をしてたらレイチェルが来たよ」



号泣していたからだろう、目を赤くしたレイチェルさんが戻って来た



「会長さん、さっきはすいませんでした」


「私は気にしてませんのでレイチェルさんもお気になさらず」


「はい、ありがとうございます。」


「・・・」


「・・・」



えぇーと、俺の目の前に立ったままレイチェルさんが動かないので、凄く気まずいです(汗)


ベスに助けを求めてみるが、、、


くっ!


既に他の女性と楽しげにお喋りしてやがる、ベスが街の人達から評判が悪いのは単純に失礼な態度が原因じゃないのか?


覚えていろよベス(怒)


とにかく今はこの状況を打開しなくては



「レイチェルさん、良かったらプリン食べますか?」


「、、、プリン?」


「卵で作った甘いお菓子なんですけど、甘いものは苦手ですか?」


「いっ、いえ、大好きです!」



よし!来たーーーー♪


レイチェルさんの表情がなんとなく、頭を抱えた時のミリーさんに似ていたから、お菓子を勧めてみたんだけどビンゴだぜ


収納からプリンを出してと



「レイチェルさん、はいどうぞプリンです」


「これがプリン、スンスン、良い匂い♪いただきます、あーん、、、美味しい!」


「これからは1日1個無料で甘味が食べられますよ。それと甘味屋リリーって知ってますか?プリン以外にもあそこの甘味もたまにですけど食べられますから」


「本当ですか?!あそこ値段が高くて買えなかったんですけど、、、あそこの甘味が食べられるなら、私もう少し頑張ってみます!」



ほっ


とりあえず一件落着で良かったけど、こんな解決でええんやろか?


だがしかし、今はそんな事を呑気に考えている場合では無い!


他の皆さんがレイチェルさんだけプリン食べてズルいって顔で睨んでいるんだもの(汗)




「皆さん今からプリン配りますから、並んで下さいね~」


「「「「「は~い」」」」」







プリンを食べてる皆さんはとても良い笑顔でいらっしゃる


女性の素敵な笑顔に敵うものなどありはしない!


笑顔さえあればすべて世はこともなし、ってな♪






つづく。

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