第238話 おっさんの平和な1日

《雨季10日目》



短いようで長かった雨季も今日が最終日、普通はやる事が無く暇な季節なんだけど、なんやかんやで忙しい日々だった。


今日は仕事の予定も無いので朝食を終えた俺は、ミリーさんとカスミと一緒に芋の皮剥きをしている


俺は久しぶりにカスミと一緒に作業が出来てとても楽しいのだが、ミリーさんは楽しくないんだろう


そりゃそうだ、芋の皮を剥く度にミリーさんの指に傷が増えていくんだから。それでも血が出ない程度の傷なのは成長の証だ♪



雨季の間我が家で静養する事になったミリーさんは、お藤マーマからバランスの整った食事の大切さを教えられて、自炊するように言われたらしいのだが


ミリーさんは料理がまったく出来ない事が発覚、そこでお藤マーマが包丁の使い方から教えようとしたら、、、


今思い出してもあの時は凄く大変だった(汗)


出来れば秘密にしておきたかった俺の回復魔法を、ミリーさんに全力で使ったんだから



そういう事からミリーさんは包丁の扱いに慣れる為に芋の皮剥きをしている。お藤マーマが言うには1000個も芋の皮を剥けば上手になるらしいです。


さすがに1000個は冗談としても、100個くらいは必要かなと思う




「あっ?!、、うぅ、シンく~ん(泣)」


「ミリーさん、包丁で少し指を切って血が出たくらいで泣かないで下さいよ。すぐ治しますから、回復魔法っと、、、ほら綺麗になった♪」


「ありがとう、でも血が出たら凄く痛いんだもん!」


「そりゃまあ痛いでしょうけど、、、それと何回も言いますけど、くれぐれも回復魔法の事は黙ってて下さいよ」


「うん、勿論誰にも言わない!でも回復魔法まで使えるのは驚いたけどね」


「やっぱり回復魔法は珍しいですか?」


「そうねぇ、シン君みたいに傷を完璧に治すほどの回復魔法を使える人となると、教会を管理する神殿の神官クラスになるわね


あの人達は平民は相手にしないし、シン君が治してくれた程度の傷でも大金を払わないといけないから、回復魔法を見る機会はほぼ無いのよね」



なんとなく予想はしてたけど回復魔法を使える人はやっぱ貴重だったか


しかも『神官』と『回復魔法』の組み合わせは異世界小説だと


言う事を聞かないと回復魔法を使わないと脅して、国の実権を裏で握り私腹を肥やし、国の内部がドロドロに腐敗していく


神に仕えるはずの聖職者のトップが黒幕展開ってのが定番だよな(笑)


そういう面倒事はアストレア様に頑張って貰って、俺は安全な所からひっそりと援護させて貰おう



色々考えてるうちに芋の皮剥きも終わりっと♪



「カスミ、皮剥き終わった~?」


「もう少しです、、、はい!終わりました」


「そしたらお菓子作ろうか」


「はい♪」



「ちょっ、ちょちょちょっと待って!シン君もカスミさんも行っちゃうの?まだたくさん芋残ってるけど」


「俺とカスミの分は終わったんで、残りはミリーさんのですよ。数をこなせば自然と包丁の扱いも上手くなりますから」


「それは分かるけどぉ」


「今日は新作のお菓子作るんで、それを励みに頑張って下さいよ♪そしたらカスミ行くで!」


「はい♪」





「おにいちゃんこっちは準備出来てるよ、こんな感じで良いかな?」


「どれどれ、、、オッケーバッチリだよ、そのままテーブルの真ん中に全部ブチ撒けて良いよ」


「じゃあ行くよ、それ!」



「よし!メリル、カスミ、こっから急ぐぞ!」


『シャッ、カチャ、シャッ、カチャ、シャッ、カチャ』



今俺達がしているのは、チョコレートのテンパリング作業だ


メリルが湯煎して溶かしたクーベルチュールチョコレートをテーブルに流して、ヘラを二本使ってすくっては落とし、すくっては落としを繰り返して適温まで温度を下げる


この作業でチョコレートの結晶が安定して滑らかなチョコレートになるんだとか



そして、この作業の為にスキルの「店」で大理石のテーブルも購入したんだ


大理石のテーブルならピザ生地を伸ばしたり、手打ちうどんを作るのにも使えるからな



「シン殿ぉ、こっちはそろそろ出来ますけど」


「おう、こっちもそろそろ行けるから、じゃんじゃん持ってきて」


「「はぁ~い」」


「主様、こちらも準備完了です!」


「あいよ~」



ふっふっふっ、今日作るのはみんな大好きドーナツ♪


初めて作るからみんなが大好きなのかどうかは分からんけど、甘いもの好きならドーナツも好きだろ


って事でコニーとフラニーにドーナツを作って貰ってたんだよ、砂糖をまぶしたドーナツと、チョコレートでコーティングしたドーナツの2種類を作る


チョコの方には砕いたアーモンドを乗せるのも良いな♪



ドーナツのチョココーティングはメリルとカスミに任せて、俺はもうひとつのチョコレート菓子を作ろう。


溶かしたチョコレートを直径3センチくらいになるように大理石のテーブルに垂らす、そしたらニィナが用意してくれたローストしたアーモンドとカットしたドライフルーツを乗せる


彩(いろどり)にピスタチオがあれば良い感じになるけど無くてもいいかな、チョコが固まればヘラでテーブルから剥がして完成


名前は、、、何かあった気がするけど覚えてないや(笑)



それで、さっきから俺の横でそわそわしながら作業を見ていた我が家の腹ペコ娘が2人いるのだが


しょうがないなぁ



「2人とも口開けろ~」


「「あ~」」


「ほいほいっと、スミレどうや?」


「おいちい♪」


「ダンナこれスゲェ美味しい!ドライフルーツとチョコってスゲェな!」



ははは、チョコって大抵の物に合うからな



『ドンドンドン!』


「シン殿ぉ、あなたのウェンディですよぉ~♪」



おっと、ウェンディさんが来たか、ドーナツを一緒に食べようと招待してたんだけど相変わらず元気だねぇ



「シンく~ん(泣)」


「ミリーさん芋の皮剥き終わったんですか、、、ってまた指先が傷だらけじゃないですか!」



「ねぇダンナ、もう1個食べちゃ駄目?」


「ケイトよ、味見で何個食べる気だよ」


「だってぇ(悲)」


「おにいちゃーん、チョコが足りないよぉー!」


「はーい」


『ドンドンドン!』


「シン殿ぉー♪」


「はいはい、今行きますよー!」


「シンくぅ~ん、早く傷治してよぉ(泣)」



ああっ、もう!


急に忙しくなり過ぎー(汗)



まっ、我が家のみんなと一緒なら嬉しい悲鳴というやつやから、問題無しや♪






つづく。

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