第195話 金持ちの休日
青い空、白い雲
遠くから聞こえるスミレの楽しげな声に癒されながら、ビールを一気に飲み干せばここはまさに
パラダイス♪
板塀に囲まれたそこそこ広い庭の隅には、赤、白、黄色の、、、名も知らぬ花が咲いている
あの花は、お藤さんとカスミが新しいコサージュ作りの参考にと植えた物だ
仕事熱心で頭が下がります。
今日の俺は我が家の裏庭で休日をしている
池田屋商会は、いまや押しも押されぬ大商会、そこの会長である俺は俗に言う所の大富豪らしい
実際にはほとんどの儲けを従業員の退職後の為に積み立てたり、商会の資金として蓄えてるから、会長としての収入は他の従業員より少し多いくらい
ただし
商会と関係無い俺の収入はレシピの使用料だとか、アストレア様にシャンプーや美容品の販売、ドワーフには酒の販売等々で、金銭感覚が狂うには困らない額が毎月振り込まれている
金はいくらあっても困らないからいいんだけど、困るのは大富豪になった俺は働き過ぎらしく
「もっと休んで下さい!」と従業員一同からお願いされてしまった
最初は会長の俺が率先して休まないと、他の皆が休み難いんだろうと思ったんだけど違った
俺が働くと、『池田屋商会は会長自らが必死に働かないといけないその程度の商会』と周りから見られるらしい
俺はそんな事は全く気にしないのだけど
「使えない従業員が多いと大変ですね(笑)」
などと何処かのアホ貴族に嫌味を言われては黙っていられない
ウチの従業員は超優秀なんだぞ!
なぜなら、最近俺が従業員に何か指示した事など皆無だからだ!
そんなこんなで自慢の従業員達の名誉を護るため、俺は休日をしている
周囲に俺がちゃんと休日をしている事をアピールする為に、金持ちがやってそうな休日をイメージして
パラソルを建てて椅子にふんぞり返りビールを飲んでいる
ここが我が家の裏庭の時点で金持ちの休日では無い気がするけど、これ以上はどうにも出来ん!
「「ただいま~」」
ん?
この声はニックとスナックが帰って来たか
「ニック、スナックお帰り」
「アニキただいま、、、珍しいなアニキがこんな時間に酒飲んでるなんて」
「まあこれは、休日をする仕事だからな」
「ん?休日なのに仕事なのか?」
「会長というのは、休日さえも仕事なんだよ」
「えっと、よく分かんないけど会長って大変って事?」
「正解だスナック♪賞品としてビールをあげよう」
「やったぁ♪」
「ずりーぞスナック!アニキ俺にもビールくれよ!」
「別に俺から貰わなくても、家に置いてるクーラーボックスに入ってる酒はいつも自由に飲んでるだろ?」
「それはそれだよ、無料(タダ)で貰えるもんは何でも欲しい!」
「ニックも商人らしくなってきたと喜ぶべきか迷うけどまあいいか、ほれ」
「へへっ、アニキありがと♪」
あの2人もすっかり仕事終わりのビールが欠かせなくなったな(笑)
クーラーボックスにビールとワインと氷を入れて冷やしたのを置いて、自由に飲めるようにした影響もあるだろうけど
「おにいちゃーん、ちゃんと休日してる~?」
おっと、メリルが様子を見に来たか、休んでるかどうかを確認されるって変な感じだよな
「言われなくてもちゃ~んと休日してますよ~、メリルも副会長として休日しないとな、座ってワインでも飲みなよ」
「むぅ、、、じゃありんごのやつがいい」
「りんご、、、ああシードルか、ほら」
俺が収納からりんごのシードルを取り出してメリルに渡すと、多少機嫌も直ったかな?
メリルもほっとくとずっと仕事してるからな、今日は俺と一緒に休日にしたら機嫌が悪かったんだよ(汗)
「ご主人様ピザが焼けたので持ってきました、でも、、、」
ドワーフの皆さんにお土産に持って行く前に、試しに焼いていたピザをカスミが持って来てくれたのだが
「あぁ~、生地のフチが少し焦げちゃったか」
「はい、チーズに焼き目を付けようとしたら先に焦げてしまって」
焦がした事を気にしてなのか、カスミの耳がぺしょんとしてしまった、気にするなって言っても余計に気にしちゃうだろうしなぁ
「次はオーブンの温度を少し下げて、生地も厚くしてみようか
カスミ、ドワーフの皆さんの為にも色々試して美味しいピザ作れるように、期待してるで♪」
「はい!」
ぺしょんとしたカスミの耳はまだ元に戻ってはいないけど、こういう時は余計な事を考える暇が無いくらいに何かをしてる方が良いと思う
今はとにかくピザを焼きまくって上達するしかない
ファイトやでカスミ!
「なぁアニキ、それって新しいクレープか?」
「これはピザって言うんだけど、種類としては薄いパンだな、これは試作だからトマトソースとチーズしか乗せて無いけど、好きな具材を乗せて焼いても旨いぞ
せっかくだからニックとスナックも試食してけよ、メリルも入れて4等分にカットしてと、ほら」
「「「いただきまーす♪」」」
俺も、あーんっと、、、もぐもぐ、やっぱ自分で作った物は何でも旨いな!
少し焦げたフチもパリパリしてて悪くない
「ねぇおにいちゃん、ピザはこの街の新しい名物に絶対なるよ!だから売っちゃ駄目?」
来たか!
この展開もさすがに慣れて来たよ、メリルは新しい物は積極的に売りたい派だからな
「メリル残念だけど、現在池田屋商会に1度に沢山ピザを焼ける窯は無いんだ
こども園の窯は今もフル稼働中で余裕が無いし、露店で売るにしてもピザは食べ歩きに不向きだからね」
「むぅ」
メリルさん、これは仕方無いです。露店でピザは焼けないし解決せねばならない問題が多すぎて無理っす。
「このピザってスゲェ旨いけど、歩きながらはアニキの言うように食べにくいよな、露店で売るにしても重ねて置くとソースがべちゃっとなるから考えないといけないし、薄くて早く焼けそうだから窯から目を離せなくて手間がかかりそうだな」
「おお!初めてピザ食べてそこまで分かるとはやるじゃないかニック♪」
「俺なんか全然だよ、本店のスージィーさんは、いつもは料理担当してねぇのに俺よりクレープ焼くの上手いし
マックスさんも俺より新しいクレープのアイデア沢山あるしさ」
へぇ~、知らんかったなぁ、スージィーもマックスも普段は穀物の仕入れと販売を担当してるからな、定期的に職場を移動させて新たな才能の発掘も検討するべきか
「ねぇおにいちゃん、とりあえずピザは諦めるけど食べ物と関係無い事だったらやっていい?」
「どんな事やりたいの?」
「この街の名物になって、街の皆から感謝されて、おにいちゃんは面倒くさい事はあんまりしなくて良い事♪」
なんと?!
そんな都合の良い事だらけの事が存在するのか?
でも、やる気に満ちたメリルのキラキラした笑顔をみちゃうとこれはもう全力で
やるっきゃない!
つづく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。