第147話 ニック覚醒

「アニキ!聞いてるのかよ?」


「おっおう、勿論聞いてるぞ、チーズとマヨネーズは他に種類は無いのか?だったな、ほれ『ドサドサ』」



俺は収納から、カッテージチーズ、リコッタチーズ、タルタルソース、カラシマヨネーズをテーブルに出していく



「わっ?!スゲェやっぱ色んな種類があるんだな!」


「それにしてもチーズとマヨネーズが1種類だけじゃないってよく気付いたな」


「アニキが言ってたろ、自分で考える事を止めるなって、だから俺スゲェ考えたんだ、それで違う味のがあれば色んな料理に使えるんじゃないかって


それにアニキが持って来る物はスゲェのばかりだから、俺が考えつく事なら既にあると思ったんだ」


「へぇー、ちゃんと考えてんだな」


「俺だってがく、、がしゅ、、、えっと学習してるんだぜ!」



少し照れながらも胸を張るニックを見て、ほっこりした気分になった俺はチーズを口に放り込みワインを流し込む



俺は今、我が家の厨房でワインを飲みながらニックの話を聞いている


基本的にはニックが一方的に話すのを聞き、たまにされる質問に答えるのだが、何故このような状況になったのかはおよそ1時間前に遡る




ーーーーー1時間前ーーーーー




さて、飯も食って満腹だし裏庭を散歩でもするかな


おや?


あれはニックか、なんかスゲェ落ち込んでるっぽいけど失恋でもしたか?



「お~いニックー、とぼとぼ歩いてどうした?」


「アニキか、なぁアニキ教えて欲しい事があるんだ、街の飯屋で旨い料理は食えないのか?」



なんのこっちゃ?



ニックから詳しく聞いた所、クレープ屋は日暮れ前に営業が終わるのだが、最近日暮れが早くなった為に自然とクレープ屋も早く終わる


時間が余って暇になったニックは、金に余裕があったのもあり、ちょっとした贅沢のつもりで街の飯屋で夕食を食べる事にした


頼んだのは、ワイン、オムレツ、煮豚、パン


これらを食べた結果、オムレツにかかっていたトマトソースとパンはそれなりに美味しかったが、


オムレツは焼き過ぎて焦げる寸前、煮豚は塩水で煮ただけでしょっぱくてパッサパサ、ワインは超酸っぱくて激マズだったらしい


トマトソースとパンはおそらく俺が登録したレシピで作った物だろうな(笑)



ニック曰く、金を出せば旨いもんが食えると思っていたのに超マズくてがっかり



ニックとスナックは孤児院を出てからほぼ野宿生活をしてて、店で飯を食べるなんて贅沢は出来なかったらしい


我が家の裏庭に住み始めてからも、商会の本店でご飯を食べたり、我が家の料理をお裾分けしたりしてたから今まで店に行く必要が無かった


さすがに我が家の料理が旨いのは特別な事だと分かっていたけど、本店で食べる料理よりは旨いもんが食えると思っていたらしい


本店にも様々な調味料はあるのだが、普段作る料理で使うのは、街の飯屋と同様にほぼ塩のみにしている


ただし、豚骨や鶏ガラスープ、干したキノコで出汁をとったりしてるから街の飯屋と比べるのは可哀相だろう


しかも俺やカスミが日々料理の指導をしているからクオリティーはかなり高い、豚骨スープはアストレア様も驚いていたからな


「骨から美味しいスープが出来るなんて・・・」と言ってしばらくフリーズしていたくらいだ、最初に骨を煮てスープを作った人は天才だと思う



そんな料理に慣れたら街の飯屋の料理はマズいというか味気無いだろうな




「ニックそんなに落ち込むなよ、俺がレシピを登録する前はもっとマズかったって聞くぜ、とりあえず口直しにチーズ食べてワイン飲め」


「うん、いただきます、んぐんぐ・・・

なんじゃこりゃーー!!アニキ!何だよこれ?」


「何ってワインだろ」


「ワインってこんなに旨いのか?!じゃあ飯屋で飲んだワインはなんなんだよ?あれがワインならこれはワインじゃねぇ!」



そう言われても困るんだけどなぁ(汗)



「とりあえずチーズ食え、トマトと食べると旨いぞ」



この時俺は何も考えずモッツァレラチーズを出していた、おそらくこれがニックの中にある何かしらのスイッチを押したのだろう



「いただきます、『もぐもぐもぐ』・・・」


「ニック?」


「アニキ!!」




ここからはもう怒涛の展開だった


そもそもチーズって何だ?


から始まり新しいメニューのアイデアを嬉しそうに話し出した。


試作品が微妙で落ち込んだとか、男と女で好みが違って難しいとか


こんな感じで小一時間俺はニックの話を聞く事になり



ーーーーーーーーーーーーー



そして現在


ニックは我が家の厨房で何か作り始めた


「アニキ出来たぞ!食べてみてよ」


ニックが作って持ってきたのは、半月状のトルティーヤっぽい生地をパカッと開いた中に、ベーコン、角切りトマト、キュウリ、クリームチーズ、カラシマヨネーズを挟んだ物だった


食感を考えてか、キュウリを入れてるのが工夫を感じさせるじゃないか♪


「いただきまーす、『もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ』旨い♪


ちなみにチーズは熱してとろけさせても旨いぞ『ボォーー』」


俺は指先から出した火でモッツァレラチーズをとろとろにしてニックの持ってるトルティーヤにかけてやる



「おおっ!あーん、『もぐもぐもぐもぐもぐ』ふふっ、あははははは、やっぱアニキはスゲェや、これスナックとアンさんにも食べさせて来るよ♪」



そう言うとニックはトルティーヤを抱えて走って行ってしまった


ニックにはもう少し世間の常識というものを教えてやる必要がありそうだけど、楽しく仕事をしてるみたいで良かったよ







そういえば、俺が池田屋商会にスカウトしたあの双子の兄妹は元気だろうか、あれからしばらく経つけどまだ来ないのかな?


もしかしたら俺が渡した金を持って逃げたかもしれない、でもそういうのはある程度覚悟していたし



女の裏切りはアクセサリーみたいなものだって誰かが言ってたから怒りは無い



男の裏切りは・・・



絶対に裏切らない事をお薦めする(笑)






つづく。

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