第109話 剣士ケイト

「ケイト、全速力は危ないからほどほどの速度で行ってくれ」


「あいよぉ~」




俺達は現在、サウスビーチからキャラバンシティに繋がる街道を、電動アシスト付きトゥクトゥク風自転車で疾走中だ


およそ1週間の旅だったけど色々あったなぁ、楽しかったけど俺は我が家でまったりしてる方がいいや


頑張ればキャラバンシティには1日で着くけど、無理しても危険だからキャラバンシティには明日到着予定だ




新たな仲間、熊耳さん改め『お藤さん』も一緒に荷台に乗って、メリル、カスミ、スミレとなにやら楽しげに話をしていて既に馴染んでるみたいで良かった


俺もお藤さんと軽く話したんだけど、どうやらお藤さんは電動アシスト付き自転車を知らないみたいだった


この自転車に色々付いてる物は魔道具って説明したらすぐに納得してくれた、リアルに魔法がある世界だから当然か


電動アシスト付き自転車を知らないって事は元世界だと、昭和一桁生まれの可能性もあるか?流石に明治産まれではないよな?


お藤さんに農業の知識とかあるといいなぁ、色々栽培出来れば商売の幅が広がるんだけどな






天気は快晴、旅も順調


たまにすれ違う人達は、トゥクトゥク風自転車をチラッと見てはくるけど、それほど興味は無いみたいで騒ぎにならないのはいいけど


この世界の人達の価値観はよく分からんな




「ねぇダンナァ、そろそろお昼ご飯の時間じゃない?お腹空いたよぉ」


「もうそんな時間か、それじゃあ適当に開けてる場所に停めてくれ、飯にしよう」


「は~い♪」




昼飯はハマグリとサウスエビをメインにしたバーベキューだ


ハマグリはまだ生きてて収納に入らないから、食べて少し減らしたいという思惑もあったりする(笑)



「そういえば、お藤さんはサウスビーチの人達に魚や貝を広めようとはしなかったんですか?」


「それは勿論考えたわよ、でも魚って種類によっては毒があったり寄生虫がいるでしょ、私には詳しい知識も無いし、もし私が教えて魚や貝を食べて具合の悪くなる人が出れば奴隷落ちも有り得るから」


「あぁ~、確かにたまに間違って毒がある部分を食べて亡くなる人居ましたからね」


「そうなの、だから石集めが趣味って事にしてこっそり貝を拾って食べてたのよ、でも塩しかないから飽きちゃって(笑)だからシンさんが色んな調味料を持ってて嬉しいわ♪」




未だにお藤さんが信用出来るか分からんけど、スキルの「店」で買った調味料なんかは遠慮なく見せている


当然どうやって入手しているのか普通なら気になるだろう、だが俺はピスケス伯爵家の御用商会の会長だ


貴族を通して入手しているという言い訳が出来るんだ、まさかここで貴族の御用商会である事が役立つとは


調味料はそのうち本当に作る予定だ、砂糖はこの世界にもあるから、味噌と醤油はどうにかしたい



さてバーベキューなんだけど、ハマグリはそのまま焼けばいいけど、サウスエビは大き過ぎてそのままだと焼けないよな



「なぁケイト、このサウスエビ真ん中からスパッと切れないか?」


「ん~、『コツコツ』うん!いけそうだよ、ダンナ、サウスエビの足を持って動かないでよ」


「え?」



包丁の柄でサウスエビの殻を叩いて堅さを確認したケイトは、俺にサウスエビを持たせて正面に立ち、その手には包丁が握られている



待て待て待て!!


俺は普通にサウスエビを切って欲しいだけだ!



「セイ!」


『スパッ』


「うぉい!びっくりさせるなよ、でもサウスエビは綺麗に真っ二つだな」


「あははは、サウスエビは思ったより殻が堅そうだったから許してよ」



そう言われてサウスエビを見ると、元世界の伊勢海老と比べてもかなり分厚い殻だ


でもデカいから殻が分厚くても充分な量の身が詰まってる


半分焼いて、もう半分を刺身にしても、みんなで分けられる量があるからな




「ご主人様!何かがこっちに走って来ます!!」



サウスエビの焼け具合を確認していると、突然カスミが叫んだ


急いでカスミを見ると、いつもは少し垂れている耳がピンと伸びてピコピコ動いている


カスミの耳があんな状態になるのは珍しい



「カスミ、何が来るかなんとなくでも分からないか?」


「4本足で走ってるのは音で分かるんですけど」



森から来るんだから魔物か?


呑気にそんな事を考えている場合じゃ無い、俺はみんなにこっそり自動回復の魔法をかける、これで死ぬ事は無いはずだ


次に、収納から2m程の高さがある岩を取り出すとその陰にみんなで隠れる


この岩は収納スキルの性能を確認する為になんとなく収納に入れた物だ、入れっぱなしにしてて良かったぜ



「来た!ダンナここは任せてよ♪」


「おいおいマジかよ、何が来るのか知らんけど、酔っ払った馬鹿な冒険者を殴りに行くみたいに気軽に言われても困るぞ!」


「主様、ケイト殿に任せて問題ありません」


「そう言われてもなぁ」



『ドドドドドドドドドドドドドドド』


うぉい!


なんか来る、地響きするってどんだけデカい奴なんだ?!


ケイトは本当に大丈夫なのか?



俺は岩陰からそっと森を見る、、、


見えた!やはりデカい!


あれはイノシシか?


俺達が隠れてる岩と同じくらいありそうだ


するとケイトがイノシシに向かって走り出した!


ケイトの武器は細身の長剣、どう考えてもあのイノシシ相手じゃ無理だろ!


そう思った瞬間、ケイトが剣に手をかけた、俺が見えたのはそこまでだった


『ヒュヒュン』


「ブモォーーーーーーーー!!」



ケイトとイノシシが交差した瞬間、何か音が聞こえたと思ったら、イノシシがこっちに向かって突進してきた



「ヤバい!みんな伏せろ!!」


『ドッゴォーーーーーーーーン!!』






つづく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る