第31話 『雨』それは酒の肴

雨の日は基本的に休むのが普通のこの世界、それでも仕事をしている人はいる


蓄えの無い冒険者や納品期限が迫っている商人達だ。





門兵に差し入れをして広場に戻ってきた俺は、テントの前にナイフとフォークが交差したのと、ジョッキの絵が書かれた看板を置く


識字率が低いこの世界では看板の絵でどういう店かを分かるようにしている、ナイフとフォークは食事、ジョッキは酒を意味している


特に酒の看板は重要だ


ケイトに聞いたところ酒場には異常に酸っぱいワインとぬるいエールしかなく超不味い酒しかないらしけど、そんな酒でも仕事終わりの一杯という習慣はあるらしい



そこでたまたま手に入った珍しい酒という事にして、日本酒を売ってみる事にした


日本酒をそのまま売るのではなく、おでんの出汁を入れて出汁割り酒にする


元世界で、おでんの屋台に行った時にカップ酒を半分くらい飲んでから、おでんの出汁を入れてもらい、日本酒の出汁割りにして飲んだ事があるんだ


お好みで一味唐辛子を入れても旨かった♪



今から街に入る奴等は雨に濡れて身体が冷えてるだろうから、温かい出汁割り酒は身体に染みるだろう






ちょうど四人組の冒険者が街の外から帰って来て、小走りでこちらにやってくるのが見えた


目的は恐らく雨風を凌げるように作った飲食用のテントだろう、雨に打たれ続けるのはしんどいだろうからな



「みなさん雨の中お疲れ様です。よかったらおでんどうですか?温まりますよ」


「マジで疲れたぜ装備を新調したばかりで金が無くてさ」


「そうそう、じゃなきゃ雨なのに依頼なんか受けないよ、でも報酬は弾んでくれたから良いけどね」


「それよりこれ珍しい天幕だな、立ったまま入れるなんて」



「それよりそっちのおでん?だったか不思議な匂いだけど旨そうだな、あんま金無いんだけど幾らなんだ?」


「そうですねぇ、今日は特別に好きな具5個で銅貨1枚でいかがでしょうか?」


「マジか?!安過ぎねぇか?」


「雨の日特別価格って事で、女神様に感謝して下さい」


「あははははは、そりゃあ良い!女神様に感謝を」


「「「女神様に感謝を」」」



おおっ!冒険者の皆が声を揃えて唱和している、外国の映画っぽい!こういうノリ好きだなぁ♪



「皆さんおでんはこのジョッキに好きな具を入れて下さい、スープも好きなだけ入れて構わないですけど、残さない量にして下さいね」


「よぉーし食うぞぉ、あぢ!ハフハフあちち、旨い!ハフハフ、」



熱いものを食うときハフハフするのは異世界でも同じなんだな


冒険者の皆はハフハフしながらもバクバク食べている



「皆さん酒もどうですか?今日は冷えるんで特別に温かい酒を用意してるんです」


「温かい酒って珍しいな、それ貰おう」


「スープは、、、まだ残ってますね、そこに酒入れますから動かさないで下さいよ」



「おいおい、スープに酒入れるのは勿体無ぇよ」


「まあまあ、文句は飲んでからですよ」


「そりゃあ飲むけどよぉ、、、んぐんぐ?!くはぁーーーー!!ウメェ!!マジでこれが酒なんか?」


「くぅーーーー!旨い!リーダーこれは間違いなく酒だぜ、喉を焼く感覚もあるし、それにリッチの顔を見てくれよ赤くなってる」


リッチと呼ばれた男は酒をひと口飲んだだけで既にほんのり顔が赤くなっている


「ちょっとお客さん大丈夫ですか?」


「ああ、心配ないぜリッチは直ぐ赤くなるが酒はイケる口なんだ」




「おーい、仕事終わったから来たぜ」


そこに差し入れをした時にいた門兵がやってきた


「ロブさんじゃないっすか、お疲れ様っす」


「おぅ!お前らもここで飲んでんのか」


「そうなんす、この酒がスゲェー旨いんすよ」


「そりゃ楽しみだ、旦那!俺にも酒」


「はいよー、ちょいとお待ちを、、、はい特製出汁割り酒お待ち」


「ん?へぇスープと混ぜてんのか、んぐんぐ、、、くぅーーーーー!なんだこのウメェ酒は?!」


「ロブさん旨いでしょ?これは女神様に感謝する旨さなんすよ」


「確かにこの旨さなら納得だな、女神様に感謝を」


「「「「女神様に感謝を」」」」



それから冒険者たちは、金が無いなんて言ってたがそれなりに酒を飲みほろ酔いで帰って行った


スキルの「店」で2リットル5mpの激安日本酒だったが売れるな、そのうち隠れ家バーみたいなのしても面白そうだ




「よし、そろそろ店仕舞いして帰るか」


「ダンナァ、夕食の後に生キャラメル忘れないでくれよな」


「ふふっ、ケイトは甘いもの好きだよね♪」


「心配しなくても分かってるって」



あぶねぇすっかり忘れてたわ!


とりあえずスキルの「店」で10キロほど買っとくか





(主様、夕食の後に二人だけでお話があります。)



家に帰る途中でニィナが他の二人に聞こえないように耳元で囁いてきた



なんだろう?気になるがここで聞く訳にもいかない


俺に出来るのは、新たな異世界テンプレでないのを祈るのみだ






つづく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る