第27話 とにかくおかしい ③
あいつはアホだ。
底抜けのアホだ。
夜の8時過ぎ、仕事を終えた俺は更衣室に向かっている途中で、思わず足を止めて、廊下の向こう側から聞こえてくる言葉に聞き耳を立ててしまった。
「脳外科病棟の新人の話聞いた?」
「ああ、夢を見るとかいうやつだろ?」
「三人の男に姦されているとか?」
「田辺、お前の顔があがっちゃってるらしいじゃん」
「後は、特殊な痣がある男だろ?」
「いや、それ、所詮夢だから」
「だけどさ、初七日過ぎたあたりから、首吊り場面を見るようになってるんだろ?」
「いやいや、証拠ないし」
「そういうんじゃなくて、超うざくない?こっちが移動するまで大人しく黙っとけって思わない?」
「それは思うね」
「それでさ、いつもの手を使ったらいいと思うんだけど」
「でも、あの娘、実家でしょ?」
「だから夜勤に入ってる最中に」
「そりゃヤバいでしょ?」
「いやでも、大概、動画を撮れば言うこと聞くし、万が一、言う事聞かなくても、あっちが誘ったって言えば事は丸く収まるし」
「でもなぁ」
「経営側も、看護師よりも医者を大事にするのは当たり前のことだし、表沙汰になっても困るのは病院側もだし」
「隠蔽体質を使ってやってのけてるお前、マジですげえわ」
「看護師なんて所詮、性を発散する道具だろ?」
「ゲス発言」
「でも同意」
「邪魔な奴は潰すのは、これは正義でしょ」
「そうな」
「それはそう思うわ」
とにかくおかしいこの会話、どこの不良が話しているのかと思いきや、これ、30オーバーの立派な大人が話している内容だろ?
患者さんの前では紳士ぶって喋ってんの知ってるぞ?
上司にペコペコ頭を下げているのも知ってるぞ?
なのに、自分たちだけになるとこれか、うわー、録音しておけば良かったーって。まあ、録音できるものなんて何も持っていやしないけど。
夜中で無人となった検査室の前で、仲良く喋りながら廊下を移動していく同期の医者どもの後ろ姿を見送りながら、俺は思わず唸り声をあげる。
宮脇咲良!!あいつ、夢の話は職場でするなって言っているのに!!
何をペラペラと話しているんだ?
命知らずにも程があるだろうーー〜!!!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます