第26話  とにかくおかしい ②

「宮脇さん、顔色悪いけど大丈夫?」

「はあ・・なんだか最近、よく眠れなくて・・・」


「岡田さんの事は、私も本当に残念に思ってる。その後の対応について頭に来ることも多いけど、仕方がないって思うしかないよ」


 遥香が自殺してから七日が経過していた。

 唯一、私の事を気にかけてくれる看護師の渡部先輩は、困り果てた様子で私の方を見た。


 今は深夜勤務中、患者さんの容態も安定していて、静かな夜となっていた。

 信じられないことに、遥香はドアノブに紐を吊るして首を括ったらしい。

 昔、有名なギタリストがその方法で自殺をしたらしいんだけど、ドアノブ?ドアノブに紐を?


「実は夢見が悪くて良く眠れないんです」

「どんな夢を見るわけ?」

「整形外科の田辺先生が出てくるんです」

「えーー?田辺先生?」


 ひょろひょろと背が高い先生で、患者さんから人気があるとも言われている先生だ。


「あー〜!あの話を聞いたんでしょー〜!」

 先輩はニヤニヤしながら私の顔を見る。


「新人看護師ちゃんが『先生!先生!この患者さん!なんだか変なんです!』って言いながらナースステーションに飛び込んできたから、田辺先生が様子を見に行ったんだけど『お前が発見したのは真性包茎だ!』とか言い出して、職場に爆笑を誘ったっていうあれ!」


 一体なんの話だろうか?

 無茶苦茶くだらねー〜


「いや、そうじゃ無いんですよ」

 ウケを狙ったのに思った反応と違った先輩は、小さなため息を吐き出した。


「じゃあ、どんな夢を見たって言うのよ?」

「遥香が亡くなってから毎晩見るんですけどね?」

「やだなにそれ怖い」


「三人の男に襲われる夢なんです」

「やだわ、欲求不満?」


「つけている時計が、遥香がいつもつけていた腕時計で」

「想像力が豊かなのね」


「多分、薬を盛られたんだと思うんです。まず一人目が田辺先生で、二人目は馬みたいな形の痣がある男、三人目も夢を見ていったらわかるかな〜―と思っているんですけど、とにかく気分が悪いんです」

「・・・・・」


「すごい笑われてて、動画とか撮られてて」

 先輩の顔色がどんどんと悪くなる。

「それで昨日、見た夢が、本当に最悪で」


 先輩の唾を飲み込む音が響き渡った。


「何か、紐のようなものを首に巻きつけられて、足を引っ張られているんですよ。カーテンレールだと重みで壊れちゃう〜とか言っていて、複数画面?わかんないですけど、動画で見てる人とかもいて」


「まさか・・殺しているところを生配信・・・」

「そんな事をしていたら、流石に警察も捜査に入っていると思うんですよね?」

「それで?」


「ペディキュアを塗った自分の足が見えたところで目が覚めたんです」

「宮脇さん、あなた自身はペディキュアをしてるの?」

「してないです」

「そうよね、色気もへったくれも無いものね」


 先輩は酷い事を言いながら何度も浅い息を繰り返すと、自分の胸を二、三度叩いて、

「それってね、本当に夢じゃなかったらやばくない?」

と、言い出した。


「いや、夢じゃ無いならなんなんですか?」

「岡田さんが見せている的な?」

「夢を?」

「そうそう!」


 ちなみに、同じような夢を2回見た時点で、霊感高めの横山理奈には相談したのだけれど、

「・・・・・」

 理奈は私の左斜め上を見ながら、無言を貫いた。


 今のところ、自殺という事で捜査は打ち切られるかもとかなんとか。

 お通夜も葬式も終わっちゃったし、寮の荷物も家族が片付けて、今は空き室状態となっている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る