第19話 鉄串先輩 ④
病院で働くようになって思うけど、ストレス過多で、休む暇もなく、患者の命を守るという責任を何十人分と背負わされるという看護師の世界って大変だよな。
技師で本当に良かったと思うこと、結構あると俺は思う。
到底高いとは言えない給料を貰いながら、使い潰すのを前提としたような雇用形態に嫌気がさしてしまえば、『結婚』→『寿退社』→『安定した生活』を求める看護師さんが、兎にも角にもめちゃくちゃ多い。
酷く疲れ果てている、承認欲求、性的欲求高めの女子がゴロゴロ転がっていたら、一発お相手してやっても良いだろうと思う輩は有象無象に存在するわけで・・
親密な交際からの、結婚、安定した生活を求めているというのに、相手にしている男の方は、まあ、そんな事は全然考えていやしないよな。一縷の望みに賭ける女は山のようにいるものだから、今のICUなんかは、十四人に一人の医師が手を出しただの、夜勤につく時には貞操の危機を感じる事になるだのと、二大派閥が出来ているから息苦しいとか、常軌を逸した状態が普通になってしまっているんだよな。
「あーー、鉄串先輩、お疲れ様ですー〜―」
患者を検査室に届けた帰りと思われる、後輩である宮脇の同期の看護師である横山理奈が、酷く冷めた眼差しで俺を見ながらエレベーターを待つ俺の隣に並んだ。
「なんでお前まで俺のことを鉄串と呼ぶんだ・・・」
「だって、鉄串先輩は鉄串先輩じゃないですかー〜」
明らかに嫌がらせ目的で俺を呼ぶ横山理奈は、エレベーターの扉が開くと同時に顔を真っ青にさせて、一歩後ろに後ずさった。
エレベーターには噂のICUで看護師を食い散らかしまくっている古谷医師がいて、
「乗らないのー?」
と、呑気な調子で問いかけてくる。
「あ、用事を思い出したんで・・・上に行ってもらっても大丈夫ですー〜」
「そおー?」
エレベーターの扉が閉まるのを確認すると、鼻を摘んで顔を顰める横山理奈を見下ろして問いかける。
「何?何かあったの?」
すると横山理奈は、真っ青な顔でとんでもない事を言い出した。
「古谷先生っていっつも女の生き霊を引き連れて歩いているんだけど、今日は物凄い悪臭を撒き散らす、水に濡れてお腹がブックリと膨らんだ、ぐずぐずに腐りまくってる死霊が憑いていて、あわわわわわ、水死体はやばいって、吐きそうになったー〜」
なんだって?
「先生にふられて、ダムから投身自殺しちゃったのねー〜、あんな奴のために思い詰めて死ぬこともないと思うのに〜―」
はあああ?
「まさか!お前!あれか!宮脇が言っていた!長谷川先生の後ろに十二人の死霊がいるとか言い出したという!霊感高めの同期っていうのはお前なのか!」
俺は思わず頭を抱えた。
「脳天に鉄串が刺さったような衝撃だーー〜!死霊とかそんなもん!俺は知りたくもないし!気にしたくもないのに!これから古谷先生と話す時には、後ろに水死体の死霊が憑いていると想像しちまうじゃねえか!」
「うわ!本当に鉄串とか言ってる!」
「うるせーーー〜!」
ホラー話はもう散々!と思いながらも、田野倉先輩に古谷先生の死霊については、申し送りしなくちゃな〜と俺は考えていた。
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本当ーに不思議なんですけど、何処の病院に行っても霊感高めの看護師さんが居て、あのお医者さんの後ろには霊体何人、あのお医者さんの後ろには霊体何人なんて話をしているんですよね。この業界、霊感高めな人が多いのかなーと思います。
ちなみに、I C Uで一人の医師が十四人と関係を持って(本当は二十人と関係を持っていた)その人たちが二人のトップにして二つの派閥に割れて、やれ、どちらの方が先生の寵愛を受けているのだとか、何だとか、正気じゃないやり取りが実際にうん十年前にはあったんですよね。大奥か!!とも思いますとも。
「万が一にもI C Uの夜勤につくことがあったらパンツの中に手を突っ込まれないように気をつけろ!」と、先輩に言われたことがありますが、
「どういうこと?」ですよ。そういえば、最近、千葉の病院でセクハラ(臀部を触った)ということで七人看護師も被害の声をあげて、お医者さんが依願退職されたそうなんですけども。え?お尻を触っただけで?他にも余罪があるのでは?と勘繰ると共に、時代は変わったな〜と思います。
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